ドイツに学ぶ「殺処分ゼロ」への道筋

 

 ピースワンコ・ジャパンにはこの4月以降、新人スタッフが5人加わった。動物系の専門学校や大学で学んだ者が多いが、ここでの仕事に彼らの「常識」は通用しないことが多い。ピースワンコの施設運営の手本がドイツにあるからだ。「殺処分ゼロ」を実現しているドイツは、動物福祉先進国の一つとして知られ、日本とはかなり状況が違う。
 
 今週も、広島県呉市出身でドイツ在住の獣医師、アルシャー京子さんを招き、新人を中心としたスタッフの研修をお願いしている。このサイトの読者にはおなじみだと思うが、アルシャーさんはドッグジャーナリストとして、犬との付き合い方やドイツのペット事情などを幅広く発信している。研修の定番メニューの一つが、ドイツ流の「飼い主テスト」。犬が発するサインの見分け方、さまざまな場面に応じた飼い主の適切な対応などを理論と実技の両面から評価するもので、75%以上正解すれば合格だが、最初から合格ラインに達する者はほとんどいない。
 
 犬の保護に本格的に乗り出そうと考えたとき、私がまず疑問を感じたのが、犬の飼育に関する日本のスタンダードだ。狭いケージに押し込め、運動といえば一日に何十分かの散歩だけ。自分が犬の立場なら、ひどいストレスだと思うのだが、「専門家」であるはずのトレーナーたちは、そのやり方に何の違和感も抱いていないようだった。

 
 自分の感覚がおかしいのか? それを確かめるため、私は3年前、ドイツの民間による動物保護施設「ティアハイム」へと、妻と一緒に見学に行った。そこには、広々とした個室の犬舎や、自由に走れるドッグランがあり、犬の行動学や病理学などの専門知識をもった「動物飼養士」が、犬にとって何が最善かを考え抜いて世話をしていた。町を歩いていても、きちんとしつけられた犬が電車の中にも商店にも伴われ、まさに犬が社会に溶け込んでいた。日本でもこんな姿を目指すべきだ、と私は思った。
 

 

 翌年春に新築したピースワンコの犬舎は、ドイツの法律が定める基準にのっとって建てた。一区画あたり2m×3mの広さがあり、冷暖房完備。床には滑りにくいタイルを張り、採光にも配慮している。部屋の外には犬が自由に出入りできる庭もある。もちろん施設だけではなく、飼育についての考え方も参考にしている。
 
 日本の現状はドイツとあまりに違い、掲げた目標に向かっていくことは簡単ではない。それでも「すべては犬のために」の精神を見習うことが、「殺処分ゼロ」への近道だと考えている。

 
Sippoオリジナル記事はこちらから

いいなと思ったらシェア

おすすめ記事

  • 保護犬を家族に迎える文化を。官民一体で「殺処分ゼロ」へ!

    ピースワンコは広島県の要請のもと、往復4時間かけて定期的に動物愛護センターへ通い、殺処分対象の犬たちを引き出しています。愛護センターは飼育放棄犬や野犬で溢れかえっており、私たちは怖がりな野犬や咬傷犬など、愛護センターでの […]
  • 終(つい)の住処になるー終生預かりボランティア制度ー

    預かるという選択 ピースワンコに在籍する、約2500頭の保護犬。 その中には、シニアや持病のあるワンコも含まれている。 人に慣れ、体調管理をしてもらいながら、穏やかに暮らす犬たち。 そういった子たちは、人が好きなワンコで […]
  • 【遺贈寄付】故人の想いが込められた浜松譲渡センター

    ひとりからみんなで イギリスの音楽家のジョン・レノンは 「ひとりで見る夢はただの夢、みんなで見る夢は現実になる」という言葉を残した。 今回は、まさに彼の名言を体現したような話を綴りたい。 ピースワンコ・ジャパンは、全国で […]
  • 保護犬を迎えて 片桐家の「ちゃこ」と「はな」

    スイートホーム 芸人、俳優、造形作家と、多彩に活躍する片桐仁さん。2頭の保護犬と共に暮らす愛犬家としての一面も、そんな片桐さんのもう一つの顔だ。保護犬を我が家に迎えること。自分たちが、その子にとっての帰る場所になること。 […]
  • 手のひらと肉球をつなぐもの

    春雷と愛犬   春雷、という言葉がある。 春の到来を伝える雷ともいわれ、 雷鳴に驚き、冬眠していた地中の虫たちが目ざめるという理由で「虫出しの雷」という呼び名もあるそうだ。 なにかがはじまるような雰囲気で、嫌い […]

Supportご支援の方法

「里親になるのは難しい...」 という方にも、様々なご支援をいただいており、
「殺処分ゼロ」を実現するためにはあなたのご支援が必要です。
寄付、ふるさと納税を使ったご支援、ボランティア、物品寄贈など、あなたにあった方法でご検討ください。