スイートホーム
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芸人、俳優、造形作家と、多彩に活躍する片桐仁さん。
2頭の保護犬と共に暮らす愛犬家としての一面も、そんな片桐さんのもう一つの顔だ。
保護犬を我が家に迎えること。
自分たちが、その子にとっての帰る場所になること。
厳しい世界で生きてきた保護犬たちには、ちょっとクセもあるかもしれない。
そんなクセも個性と受け止め、ままならなさも愛する片桐さんご一家と、
幸運な犬たちとの、出会いと暮らしのお話をうかがってみよう。
ちゃことはな
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片桐家の「ちゃこ」と「はな」は、元野犬の女の子。
ちゃこは2018年に、はなは2021年にピースワンコジャパンの世田谷譲渡センターで出会い、
片桐家の子となった。
「野犬として過ごした子ども時代や捕獲の際の記憶も影響してか、
今もすごく怖がりなんですよね」と、
片桐さんは苦笑しつつも、愛おしそうに話す。
「家でのこの子たちの定位置は、リビングの机の下です。
寝ていることが多いのですが、食べ物の気配を感じると
『何かくれませんか?』と寄ってくるんですよ。
好物のヨーグルトの蓋を開けた時なんて、てきめんです。
普段は名前を呼んでも来ないのに、なんなんだ(笑)」
犬のいない散歩なんて
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ちゃことはな、どちらも好きだという散歩は、朝晩の2回。
ご夫婦で行くことが多いが、2人の息子さんにお願いすることも、
タイミングが合えば家族4人で出かけることもある。
思えば、保護犬を迎えようと譲渡センターを訪れるようになったのも、
家族での散歩がきっかけだった。
「ちゃこを迎える少し前まで、雑種の『もも』と暮らしていたんです。
福島県出身の被災犬で、2011年に我が家に迎え、
2018年に18歳9ヶ月で大往生するまで一緒に暮らしていました。
元の飼い主さんとお葬式を終え、その後しばらくは、犬がいると外出も自由にできないし、
今は人間だけの生活を楽しもうと家族で話していたんです。
それがある日、ももとの散歩コースを歩いてみたら、犬のいないことに家族全員がたまらなくなって。
『犬のいない生活は考えられない。すぐに迎えよう』と保護団体を探し始めました」
ももと暮らす中で、すっかり雑種特有の可愛さに魅了されたという片桐さん。
たまたま近くにあった世田谷譲渡センターのSNSで、
ももに似た1頭の犬を見染め、会いにいくことに。
コキア色のちゃこ
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「シルエットがよく似ていたので、会いにいってみたんです。
そうしたら体重は2倍で意外と大きかった(笑)
でもやっぱりその子が可愛くて、何回も通ってお迎えしたのが我が家のちゃこです。
センターでは茶色い毛並みからコキアと呼ばれていたので、色にちなんで名付けました。
広島出身の野犬特有の、耳が大きくて面長で、胴が長くて、目が離れているところが愛らしいんですよね」
ピースワンコの譲渡センターでは原則として、散歩体験や、
家を訪問しての脱走防止対策、そして審査を経てから、里親になることができる。
「元野犬の子を引き取ることに不安もありましたが、
事前・事後のサポートに助けられました。
せっかく迎え入れたのに、やっぱり飼えませんとなるのは、あまりにもワンちゃんが可哀想ですから。
実際に一緒にお世話をしてきたスタッフさんから具体的なアドバイスがもらえるのは、
とてもありがたかったです。ちゃこを迎える際も、散歩だけで事前に10回以上通いましたね。
それから審査もあって、里親希望を申し込んでから迎えるまでに
2ヶ月はかかりました。ボランティアでの散歩体験も、いい経験になりましたね」
引っ張りや脱走防止のため、散歩はダブルリードで行けるように用意。
家には脱走防止のネットを設置し、準備万端で迎えられたちゃこ。
事前の散歩体験も経て、距離も縮まったと思いきや……
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「全然縮まらなかったですね(笑)
散歩中は15kg以上あるちゃこを僕がずっと抱っこして、冬なのに汗だくになりながら歩いていました。
やっとセンターに帰ると、『私、誘拐されてたんだよ。やっと帰ってこれた』みたいな顔をして喜ぶんですよ。
センターが大好きだったんですね。うちの子になっても大丈夫なのかなと心配しつつ家に迎えたのですが、
やはり最初の頃は、ピースワンコのセンターに帰りたそうにしていましたね」
「そんなことも、今となってはいい思い出です」と笑う片桐さん。
「怖くないよ」と声をかけながら一緒に生活していくうちに、
ちゃこにとって片桐家は、自分の居場所になっていったようだ。
「最初のうちは撫でられるのを怖がっていましたが、
今では自分から撫でてほしいと寄ってくるようになりました。
散歩の折り返し地点でも、撫でてと見つめてきてくれるのが愛おしいです」
はなのお迎え
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怖がりでも、手がかかっても、ちゃこがあまりに可愛くて、
すぐにもう1頭迎えたくなったという片桐さんご一家。
世田谷譲渡センターのSNSで好みの子を見付けると、
ちゃこを連れて会いに行くようになった。
「その中で出会ったのが、はなでした。いいなと思う子は他にもいたのですが、
普段は犬とあまり遊べないちゃこが、はなとだけは初対面でたくさん遊んだんです。
それならこの子にと思って準備を整えて、いざお迎えをしたら、
ちゃこがすごく嫉妬してしまったんですよ。『このまま一緒に暮らすんですか?』という顔で、
はなのことを無視していましたね。そんなに心の狭い犬とは思いませんでしたよ(笑)」
「ちゃこが嫉妬するので、おやつをあげるのも撫でるのも、ちゃこを先にしています。
お前が一番だよと行動で伝えるようにして、はなのことは陰でこっそり撫でていますよ。
この子たちを見ていると、犬は年功序列の縦社会なのかなと感じます。
喧嘩もしますが、くっついて寝ていることもありますし、
やっぱり1頭で留守番させるよりは、寂しくなくていいのかな」
保護犬を迎えた理由については、
「最初に飼ったももが、被災犬だったことが大きいです。
やっぱり、野犬だった子が保護されて、生き延びて譲渡センターに来ているのだから、せっかくならね。
迎える前後のサポートも手厚いですし、去勢手術もしてくれているという良さもあります。
それから、元野犬の子は体が丈夫ですよね。それもいいなと思いますよ」
愛すべきギャップ
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犬同士の上下関係はもちろん、家族の感情の動きや、ヒエラルキーにもとても敏感な犬たち。
「家庭内では妻が頂点だと、この子たちも非常によく分かっています」と笑って、
片桐さんは続ける。
「子どもが妻に怒られていたりすると、見事に気配を消しますね。
妻に何か言われると『ハイッ!』と従順で、変わり身の速さが面白いです。
ちゃこは、とにかくシャイで、人の感情をいつも伺っているんですよね。
その様子がたまらなく可愛いです。はなは怖がりなのに、遊びになると急に天真爛漫。
日中は近づいてこないのに、なぜか布団で家族と眠るのは大好きで、
真っ先に陣取って寝始めます。いつも次男にくっついて寝ていますね。
怖がりな普段の様子とのギャップがたまらないです」。
「なんなんだ?」といえる愛
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思い通りにはいかないこともある、保護犬との暮らし。
マイペースで裏腹とも取れる2頭の様子を話すとき、
片桐さんはたびたび「なんなんだ?」と笑いながら言葉を結ぶ。
そこには、セオリー通りではないかもしれない、ちゃことはなの行動を、
時には困惑しつつも面白がりながら受け止める、片桐家の在り方が現れているようだった。
ちゃことはな、2頭には今日も、家族の温かな眼差しが注がれている。
ライター、編集者、イラストレーター。シニアの愛犬が相棒。
インバウンド向け情報メディアの編集部に勤務後、フリーに。
雑誌やライフスタイル系WEBマガジンでの編集・執筆、企業オウンドメディアのデレクション、コピーライティング等を行う。
近年はイラストレーターとして、出版物の挿絵やノベルティグッズのイラスト等も手がける。
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