預かるという選択
ピースワンコに在籍する、約2500頭の保護犬。
その中には、シニアや持病のあるワンコも含まれている。
人に慣れ、体調管理をしてもらいながら、穏やかに暮らす犬たち。
そういった子たちは、人が好きなワンコでも、なかなか譲渡に繋がりにくい現実がある。
「この子たちにも、人と暮らす楽しさを体験させてあげたい」
現状を前にスタッフたちが抱いていた思い。
そこから発足したのが、去年12月よりスタートした「終生預かりボランティア制度」だ。
ケアボラ制度
「ケアボラ」と呼ばれるこの制度は、譲渡ではなく、保護犬をボランティアの方に預け、その子が虹の橋を渡るまで、お世話をしてもらいながら共に暮らしてもらうもの。
フード代、ワクチン代、医療費は、ピースワンコが負担する。
対象となる犬は、持病などで通院が必要な子や、12歳以上の元気なシニア、介護が必要なシニアたちだ。
ケアボラになるには、いくつかのステップがある。
まずはオンラインでアンケートに回答。
それから担当スタッフによる希望の詳細についての聞き取りがあり、候補のワンコとの対面、もしくはオンラインでの面会に進む。
ワンコが決まると正式な書類審査、住まいの脱走対策や生活スペースの確認、お迎えの準備を経て、問題がなければ、無事に引き渡しとなる。
預かり先の声
では、実際に終生預かりボランティアとして保護犬を迎えたご家庭は、今どんな様子なのだろう。
ワンコの暮らしや、ボランティアに応募してくれた思い、迎えてから見えてきたことなど、リアルな声が気になるところ。
そこで2月半ば、ワンコを預かって1週間の二つのご家族に、お話をうかがった。
岸さんとポップ(13歳)
最初にお話をうかがったのは、13歳のシニア犬、ポップの預かりママとなってくれた岸さん。
ポップは昨年12月、飼育放棄で愛護センターに収容され、その後ピースワンコにやってきた中型犬の男の子だ。
岸さんファミリーは、岸さん、社会人の娘さんと息子さん、先住犬、ウサギ4羽、ホシガメ1頭の大家族。
ポップは4代目のワンコ、7番目の家族として迎えられた。
「少し前に15歳のワンコを1頭、見送ったんです。
寂しさを感じていたところ、終生預かりボランティアの募集を知り、今ならお世話ができると思って応募しました。
我が家の動物たちは皆、それぞれの事情で保護されてきた子たち。
辛い思いをしてきたぶん、あたたかいお家とお食事を保証して、『大好きだよ』と声をかけ、ここにいていいんだよと伝えながら、穏やかに過ごさせてあげたいと思っています」
シニアならではの落ち着き
優しい声で話す岸さんの後ろを、ポップがのんびりと通り過ぎ、横になってくつろぐ。
リビングの一角に敷き詰められているのは、ポップのために準備したグリーンの滑り止めマット。
その上でのびのびと過ごすポップは、迎えられて1週間とは思えないほど、すっかり岸さん宅に馴染んでいる。
「以前に迎えた保護犬の子は、最初の3日間は警戒して座れず、立っていました。
でも、ポップは初日からすぐ、足を伸ばして横になっていましたね。シニアならではの貫禄というか、肝が据わっていて頼もしいです。
いつもは新しい子を迎えると、粗相があったり、前からいる子も落ち着かなかったりで、1ヶ月ほどは家の中が荒れていたんです。でも今回は、ポップの大らかな性格のおかげで、どの子も抵抗なく受け入れてくれて、すごく平和ですね。
お散歩もトイレも上手で、本当にお利口さんです」
ペット葬の現場から得た思い
ペット葬儀業を営む岸さん。
仕事柄、利用者の方から別れや介護の話を聞くことも多い。
「お話をうかがう中で感じるのは、介護させてくれるって、すごく親孝行なのだということ。
お別れまでの気持ちを整えさせてくれる期間でもあり、一緒にいい時間を過ごす機会でもあるんですよね。
できないことが増えて、助けてって顔を見せてくれるのも、愛おしいですしね。
ポップは外が大好きな子なので、お散歩にたくさん行ったり、ベランダや庭で日向ぼっこをしたり、何気ない日常をゆっくり過ごさせてあげたいです。
お芋やお肉など、美味しいものも食べさせてあげたいですね」
大久保さんと朱雀(15歳)
続いてお話をうかがったのは、15歳の男の子、朱雀の預かり先となってくれた大久保さんご夫妻。
朱雀はおそらく捨てられた後に保護され、2017年、9歳からピースワンコのシェルターで暮らし始めた。
心臓病を抱え、里親に出会えないままシニアになった朱雀。
ここ2、3年は足腰も弱り、白内障の症状も進行してきた。
そんな朱雀を迎えてくれた大久保さんは、ご夫婦お二人住まい。
お二人で犬を飼うのは、初めての経験だ。
「犬を飼いたいという希望は、以前からあったんです。いくつかの保護団体のホームページを見ているうちに、
ピースワンコの終生ボランティア制度を見つけて、アンケートに回答したのが始まりでした」
「もしも」の先に備えて
もうすぐ定年退職を迎える預かりパパさんと、専業主婦のママさん。
若い犬の譲渡ではなく、ケアボラとしてシニア犬を迎えた理由をうかがうと、こう答えてくれた。
「私たち自身がシニアなので、今から元気一杯の仔犬を迎える想像はできなくて。
シニアで落ち着いた子の方が、私たちには合っているのかなと思えました。それに、自分たちの年齢を考えると、
もし何かがあった際に託す人がいないのであれば、里親として迎える資格はないと思っていたんですね。
終生預かりのボランティアであれば、いわば実家があるようなもの。万一の場合も、この子には帰る場所があると思うと安心です」
期待と不安と
待望のワンコを迎えた大久保さん。
名前を呼ぶとこちらを見てくれる様子が、とても可愛いのだそう。
それでも今は不安も感じると、率直に話してくれた。
「オンライン面会でしたので、実際に会ってみると思ったより大きくて、重かったですね。
私たちは腰があまり丈夫ではないので、支えてあげられるか心配です。
歩くときに後ろ足がよろけてしまうので、常に支えが必要で。初めて我が家に来てくれたときは、
フローリングで滑ってしまっていたので、急いで滑り止めのマットを敷きました。
改善はされたのですが、日中フリーにしていると、やっぱり放っておけないですね。予想以上にケアが必要なんだと、実感しています」
この子にしてあげたいこと
これからどう向き合っていこうかと考えています、と真剣な眼差しで語るパパさん。
「定年退職に伴い、4月からは仕事量をセーブして、朱雀と過ごせる時間を増やしてけるかなと思っています。
何か特別なことをするのではなく、そばにいてあげることくらいしかできないのですが」
ママさんは、かつてご実家でシニアのワンコのお世話をしていた。
当時抱いた思いが、終生預かりボランティアへの応募にも影響したそうだ。
「朱雀は実家にいた子にそっくりなんです。その子に対しては、もっとお世話をしてあげられたんじゃないかという後悔がずっとありました。
朱雀にはマッサージなど、いろいろと体のメンテナンスをしてあげたいです」
ケアボラというパートナー
環境も飼育経験もそれぞれの、岸さんと大久保さん。
それでも共通しているのは、命を預かる大切さを受け止めているということ。
大切だからこそ、愛しさも、戸惑いもある。
ワンコに愛情を注ぎ、手間と時間をかけ、ケアをしてくれる存在。
終生預かりボランティアは、保護犬とピースワンコに寄り添い伴走してくれる、大切なパートナーなのだ。
ライター、編集者、イラストレーター。シニアの愛犬が相棒。
インバウンド向け情報メディアの編集部に勤務後、フリーに。
雑誌やライフスタイル系WEBマガジンでの編集・執筆、企業オウンドメディアのデレクション、コピーライティング等を行う。
近年はイラストレーターとして、出版物の挿絵やノベルティグッズのイラスト等も手がける。