「低血糖アラート犬」という犬のことをご存じだろうか。糖尿病治療の副作用で患者の血糖値が下がり過ぎたとき、それを感知して警告(アラート)してくれる犬だ。近年、研究と育成が進められ、すでに米国などでは「実用化」が始まっている。
糖尿病は、ブドウ糖の吸収に必要なホルモン「インスリン」の働きが十分でなく、血糖値が異常に高くなる病気。1型と2型に大別されるが、患者の9割を占める2型糖尿病は生活習慣の乱れと遺伝が関係して発症し、食事の改善や運動などで予防や治療ができる。一方、小児期に発症することが多い1型糖尿病では、インスリンを作るすい臓の細胞そのものが破壊されてしまうため、毎日の注射でインスリンを補い続けることが欠かせない。しかし、時にそれが過度な低血糖状態を招き、患者が生命の危険にさらされることもある。
その危険を、患者が発するにおいの微妙な差から感じ取り、知らせる訓練を受けたのが低血糖アラート犬。糖分を補うジュースを冷蔵庫から運んできたり、患者の反応がないとみれば救急車を呼ぶボタンを押したりする賢い犬もいるという。
そんな低血糖アラート犬を保護犬から育成できないか、ピースワンコでも研究を始めることにした。6月中旬にはスウェーデンの作業犬トレーニングの専門家、イェシカ・オーベリーさんを招き、訓練方法などについて話を聞いた。
きっかけを作ってくれたのは、佐賀県に本部を置く認定NPO法人「日本IDDMネットワーク」の岩永幸三さん。1型糖尿病を「治る」病気にするという目標を掲げ、研究助成などの支援を続けている。ふるさと納税を活用した寄付集めについて私たちがお手本にした先達でもある。実は私も岩永さんの仲介で、根治を応援する「100人委員会」に名前を連ねさせていただいており、昨年来、「日本でも低血糖アラート犬の育成と普及を」と熱いラブコールを受けていた。
そして、背中を強く押してくれたのが、ピースワンコのスタッフで、1型糖尿病を患っていた小林久美さんだ。保護犬たちに誰よりも深い愛情を注ぎ、体調を気にしながらも、来客の案内や支援者とのコミュニケーションを笑顔で丁寧にこなしてくれていた。しかし、今年1月に突然、愛犬と暮らしていた自宅で倒れ、帰らぬ人となった。おそらく低血糖状態で意識を失ったと思われ、もし感知できていれば助かったのに、と残念でたまらなかった。
私たちの研究はスタートしたばかりだが、低血糖アラート犬は、1型糖尿病患者や家族の負担を大きく軽減する救世主になるはずだ。保護犬からの育成に成功すれば、災害救助犬、セラピー犬、さらには最近この欄で紹介した「里守り犬」と同様、犬と人との助け合いを象徴する存在にもなるだろう。
近い将来、天国の小林さんに喜んでもらえるように、岩永さんたちとともに力を尽くしたいと考えている。
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「保護犬」に新たな活躍の場を! 無念の死が背中を押してくれた
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