7月は九州北部、秋田など各地で記録的な大雨による浸水や土砂崩れの被害が出た。夢之丞、ハルクをはじめとするピースウィンズ・ジャパン(PWJ)の災害救助犬たちも、レスキューチームのメンバーと一緒に東奔西走した。
九州では、7月5日夜に筑後川の支流がはんらんし、各地で土砂崩れも起きた。PWJチームが福岡県朝倉市に着いたのは6日の昼過ぎ。しかし当初、市の災害対策本部などにも捜索・救助が必要な行方不明者に関する十分な情報はなかった。
翌7日午前、大きな被害が出た市内の杷木松末地区にチームが入ると、まだ行方不明者のいる集落があり、増水した川に阻まれて消防も捜索に行けない状況だった。松末小学校で出会った60歳代の男性からは、上流にあった家が流され、妻や近所の人と連絡が取れないと聞いた。
天候が回復した8日朝、PWJのチームは、救助犬ハルクを連れてヘリコプターでその集落に降り立った。民家や田畑が濁流にえぐられて、集落全体が川底のようになり、折り重なったスギの大木の間から男性の家のものと思われる屋根のトタン板や材木が見える。さっそくハルクを使って捜索した。
ハルクは流木のすき間に入り、まもなく「クンクン」と鼻を鳴らした。ハンドラーの大西純子が「だれかいるの?」と声をかけると、「ワンワンワン」とほえた。行方不明者を見つけたことをハンドラーに知らせるサインだ。確認のために別の方向からも二度、三度とハルクを入れてみると、やはり同じ場所で反応を示した。生存者がいるかもしれない。流木の山は重機を使わなければびくともしない状況だったので、到着した自衛隊の部隊に捜索結果を報告し、後を託した。
その後、ハルクが反応した場所からは衣服が発見されたが、男性の妻はまだ見つかっていない。一日も早く家族の元へ帰れるよう願うばかりだ。
翌週の14日には愛知県で河川がはんらんし、レスキューチームは一時待機した。さらに次の週末には、梅雨前線に伴う「線状降水帯」が秋田県にかかり、大仙市などで大規模な浸水被害が発生。私自身もチームを率いて、夢之丞、ハルクの2頭とともにヘリで秋田へ飛んだ。幸い捜索が必要な場所はなかったが、広範囲が水につかった被害の深刻さを上空から確認した。
夢之丞とハルクが初出動した2014年の広島土砂災害以来、翌年の台湾の台風被害、関東大雨災害、そして今回と、水害で出動するケースが増えている。特に発達した積乱雲が帯状に連なる線状降水帯が発生すると、豪雨が同じ場所で長時間にわたり続くため、災害の発生につながりやすい。九州北部や秋田はその典型だった。
これからいよいよ台風シーズンが本番を迎える。水害の発生に即応できるよう、救助犬たちともども準備に万全を期したい。
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