2023年12月1日

あなたも譲渡会に行ってみるといい

譲渡会へ向かう

「いっしょに暮らすなら保護犬と決めているんです。わたしたちができることを、きちんとやりたい」
その女性は、オホーツクと名のつけられた保護犬の背中をやさしく撫でて、そう言った。

ペットフォレスト昭島モリタウン店。
いわゆる郊外型ショッピングモールに併設されたショップなのだが、
きょうはこの場所でピースワンコジャパンの譲渡会がある。
ぼくはいくつか電車を乗り継いで、会場に向かっている。
徐々にのどかになっていく風景を眺めながら、電車の入り口付近に立っている。
つり革を離し、二本足のみでバランスをとる。
ひとつ前の大きな駅で人々は降りて、だいぶ車内はすいていた。
席もいくつか空いていたので座ろうかなと思ったが、二本足だけのバランス取りがことのほかおもしろく、
結局昭島駅までその状態でたどり着いてしまった。
おまえは犬かよ、と自分でも思う

 

なにかが足りない

駅からすぐそばにモリタウンはあり、迷う心配もない。
ペットフォレストの自動ドアが開くと、ペットショップらしくたくさんのグッズ類が鎮座している。
清潔な店内、犬猫好きのお客さん、エプロンをかけたやさしそうな店員さんたち。
だが、なにかが足りない。
ペットショップとしては圧倒的に足りないもの。

そう、犬猫たちが見当たらない。
このショップは生体販売をしていないのだ。
なんてすばらしい。
ペットショップでの衝動買いは、かわいい首輪くらいにしておけ、とイケボで言われているようだ。

 

オホーツクという名の保護犬

その店の奥に、今回の譲渡会の会場はあった。
すでに何人かの保護犬を迎えたいという方たちが見学に来ている。
ピースワンコのスタッフに熱心な様子で話を聞きながら、そっと保護犬たちに触れている。
保護犬たちはとてもおとなしく、人間の手を嫌がることもない。

スタッフにひと声かけて、ぼくもそっとそばにいた保護犬に手をのばす。
名前はオホーツクというらしい。
オホーツク。
カニカマが浮かんだが、彼にその雰囲気は特にない。
男の子、推定5歳。体重は18キロとなかなかだが、そうは見えないスマートさが印象的で、茶色い目がきらきらと輝いている。
毛並みもよく、さらさらだ。

 

ペットフォレストの店長は

オホーツクを愛でていると、このペットフォレスト昭島店の店長がやってきた。
こういうお店の店長というのは、どちらかというとキャリアのありそうな女性のイメージがあったが、それはただの偏見。
店長は物腰のやわらかい、若い男性だった。
挨拶を済ませて、いくつか聞きたいことを質問してみる。

「このお店は、生体販売をしていないんですね」
「はい、そうなんです。でも、保護犬の譲渡会には力を入れていきたいと考えています」
店長はとてもやさしそうな表情でそう言った。
譲渡会といえば、どうしても屋外で開催されることが多かった。
犬というのは吠えるし、汚れているし、においだって…という大偏見も手を振って闊歩していた時代。
粗野な子が多いンでしょう、保護犬って?

ここは店内なので、もちろん雨降りの日でも問題ない。
暑過ぎることも寒過ぎることもなく、頑丈なケージに入れる必要さえない。

店長は保護犬譲渡会について、この試みを大事に思っています、とぼくに告げる。
もちろんぼくは、なんだかうれしくなる。

 

今日、ここで運命の子に

保護犬たちはみんなおとなしい子たちばかりだが、すぐに心を許すわけではない。
「そ、そんなに簡単に振り向かないんだからねっ」
と、いくぶんツンデレ的ではある。
里親候補の方がその場を少しだけ離れる瞬間があった。
「え、ちょ、行っちゃうの?」
そんな声が聞こえてくるような仕草で、その子は不安そうに立ちあがる。
さっきまで割とクールな態度をとっていたくせに、追いかけようとするなんて。
まったく可愛いやつだが、彼の名誉のために名前は伏せておこう。
そんなゆったりとした空気感が気持ちいい譲渡会会場だったが、
ガラス越しに見えたご夫婦と目が合った。
すてきな笑顔をふたりとも携えて、こちらのほうに歩いてくる。
この人たちは、もう決めたんだな、となんとなく思った。
今日、ここで運命の子に出会おう、と。

 

未来を想像するのはとても楽しい

「オホーツク…可愛い子ですね」
奥さまのほうがそう言って、オホーツクを撫でる。
それを見たご主人もおもむろに腰を落とし、そのスマートで美しい犬に手をのばした。
いっしょに暮らすなら保護犬と決めている、と奥さまが話す。
ご主人もそれにうなずき、ずいぶん昔に犬を飼っていたんです、と言った。
「ようやく、犬と暮らすタイミングが整ったんです。やっと一緒にいることができる」
なるほど、壮年のおふたりだが、今日この日が来るまでに、いろいろなことを考えてきたのだろう。
決して性急に動くことはしなかった。
ものごとを進めるには勢いも大切だが、命を預かるには、熟考が必要なのだから。

自分たちが、犬と暮らす姿。
その未来を想像するのはとても楽しいことで、人生の醍醐味だ。
パートナーが保護犬なら、なおよい。
なぜなら、絆が試されるからだ。
新卒じゃなくて中途採用、癖はちょっとくらいあるよね。
その絆は、ぼくらが一生かけて味わうもので、たとえ道半ばで愛犬を失っても、関係は続いていく。
忘れることはない、大切な記憶。
それが人生ならば、それを生きようじゃないか。

文と写真:秋月信彦
某ペット雑誌の編集長。犬たちのことを考えれば考えるほど、わりと正しく生きられそう…なんて思う、
ペットメディアにかかわってだいぶ経つ犬メロおじさんです。 ようするに犬にメロメロで、
どんな子もかわいいよねーという話をたくさんしたいだけなのかもしれない。

 

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