あなたも譲渡会に行ってみるといい

譲渡会へ向かう

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「いっしょに暮らすなら保護犬と決めているんです。わたしたちができることを、きちんとやりたい」
その女性は、オホーツクと名のつけられた保護犬の背中をやさしく撫でて、そう言った。

ペットフォレスト昭島モリタウン店。
いわゆる郊外型ショッピングモールに併設されたショップなのだが、
きょうはこの場所でピースワンコジャパンの譲渡会がある。
ぼくはいくつか電車を乗り継いで、会場に向かっている。
徐々にのどかになっていく風景を眺めながら、電車の入り口付近に立っている。
つり革を離し、二本足のみでバランスをとる。
ひとつ前の大きな駅で人々は降りて、だいぶ車内はすいていた。
席もいくつか空いていたので座ろうかなと思ったが、二本足だけのバランス取りがことのほかおもしろく、
結局昭島駅までその状態でたどり着いてしまった。
おまえは犬かよ、と自分でも思う

 

なにかが足りない

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駅からすぐそばにモリタウンはあり、迷う心配もない。
ペットフォレストの自動ドアが開くと、ペットショップらしくたくさんのグッズ類が鎮座している。
清潔な店内、犬猫好きのお客さん、エプロンをかけたやさしそうな店員さんたち。
だが、なにかが足りない。
ペットショップとしては圧倒的に足りないもの。

そう、犬猫たちが見当たらない。
このショップは生体販売をしていないのだ。
なんてすばらしい。
ペットショップでの衝動買いは、かわいい首輪くらいにしておけ、とイケボで言われているようだ。

 

オホーツクという名の保護犬

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その店の奥に、今回の譲渡会の会場はあった。
すでに何人かの保護犬を迎えたいという方たちが見学に来ている。
ピースワンコのスタッフに熱心な様子で話を聞きながら、そっと保護犬たちに触れている。
保護犬たちはとてもおとなしく、人間の手を嫌がることもない。

スタッフにひと声かけて、ぼくもそっとそばにいた保護犬に手をのばす。
名前はオホーツクというらしい。
オホーツク。
カニカマが浮かんだが、彼にその雰囲気は特にない。
男の子、推定5歳。体重は18キロとなかなかだが、そうは見えないスマートさが印象的で、茶色い目がきらきらと輝いている。
毛並みもよく、さらさらだ。

 

ペットフォレストの店長は

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オホーツクを愛でていると、このペットフォレスト昭島店の店長がやってきた。
こういうお店の店長というのは、どちらかというとキャリアのありそうな女性のイメージがあったが、それはただの偏見。
店長は物腰のやわらかい、若い男性だった。
挨拶を済ませて、いくつか聞きたいことを質問してみる。

「このお店は、生体販売をしていないんですね」
「はい、そうなんです。でも、保護犬の譲渡会には力を入れていきたいと考えています」
店長はとてもやさしそうな表情でそう言った。
譲渡会といえば、どうしても屋外で開催されることが多かった。
犬というのは吠えるし、汚れているし、においだって…という大偏見も手を振って闊歩していた時代。
粗野な子が多いンでしょう、保護犬って?

ここは店内なので、もちろん雨降りの日でも問題ない。
暑過ぎることも寒過ぎることもなく、頑丈なケージに入れる必要さえない。

店長は保護犬譲渡会について、この試みを大事に思っています、とぼくに告げる。
もちろんぼくは、なんだかうれしくなる。

 

今日、ここで運命の子に

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保護犬たちはみんなおとなしい子たちばかりだが、すぐに心を許すわけではない。
「そ、そんなに簡単に振り向かないんだからねっ」
と、いくぶんツンデレ的ではある。
里親候補の方がその場を少しだけ離れる瞬間があった。
「え、ちょ、行っちゃうの?」
そんな声が聞こえてくるような仕草で、その子は不安そうに立ちあがる。
さっきまで割とクールな態度をとっていたくせに、追いかけようとするなんて。
まったく可愛いやつだが、彼の名誉のために名前は伏せておこう。
そんなゆったりとした空気感が気持ちいい譲渡会会場だったが、
ガラス越しに見えたご夫婦と目が合った。
すてきな笑顔をふたりとも携えて、こちらのほうに歩いてくる。
この人たちは、もう決めたんだな、となんとなく思った。
今日、ここで運命の子に出会おう、と。

 

未来を想像するのはとても楽しい

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「オホーツク…可愛い子ですね」
奥さまのほうがそう言って、オホーツクを撫でる。
それを見たご主人もおもむろに腰を落とし、そのスマートで美しい犬に手をのばした。
いっしょに暮らすなら保護犬と決めている、と奥さまが話す。
ご主人もそれにうなずき、ずいぶん昔に犬を飼っていたんです、と言った。
「ようやく、犬と暮らすタイミングが整ったんです。やっと一緒にいることができる」
なるほど、壮年のおふたりだが、今日この日が来るまでに、いろいろなことを考えてきたのだろう。
決して性急に動くことはしなかった。
ものごとを進めるには勢いも大切だが、命を預かるには、熟考が必要なのだから。

自分たちが、犬と暮らす姿。
その未来を想像するのはとても楽しいことで、人生の醍醐味だ。
パートナーが保護犬なら、なおよい。
なぜなら、絆が試されるからだ。
新卒じゃなくて中途採用、癖はちょっとくらいあるよね。
その絆は、ぼくらが一生かけて味わうもので、たとえ道半ばで愛犬を失っても、関係は続いていく。
忘れることはない、大切な記憶。
それが人生ならば、それを生きようじゃないか。

文と写真:秋月信彦
某ペット雑誌の編集長。犬たちのことを考えれば考えるほど、わりと正しく生きられそう…なんて思う、
ペットメディアにかかわってだいぶ経つ犬メロおじさんです。 ようするに犬にメロメロで、
どんな子もかわいいよねーという話をたくさんしたいだけなのかもしれない。

 

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