2023年12月28日

ピースワンコで働くということ

それぞれのいる場所

すべての犬たちに、温かい居場所がある。
それはピースワンコと、活動を支援して下さる方々が目標とする、世界の在り方だ。
その目標を叶えるためのピースワンコの業務は多岐にわたる。
広島県内3ヶ所のシェルター、全国8ヶ所の譲渡センター、ピースウィンズ・ジャパン東京事務所など、働く場所も職種もさまざまだ。
そこを自らの居場所として業務にあたる人々は、一人ひとりどのような想いで、何を見つめているのだろう。
ピースワンコで働くということは、その人にとって、どんな意味を持つのだろう。

 

現場から見える景色

「保護されてくる子は、性格も動き方も反応も、それぞれに違うんです」

そう話すのは、広島県にある西山シェルターでチーフを務める、平石弥大(やひろ)さん。

「人に慣れ、できることが増えると、ワンコも自信がついて積極的になったり、明るくなったり。シェルターに来た頃とは表情が全く変わるんです。そんな変化を見られると本当に嬉しいですね」

一頭一頭に情が移っちゃうんです、と笑顔を浮かべる平石さん。
ピースワンコに入る前は、広島市動物愛護センターで働いていたという。
いったいどのような道を経て、現在地に至ったのだろう。

 

動物と関わる仕事を志して

広島市出身の平石さんは、動物に関わる仕事を志し、地元の専門学校に入学。
ドッグトレーナーとしての基礎知識を学んだが、卒業後は動物関連ではない職種に就いた。
数年後、やはり動物に関わる仕事がしたいと原点に戻った平石さんは、動き出す。

「ペットシッターの会社に試しに問い合わせてみたら、働けることになって。シッターを半年ほど続けた頃、社長のお話から、その会社が広島市動物愛護センターの委託業務を受けていることを知りました。『勉強も兼ねてやってみる?』と誘っていただいて、その委託業務を担当することになったんです」

 

動物愛護センターでの仕事

愛護センターでの仕事は、犬や猫の給餌やトイレ清掃など。
「もともと望んでいた動物と触れ合える仕事でしたから、毎日がとても充実していました」と、平石さんは振り返る。
とはいえ、愛護センターに収容されてくる子たちは、少なくともその時点で、幸福とは言い難いはず。
向き合うのに覚悟のいる局面も、あったのではないだろうか。

「亡くなる子や、怪我をして動けない子、重篤な病気のため安楽死を検討せざるを得ない子も目の当たりにしました。飼われていたのに病気で見捨てられた子たちもいましたね。不幸な子を一頭でも多く減らしてあげたいと、自分の中にある信念のようなものを再確認させられる日々でした」

 

ボランティアでトレーニングを

ただ願うだけでなく、平石さんは通常の仕事の合間に、少しずつ犬のトレーニングを行うようになっていた。

「業務の隙間時間を利用し、小さなトレーニングを重ねていったんです。次第にそれだけでは満足できなくなって、休日にボランティアでトレーニングに入るようになりました。保護された当初は、怯えていて触れない子が大半。それでも毎日接するうち、変化が現れてくるんですよ。その子たちが散歩できるようになったり、誰にでも撫でられるようになったり、何より新しい家族を見つられけることは、ピースワンコにいる今でも一番のやりがいです」

 

そしてピースワンコへ

その地道な活動と成果を、見つめている人がいた。
保護犬の引き出しで愛護センターを度々訪れていたピースワンコ・ジャパンのプロジェクトリーダー、安倍誠さんだ。
安倍さんから転職の誘いが幾度かあり、さまざまなタイミングも合ったことから、平石さんはピースワンコで働くことを決める。
最初に配属されたのは、仙養のシェルター。
約1年半、犬たちの世話やトレーニング、里親候補さんへの対応などにあたり、2023年1月、責任者であるチーフとして、西山シェルターに配属となった。
西山シェルターでは、ピースワンコの保護犬の中でも「気性難(きしょうなん)」とされる犬たちが暮らしている。
噛む等の攻撃性があり、特に扱いの難しい子たちだ。

 

一歩ずつのトレーニング

人との信頼関係を知らないワンコに接する際、平石さんがまず大事にしているのは、「怖がらせないこと、嫌がることを無理にしないこと」。

「気性難の子の大半は、誰かに飼われていた子なんです。人を咬む、唸るといった行動が理由で手放された子が多いですね。突然シェルターに連れてこられた保護犬にとって、僕たちの印象はマイナスからのスタート。トレーニングは、まず人と同じ空間にいることに慣れてもらうことから始まります。床に置いたおやつを食べられるようになったら、指一本で触れる練習を始めて、緊張しなくなったら、次は指二本頑張ってみようねと、本当に一歩一歩ですね」

ワンコの様子を見ながら、決して急がせず、ひとつずつ。

「ペースを合わせて進んでいくことが、とても大切なんです。一頭ずつ性格も怖がり方も違いますから、正解がなく手探り。現場で考える力や里親候補さんへの接客経験といった、前職で得られたものが、ピースワンコでも大いに活きています」

 

ピースワンコだからできること

その一方で、ピースワンコだからこそ可能になったこともある。
愛護センターは公共の施設であるため、規則が厳しく、例外を作ることが難しい。
ピースワンコではその点、前例のないことを試したり、融通を効かせたりすることも、ある程度可能になる。

「攻撃性が強く、自分しか触れない子を自宅で一時預かりしたのも、新しい試みでした。落ち着いて関係性を築けるので、訓練が少しでもスムーズになればと考えたんです。実は半年ほど預かるうちに情が湧いちゃって…最終的にうちの子として正式にお迎えしました。誰の手にも負えないような子でしたが、今では噛むことも一切なく、すっかり家庭犬らしくなってくれましたね。今はこの子に加え、愛護センターから迎えた犬一頭、猫一匹と一緒に暮らしています」

保護された動物たちに新しい家族を。
ピースワンコが描くビジョンを、平石さんはまさに実践しているのだ。

 

未来へのミッション

目の前のワンコたちと向き合いつつ、平石さんは大きなゴールも描いている。

「直近の目標としては、ピースワンコに現在2000頭以上いる保護犬の収容頭数を2000頭以下にすること。その子たちに家族を見つけてあげて、頭数を減らしてあげられたなら、収容中の犬たちにもっと時間をかけてあげられますし、スタッフの時間的余裕も出てくる。そうすれば、新しいトレーニングも試しやすくなりますよね。さらに将来的には、まず自分の生きているうちに、広島の保護犬の収容頭数を0にしたい。その目標を達成したら、他の県のワンコや、保護猫たちのための活動も進めていく。一生をかけても終わりのない目標かもしれませんが、そこを目指したいです。こういった活動ができているのも、動物を好きな方が支援してくださるおかげだと、心の底からありがたく思っています」

 

天に導かれた役割

触れることもままならなかった子が、トレーニングによって人に慣れ、生き生きと変わっていく。

「その姿を見るのが、僕のやりがいです」

平石さんは、そう繰り返す。
真っ直ぐに今の場所へたどり着いた訳ではない。
だからこそ得られた経験が、ピースワンコで働く平石さんの今を支え、背中を押している。

「ピースワンコの現場は、僕にとって天職です」

曇りのない表情でそう話す平石さんは、とても眩しく見えた。

取材・執筆:林りん
ライター、編集者、イラストレーター。シニアの愛犬が相棒。
インバウンド向け情報メディアの編集部に勤務後、フリーに。
雑誌やライフスタイル系WEBマガジンでの編集・執筆、企業オウンドメディアのデレクション、コピーライティング等を行う。
近年はイラストレーターとして、出版物の挿絵やノベルティグッズのイラスト等も手がける。

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