犬はなにを思う

愛犬に話しかけてみる

甲高い声で、犬が鳴く。
小型犬、警戒、気もそぞろに歩くのは飼い主だけだっただろうか。
そんな光景すら微笑ましく思うのは、街が冬の装いに満たされながらも、すこしだけ温かくなってきた日差しのせいかもしれない。

犬と暮らしている人は、たぶん「愛犬の気持ちが知りたい」なんて思うのだろう。
では果たして、それは叶うのだろうか。

まずは愛犬に話しかけてみよう。
さて、あなたはなんと言っただろう。
愛犬からの返答ではなく、あなたのほうだ。
愛犬の名前を、まずは呼んでみたのではないだろうか。

単純なことだが、まずはそこからだ。

 

犬は人の言葉を理解するか

では一般的な意味で「犬は人の言葉がわかる」のだろうか?

科学的に犬は約200語ほどの言語を聞き分けることができる、といわれている。
そして経験値的にも、犬は言葉に含まれる感情を読み取る能力が高い、ということ。
さらに犬にも感情(嫉妬、同情、興奮、不安など)がある、という事実。

となれば、彼らの内面世界はぼくら人間とさほど乖離はない、といえる。
思考レベルの話ではなく、生活において感じる事柄において、という意味だ。
快も不快もそれなりに同調することができるだろう。
嫌なことをされれば、人間だって犬だって嫌なのだ。

では突然だが、あなたのパートナーに「なぜいつも自分のことばかりなの?」と言葉を投げかけて、有益な反応が帰ってきたことがあるだろうか。
「きみだってそうじゃないか」と不機嫌に返されるか、なにも言わずにすごすごと出かけていく背中を見るだけ、だったのではないか。

興奮する愛犬に「なぜそんなに吠えるの?」と言って、納得するリアクションが帰ってこないのは、犬が言葉を理解していないからではない。

相手を責める前に、自分の行動や心情を振り返ってみるのもいい。
相手との対話も大事だが、まずは自分と対話するべきなのだ。
愛犬に対してただ感情をぶつけても、いいことなんてひとつもない。
たまにそういう人を見かけるが、例外なく犬は戸惑うばかりだ。

 

対話することの意味

犬たちは人間社会のルールや環境に合わせて、生活してくれている、ともいえる。
本来であれば、薄暗い時間帯に活動をしていた夜行性であることは、犬の眼球の構造や高周波の音への感度が高い聴覚反応を鑑みれば、容易に想像できる。

それにもかかわらず、犬はぼくら人間のスケジュールに合わせて、夜に休息をとってくれていたりする。
これはなかなかすごいことで、まさに犬たちが人間にとって特別な動物、といえる根拠にもなるだろう。

だからこそ、すべてのリスクを犬に押し付けるのではなく、自分ができる工夫や調整に努めること。
自分の考えを持ちつつ、相手の考えやビジョンに耳を傾ける。
相手の話を聞いて、自分の発想をプラスしていく。
人間も犬も同じ、というよりもこれが「対話」なのだと思う。
そして対話とは互いの発見を通して新しい発想を生み出す、クリエイティブなアプローチなのだ。

犬は飼い主が大好きだ。
愛犬にとって、家族の存在がすべて。
家族のライフスタイルの変化や、心情の変化を隣で見ているのが犬たち、ともいえる。
そんな子たちを、不安にさせてはいけない。
どうしようもない激しい感情に陥ることがあるのなら、まずは愛犬からそっと離れるべきだ。
そのときにもしも愛犬があなたの後を追いかけてきたら、するべきことはひとつ。

愛犬に手を伸ばせるのなら、あなたの心にもその手は届くはずだ。

 

幸福の本質を知っている

ぼくらは日々、どれほど愛犬と見つめ合っているのか?
彼らの名前を呼び、話しかけて、何か共有できたものはあるだろうか。

何気ない日常の時間は、それだけですばらしいものだが、さらに犬と暮らすことの醍醐味を得るためには、飼い主の気持ちや心がけが重要なのだ。

愛犬と一緒にいると、幸福を感じることができる。
だが、その幸福の質を高められるかどうかは、実は飼い主に委ねられている。
なぜなら、犬はみな幸福の本質を知っているから。

それは、たとえもと野犬の子でも同じだ。
つらい思いをしてきた保護犬たちだってそう。
犬という動物の思考や感情のシンプルさと複雑さは、人間を通して理解される。
ぼくらがいなければその本質はどこにも行き着かない。
もちろん誰にも見つかることのない僻地で咲く花の美しさだってあるだろう。
だが、ぼくら人間が犬と一緒にいるべき理由が見出せるのなら、犬の気持ちを探ることこそ幸福の入り口である、といえるのではないか。

その先に幸福の本質があると考えれば、彼らの思考と感情に対して、ぼくらはより深く思いを馳せるべきなのだ。

 

犬たちが喋りだす日

地球上に住む哺乳類の中で、最も人間と有機的な関係性を望む動物こそが「犬」である。

今日も明日も、愛犬がなにを思っているか、みんなが知りたいことだろう。
せめて「ここが痛い」くらいは言えるようになってくれないか。
すぐに動物病院に連れていくし、痛い部分をさすってあげるから。
犬たちよ、喋リ出す日はいつになる?

「あなたのここが嫌い」でもいいからさ、喋っておくれよ。
「あなたのここが好き」だったら、もっとうれしいんだけどな。

文と写真:秋月信彦
某ペット雑誌の編集長。犬たちのことを考えれば考えるほど、わりと正しく生きられそう…なんて思う、
ペットメディアにかかわってだいぶ経つ犬メロおじさんです。 ようするに犬にメロメロで、
どんな子もかわいいよねーという話をたくさんしたいだけなのかもしれない。

 

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