「みんな人間と同じように生きてる」
ピースワンコとの出会い
2000年代にCM出演でブレイクし、芸能界で20年以上活躍を続けているタレントの小野真弓さん。
気さくな笑顔が素敵な彼女は、トリマーの猪野わかなさんと共に令和6年能登半島地震の被災地支援に駆けつけてくれた、ボランティア団体「GOGO groomers(ゴーゴーグルーマーズ)」の一員。
トリマーライセンスや動物介護士の資格を持っている小野さんは、芸能活動のかたわら、ボランティアトリミングなどの動物保護活動に参加している。
一つの環になる二つの世界
“かたわら”と表現したが、小野さんにとって芸能活動と保護活動は、どちらが上でも下でも、メインでもサブでもない。
「芸能は表に出て自分を表現するお仕事だけど、動物保護は裏でケアする役割。芸能活動ばかりだとサポートされることに慣れすぎてしまうので、両方に関わることで支えてくれる裏方の大切さを忘れずにいられますし、どちらのおもしろさも味わえて、すごく楽しいです」
動物と関わっていたら、虫刺されや噛み傷・引っ掻き傷はつきもの。
そういう生活は、芸能人としてプロ意識に欠けると言われるのかもしれない。
けれど、一つのことに縛られてやりたいことができないのは嫌なので、と小野さんは笑う。
「若い頃はきっと、いちいち深く考えちゃったと思いますけど、今はもう『これが自分の個性』と開き直ってます」
その表情は、秋晴れのように明るく、清々しい。
そんな嘘のない人だから、地域の人も心を開いて、いろいろな悩みや意見も聞かせてくれる。
「地域の方たちと活動していると、いろいろな職業、いろいろな年齢、いろいろな考えの方がいるんですよね。そこで培った人間力を芸能活動で活かしたいですし、逆に『テレビに出てるよね』と、警戒心を解いて保護活動に耳を傾けてくださる方もいて、ありがたいです」
小野さんの中で二つの世界は、分かたれることなく、一つの環を描いている。
ボランティアのために専門学校へ
幼い頃から動物が好きで、けれど住宅事情から犬は飼えなかったという小野さん。
大人になってからウサギを飼い始め、次に犬を1匹、さらに1匹と、少しずつ小さい頃の夢を叶えていった。
「飼っているのは、犬が1匹と猫が4匹。それから家族募集中で預かっている子が、猫3匹と犬1匹(取材時)。ずっと動物と暮らしたいと思っていましたが、こんなに大所帯になるとは思ってもいませんでした(笑)」
小野さんの保護活動のきっかけは2番目に迎えた愛犬・ハルくん。
偶然にも近所でその姉妹と再会し、他の兄弟や両親について調べる中で、犬たちの悲しい現状を知るようになった。
「最初は物資支援や寄付から始めて、だんだん『何が起きてるのか近くで見たい』『愛護センターにボランティアで行けないのかな』と考えるようになりました」
ボランティアトリミングの存在を知った小野さんは、専門学校に通ってトリマー資格を取得。
愛護センターでのボランティアトリミングに参加するようになり、やがて猪野さんをはじめ多くの先輩たちと出会い、様々な活動に関わっていく。
木更津の人々と野良猫たちに出会って
次の転機は、愛犬たちがのびのび遊べる庭のある家を求めて決めた、千葉県木更津市への引っ越し。2019年のことだ。
当時、木更津には野良猫が多く、小野さんが犬の保護活動をしていると知った地域の人から、相談を持ち掛けられる。
「最初は、近所にいた子猫の兄弟を飼い始めたんです。目を向けるようになったら、見るからに親戚の猫たちが同じ地域にいっぱいいることに気付いて……。何かできることはないかと、地域猫活動を始めました」
地域猫活動とは、地域にいる野良猫の不妊去勢手術を行い、地域で適切に飼育管理しながら、飼い主のいない猫をなくしていく活動のこと。
野良猫を捕獲(Trap)し、不妊去勢手術(Neuter)を行い、元の場所に戻す(Return)=TNRだけでなく、エサやりやトイレの掃除といったルールを作り、近隣住民の理解を得ながら進めていく。
「『全部私が引き受けます』ではキリがないので、協力的な動物病院や行政の助成金の情報などをお伝えして、一緒に考えましょうという形でやってます。猫を捕獲する人だけじゃなくて、ポスティングとか、捕獲器の洗浄とか、会計とか、いろいろな形で関わってくださる方がたくさんいるんですよ」
地域住民・行政・ボランティア(経験のある団体や個人)の“三者協働”がポイントと言われる地域猫活動。
だんだん仲間が増えた今では、小野さんは三つの地域猫活動に関わっている。
「一番古くから活動している地域では、毎年15匹くらい子猫がいたのに、今年は数匹だけになりました。しかもリターンせず、おうちの中で飼ってもらえそう。コツコツ続けていれば、数年かけて成果が出るんだなと嬉しいです」
繁殖力の強さと法律の違い
以前より数は減ったものの、環境省の統計によれば、猫の殺処分数は犬のおよそ4倍。
そこには、やはり猫ならではの難しさがある。
譲渡の難易度もさることながら、そもそもの収容数(引取り数)が多いのだ。
「猫は繁殖力がすごく強いので、短い期間で爆発的に増えてしまうんです。けれど、狂犬病予防法で行政による捕獲が義務付けられている野犬と違って、野良猫を行政が捕獲することはできません。まだまだ『猫は外ですごすほうが幸せ』という考えや、野良猫へのエサやりも多く、そこで子猫が増えてしまうケースは多いです」
だからこそ野良猫を減らしていくために重要なのが、不妊去勢手術。
しかし、行政が助成金を出してくれる自治体や、安価な費用で対応してくれる動物病院を頼れる地域もあるが、そうでなければ1匹あたり数万円の費用は全額実費だ。
「猫がたくさんいれば、手術費だけでとんでもない金額になります。だからどの団体も、クラウドファンディングや寄付を募ったりしながら、自転車操業で何とかしているのが実情。お金ばかりは気合や根性でどうにもならないので、『ピースニャンコ』さんが始める医療費支援は、本当にありがたい取り組みです」
子どもたちから、大人たちへ、そして未来へ
小野さんが現在参加している活動は、ボランティアトリミング、保護した犬猫の預かり、地域猫活動。
今年7月からは千葉県動物愛護推進員にもなり、行政との連携に向けて動いている。
そして小野さんの強みを活かせる、啓発活動。最近は近所の小学校で授業も行っている。
「世の中にはこういう動物たちもいるんだよ、その理由は全部人間なんだよ。ということを知ってもらうだけでも、少しずつ変わってくると思うんです。犬も猫もかわいいだけじゃなく、お世話もしなきゃいけないし、病気になるかもしれない。それでもちゃんと同じ命として、生涯大切にできるかな?と考えてもらうだけで違うんじゃないでしょうか」
子どもたちがおうちに帰って、親御さんやおじいちゃんおばあちゃんに話してくれたら、そこでも変化が生まれるかもしれないと小野さんは期待する。
池に投げ込まれた小さな石から、どんどん波紋が広がっていくように。
「子どもたちって、大人たちが思ってるよりずっと賢いし、色々なことを受け取ってくれるんですよ。みんな知らないだけで、色々な話をするとその子なりに受け取って、命について考えてくれる。保護活動まで至らなくても、職業を選ぶときや動物に接したとき、それをふと思い出してくれたらいいなと思います」
みんな人間と同じように生きている
動物に優しい社会になってほしい。
小野さんはずっと、その願いのために活動を続けてきた。
「だいぶ改善されてきましたが、まだまだつらい思いをしている動物もたくさんいて、その理由のほとんどは人間。地球上には人間と同じように、いろいろな生きものが生きている、そこに目を向けて大切にしてくれる人が増えてほしいです」
そんな小野さんを支えてくれるのは、授業を受けた近所の子どもたちや、活動を見て意識を変えてくれた地域の人々、一緒に活動するたくさんの仲間たち。
そして何より、毎日一緒にすごしている動物たちの幸せそうな姿。
「うちの猫はみんな野良猫だった子なので、そういう子たちが家の中で幸せそうにしている姿を見るのが、心の支え。近所で見かける猫ちゃんたちもそうなってほしいなと思いながら、これからも頑張ります」
幸せを増やすため、今日も小野さんは、明るい笑顔で二つの世界を駆け巡る。
取材・執筆 熊倉久枝
編集者、ライター。編集プロダクションを経て、2011年よりフリー。インタビュー記事を中心に、雑誌、WEBメディア、会報誌、パンフレットと多様な媒体の企画編集・ライティングに携わる。ペットメディア歴は、10年以上。演劇、映画、アニメ、教育などのジャンルでも活動。