保健所の犬処分数ゼロの裏側に潜む日本の動物愛護の問題点とは?

統計上、近年は犬猫の殺処分は減ってきていますがその反面、個人ボランティアや動物愛護団体の引き取り数が増えているのが現状です。善意の活動の隙をつき、営利目的の悪徳ブリーダーや身勝手な飼い主が後を絶ちません。そこで本記事では、業界に横行しているという「闇処分」の流れや動物愛護の三流国と呼ばれる日本の問題点などを解説します。

殺処分までの流れを知っていますか?

保健所やセンターの役割、殺処分について理解しておきましょう。

保健所と動物愛護センターの違いとは?

保健所と動物愛護センター(※動物愛護センターの名称は、統一されているわけではなく運営する各地方自治体によって動物指導センターや動物管理センターと呼ばれることもあります。)は、犬や猫の収容と保護を行う組織ですが、各々の役割の違いや詳しい業務内容を知っている方は多くはないようです。保健所は都道府県と政令指定都市、中核市、特別区などに設置されている公的機関です。全国に469カ所あり、地域の医療機関や市町村にある保健センターと連携しながら、地域住民の健康と危機管理を担っています。その業務の一環として、動物によるさまざまな問題が発生した際には、動物の収容や保護を行います。一方、動物愛護センターは「動物愛護管理法」に基づいて、主な業務は「動物保護」と「動物愛護普及」です。公的機関であることは同じですが、動物愛護をモットーに愛護精神の元、動物愛護と動物福祉の拠点施設として活動しています。分かりやすく言えば、動物愛護センターは保健所の動物に関連した業務を行うことに特化した機関です。「動物取扱対策事業」「動物由来感染症情報分析体制整備事業」なども業務の一環です。(引用:神奈川県動物保護(愛護)センター事業概要 第2章)保健所は、収容した犬や猫の情報や譲渡募集などのアナウンスは行いますが、犬のケアや訓練、譲渡会などの活動を行う施設ではありません。保健所で保護・収容された動物は、一定期間が過ぎると、動物愛護センターへ移されます。

殺処分とは?

犬が保健所に収容・保護されるのは、狂犬病の予防員・捕獲人が捕獲し一時保護する場合。そして、一般家庭から正当な理由があって引取る場合の2通りです。狂犬病予防法には、保護された犬は、施設に収容してその旨を最低2日間公示すると定められています。また「公示期間満了の後一日以内に所有者がその犬を引き取らないときは、予防員は、政令の定めるところにより、これを処分することができる」引用:狂犬病予防法(法律第二百四十七号)とも明記されています。保健所やセンターへ収容された犬たちは、一定期間保護されたのち引き取り手が現れなければ、法律に基づき殺処分される運命です。殺処分とは、収容保護した動物たちを死に至らしめることを意味しています。ただ、保護期間の上限は厳密に決められているわけではないので、原則的に殺処分を行わない動物愛護センターもあります。しかし、予算や人員などの制約があるため、1週間ほどで殺処分を行うセンターもあるようです。実は、動物愛護センターは、犬の新しい飼い主を探す譲渡会やしつけ教室・相談などの活動をする一方、動物の殺処分も行う施設でもあるのです。殺処分は、動物愛護センターがある自治体ではセンターで実施され、センターがない自治体では保健所で行われます。

動物愛護センターから犬猫の譲渡を受ける方法

動物愛護センターから直接犬や猫を譲り受けるには、一定の譲渡要件を満たしている必要があります。ただし、譲渡要件は各々の動物愛護センターによって微妙な違いがあり、また、公表されていないことも多いのが現状です。そのため、最寄りのセンターに問い合わせるか、譲渡講習会へ出向いて確認するのがよいでしょう。自治体によっては、譲渡前講習会の受講が必須条件の動物愛護センターもありますが、大まかな条件を2つ紹介します。

1、センターのある自治体の在住者であり、家族全員が犬の飼育に賛成し責任者が成人であること。(単身世帯や60~65歳以上の場合には、後見人が必要な自治体もあり)
2、飼育場所は、原則として自己所有が望まれるが、借家及びアパートやマンションなどの集合住宅の場合、犬の飼育が認められていること。

その他の遵守事項では、不妊去勢手術を受けさせることや、犬は年に1度狂犬病予防注射を受けて注射済票と鑑札を付けることも求められます。また、2019年6月に改正された動物愛護法では、一般の飼育者(飼い主)に対してもマイクロチップの装着が努力義務と定められました。そのため、遵守事項や譲渡要件としてマイクロチップの装着を提示する動物愛護センターもあるようです。自治体によって細かい違いはあるものの、愛情と責任をもって終生飼養できるかどうかが、譲渡要件の最大のポイントになります。

センターや保健所に引取られた犬や猫

改正された動物愛護法(第35条第3項関係)では「都道府県等は、所有者の判明しない犬又は猫の引取りをその拾得者その他の者から求められたときは、引取りを求める相当の事由がないと認められる場合には、その引取りを拒否することができることとする」と定められているのですが、残念ながら、ペットの犬や猫が保健所や動物愛護センターに引取られる数はゼロにはなっていません。多くは、迷子などの偶発的なものや飼育放棄、高齢者飼育などが要因で引き取られたペットです。しかしなかには、やむを得ない事情で飼育できないとして、センターや保健所に引取りを依頼する飼い主もいます。引取られたペットの犬や猫は、ほとんどが殺処分されてしまうのが現実です。そのため、殺処分数ゼロを目指しまた、飼い主の終生飼養の責任の徹底を図るため、センターや保健所は引取手数料を科しています。飼い犬や飼い猫の引取り手数料の金額は引き取る自治体の保健所やセンターによって違いがあります。ほとんどの自治体が、生後91日未満と生後91日以上で金額がかわり、印鑑や身分証明ができるものなどが必要です。

売れ残ったペットの運命とは?

ペットショップで売れ残った犬や猫はどんな運命をたどるのかも知っておきましょう。

想定外の闇ビジネス「引き取り屋」の実態

動物愛護法が2012年に改正された背景には、動物取扱業者による犬や猫の虐待飼育などがあり、社会的に問題視されたことがあります。しかし、2012年の法改正の内容はきわめて不明瞭で不十分なものだったため、動物愛護法は2019年に4度目の改正が行われました。法改正の狙いは、罰則を引き上げ動物取扱業者への規制強化を明確にして、悪徳業者を排除し安易な殺処分を減らすことです。しかし、悪徳業者を排除しようとした結果、「引き取り屋」という新たな悪質ブローカーを生み出してしまいました。「引き取り屋」とは、ペットのブリーダーや販売業者からお金を受け取り、売れ残った犬や猫を引き取るというビジネスです。動物愛護法は、これまでに聞き覚えがない 「引き取り屋」という闇の商売を想定していません。「引き取り屋」が行っている劣悪な環境での飼育や違法すれすれの行為は刑罰を逃れ、行政の監視や指導の手も届きにくいのが実情です。さらに、今回の動物愛護法の改正で、飼育管理基準が明確に示されたことで新たな懸念も生じています。飼育数の規定違反やコストが増えるなどの理由で悪徳業者が犬猫を殺処分する怖れがあること。そして、多くの頭数を収容している保護団体の犬や猫の行き場が失われるのではないかという危惧です。

悪徳ブリーダー(繁殖業者)と意識の低い飼い主

ウェブニュースの記事には、ある県の約400匹の犬猫を管理する繁殖業者が従業員を2人しか雇っておらず、エサは1日1回。施設内にはアンモニア臭がむせ返るほど強烈に鼻をついていたと伝えています。また、狂犬病の予防注射も受けさせず、負傷している犬や病気の犬は、適切な処置が行われていた様子もなかったそうです。記事には、従業員を増やすか、犬猫の数を減らすよう県が指導を続けたが、実質的には放置に近い状態だったとも書かれています。加えて、飼育管理基準などが曖昧で数字などでの的確な指導や判断ができなかったという県の見解も記載されていました。この記事は2017年12月の動物愛護法の改正前のものですが、改正後の現在も悪質なブリーダーは少なくありません。悪徳ブリーダーが営利目的で過剰繁殖を繰り返すことによって供給に歯止めが利かなくなり、売れ残った犬や猫は「引き取り屋」に渡されます。引き取り屋は、犬や猫を表向きは一生面倒見るというタテマエで引き取ります。ところが、餌も満足に与えず狭いケージに犬や猫を閉じ込め、病気やケガは放置して結局は死なせてしまうケースも少なくありません。なかには、事実上殺処分を代行している引き取り屋も多いのです。追い打ちをかけるように、安易な気持ちでペットを飼い始め、身勝手な理由で犬や猫を捨てる飼い主。そして、「終生飼養」に反して無責任に保健所やセンターに持ちこむ飼い主も後を絶ちません。

殺処分を逃れた犬たち

世界中がコロナ禍に翻弄されている今「おうち時間」を少しでも楽しく過ごし、充実したいとペットを飼う人が増えています。2020年に、新たに飼われた犬と猫のペットは、どちらも前年比で推計6万匹以上増加しているとの調査結果もあります。ところが、ペットは購入したものの、その後手放す人たちも急増しているのです。手放す理由は「家に帰ったら吠えた」「あっという間に大きくなり子犬(子猫)ではなくなった」「元の生活に戻りつつあるので、かまっている暇がない」など、あまりにも呆れた言い訳です。無責任な飼い主たちによって動物愛護センターに引き取られた犬たちには、引き取り手が現れなければ殺処分の運命が待っています。そんななか、動物愛護センターから殺処分対象の犬を毎週のように20~30頭引き出す活動を続けている団体があります。団体の名前は、特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンが運営するピースワンコ・ジャパンです。彼らは、引き取らなければ殺処分されてしまう犬たちの最後の砦となってさまざまな活動をしています。人馴れのトレーニングや里親探しのほか、災害救助犬やセラピー犬の育成活動にも力を入れています。実際に数々の実績をあげ、糖尿病患者へ低血糖になったことを知らせる国内初の「低血糖アラート犬」の養成にも協力中です。

私たちにできること

処分されてよい命など、どこの世界にもあるわけがありません。殺処分ゼロを目指すには、行政と民間団体そして個人、三位一体の協力が必要です。飼い主には「終生飼養」の責任感と動物愛護の本来の精神を持ってペットを飼育するという意識の改革が求められています。今、私たちにできることは、ふるさと納税などで応援することやピースワンコ・ジャパン「ワンだふるサポーター」の一員として協力することです。

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