殺処分前の犬の全頭引き取り1年 全国で殺処分ゼロを見据えて

 
 新年度の4月を、広島県神石高原町にいるピースワンコの保護犬たちは、真っ白な雪景色の中で迎えた。昨年4月に県内の殺処分対象犬の全頭引き取りをスタートしてから、ちょうど1年が経過。町内に3カ所あるシェルターは計1100頭を超える犬で満杯に近い状態だが、なんとかここまで「殺処分ゼロ」を維持できている。
 
 私にとってなにより心強いのは、活動に対する支援が大きく広がっていることだ。ふるさと納税を通じた寄付者は延べ約4万人、継続的な寄付をくださるサポーターも約1万4000人に増えた。こうした全国の皆様のご期待にこたえ、今後もシェルターの増築はもちろんのこと、譲渡センターもどんどんオープンさせ、ゼロが途切れないように万全の体制を整える覚悟だ。
 
 活動の一翼を担う11人の新人スタッフが4月1日、ピースワンコに加わった。その半数以上が20歳を過ぎたばかりの若者たちだ。採用は季節を問わず年中行っているが、やはり大学や専門学校の新卒者が集中する4月が最も多い。一日の仕事を終えた夜、神石高原で勤務する新人8人と先輩スタッフたちを集め、ささやかな入社式を開いた。
 

 
 私は、イラクでの人道支援から始まったピースウィンズ・ジャパン(PWJ)の歩みを紹介したうえで、犬猫の殺処分数全国ワーストという広島の状況を座視できずに保護・譲渡活動に乗り出したこと、動物福祉という分野でPWJが果たそうとしている役割などを話した。新入生には、知識や技術を先輩から積極的に盗み、Job(仕事)ではなくMission(使命・任務)として毎日の業務に取り組んでほしいと説いた。
 
 もう一つ、既存のスタッフにも伝えたかったのは、全国的な殺処分ゼロの実現というゴールを目指す私たちの、現在の位置だ。私はそれを、学生時代に親しんだ登山になぞらえて「7合目」と表現した。
 
 2012年に町内の犬の引き取りを始めてから約5年。手探りの連続だったが、休まず登り続け、頂を見上げられるところまできた。しかし、山登りではこのあたりから急に勾配がきつくなり、空気も薄くなる。一方で、視界が開け、周囲の状況をある程度展望することができるようにもなる。呼吸は苦しくても、頂上をしっかりと見据え、一歩一歩確実に刻んでいけば、必ず到達できる――。増える犬の世話に追われ、現場で日々苦闘する若いスタッフに、そんな俯瞰的なイメージを持ってほしかった。
 
 この春からは組織も少し変更し、各シェルターや譲渡センターにマネージャー、チーフなどの役職を設けて、現場のスタッフがより主体性をもって運営する体制にした。新人たちも経験を積んでリーダーシップを発揮し、一日も早くピースワンコの中核に育ってほしいと願っている。
 

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