野犬、人に出会う〜犬の社会的な知性の表れとともに〜

かつては飼い犬だった

誰が最初に「野犬」と呼んだのだろう。

怒られそうな話だが、野犬という言いかたはそんなに嫌いではない。

野草とか、野球とか、そういうイメージだとまでは言わないけれども、捨て犬とか、かわいそうな子と呼ばれるよりも悪くないんじゃないかな。

野犬とは、人間に飼われていない犬で、街の片隅や、自然の中で自由に生活している…と言ってもいいのだろうか。

自由の定義とはむずかしいものだ。

彼らは、かつては飼い犬だったが、捨てられたり迷子になったりして野生化した犬たち。

あるいは、その子たちが繁殖して、もとから野生で育った犬も含まれる。

野犬はこの世界の片隅で食べ物や住み処を見つけ、自力で生き延びている。

もちろん、生き延びることができない犬もいる。

一部の国や地域では、野犬は危険視され、駆除の対象となることもあるが、一方で、ほかの地域では野犬が人間社会の一部として受け入れられ、共存が図られている。

たとえば、インドやタイでは野犬が街中に存在することが一般的で、地元の人々が彼らに食べものを与えることもある。

犬どうしの相性

犬はもともと群れで生活する動物ということは周知の通り。

彼らには、群れの中での役割分担や、リーダーに従う習性が遺伝的に刻み込まれているのではないかと思う。

たとえば限られた場所に複数の犬が集まると、自然と「群れ」を形成し、自分の立ち位置を模索し始める。

ここで見られるのが、犬どうしの相性だ。

たとえば、すぐに打ち解けて寄り添うように行動する犬たちは、お互いの匂いを嗅ぎ合い、すぐにリラックスした状態になることが多い。

このような犬たちは、性格やエネルギーレベルが似ていることが多く、自然と仲間意識を持ちやすい。

相性が合わない犬同士は距離を保ち、あまり積極的に関わろうとしない。

きっと犬だっていろいろなことを感じて、考えている。

はたして野犬は、もともとの飼い主のことを、思い出すだろうか

円滑な関係

犬たちが群れの中で自分の立場を確立するために使う手法も多岐にわたる。

ある犬は、積極的に遊びに誘ったり、ほかの犬に対して友好的なシグナルを発することで、仲間内での信頼を築こうとするだろう。

一方で、そうじゃない犬は慎重に観察し、群れの動きをよく見極めてから行動を起こす。

こういう犬たちは、リーダーシップを取りたい場合や、逆に目立たずに過ごしたい場合に、こうした行動を取ることが多いのだ。

さらに、犬たちは非言語的なコミュニケーションを駆使してお互いの意図を理解し合っているはずだ。

尾の振り方、耳の角度、体の姿勢など、細かなボディランゲージが相手に対するメッセージとして伝わる。

これらのサインを読み解くことで、犬たちは争いを避け、円滑な関係を築いていく。

犬たちの社会的な振る舞い

犬たちの社会的な振る舞いは、単なる遊びや出会いの場にとどまらず、彼らがどのようにして他者と調和を保ち、安心できる環境を構築していくのかを垣間見ることができる。

犬がどんなふうにほかの犬と接しているかを観察することで、その犬の性格や適応能力をより深く理解することができるはず。

犬たちの行動は、彼らが持つ社会的な知性の表れであり、群れで生き抜くためのビジョンが色濃く反映されている。

譲渡を通じて新しい家族の一員となる彼らが、どのような社会的スキルを持っているかを理解することは、飼い主としても非常に重要なポイントとなるだろう。

犬たちの社会性を観察し、その奥深さを理解することで、より良い関係を築くためのヒントが得られるはずだ。

野犬が人と出会ったとき

野犬が人と出会ったとき、もっといえば人と関わりを取り戻したとき、野犬は野犬ではなくなる。

逆にいえば野犬を野犬たらしめているのは、ほかならぬ人間なのだ。

だから、ちゃんと、彼らの心とからだをカムバックさせなければならない。

それが実は巡りめぐって人間社会のためにもなるのだと、口すっぱく言い続けなければいけない。

争いごとがすべて無意味だとはあえて言うまい。

けれども、その争いは犬たちだって避けるようなものではないのか、と人間たちに言いたくなる晩夏の午後。

自分だって人間なのに、困ったものだ。

月明かりの野犬

月明かりが森の奥深くを照らし、葉がそよぐ音が風に乗って静かに広がっていた。

夜の帳が落ちると、森はまるで別の世界になる。

その中に、影のように静かに動く一つの姿があった。

黒い毛並みが光を反射せず、まるで森の一部であるかのように木々の間を縫うように進む。

それは一頭の野犬、名前などない、ただ「彼」と呼ばれる存在だった。

彼はかつて人間の手によって飼い慣らされた犬だったが、今はその記憶も薄れ、野性へと帰っていった。

家族を失い、居場所を奪われ、彼は森の中で生きることを選ぶしかなかった。

人間を避け、その匂いを嗅ぎ取ると即座に身を隠し、触れ合うことを拒んだ。

だが、ある日彼はなにかを思い出しそうになる。

人間の手が自分の頭を撫でた記憶が、決定的に自分を癒していたことを、感情として理解したのだ。 けれども、野犬をやめるのを決めるのは彼じゃないこともまた、現実に違いなかった

文と写真:秋月信彦
某ペット雑誌の編集長。犬たちのことを考えれば考えるほど、わりと正しく生きられそう…なんて思う、
ペットメディアにかかわってだいぶ経つ犬メロおじさんです。 ようするに犬にメロメロで、
どんな子もかわいいよねーという話をたくさんしたいだけなのかもしれない。

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