犬の糖尿病の原因・症状・治療法、日常生活における注意点を解説【獣医師監修】

犬の糖尿病は、ホルモンの異常が原因で血糖値が高い状態が続き、様々な症状を引き起こす病気です。生涯にわたって食事や薬での体調管理が必要なことから、正しく犬の状況と治療内容を理解しておくことが必要です。

この記事では、犬の糖尿病についての予備知識、症状、診断、治療法のほか、ご自宅での体調のモニタリング方法や、日々の暮らしで気をつけることを解説します。愛犬の糖尿病でお悩みの方はぜひ参考にしてください。

犬の糖尿病について

犬の糖尿病は、すい臓から分泌される「インスリン」というホルモンの分泌不全により起こる病気です。

血液の中には、細胞の栄養分である糖が流れています。血糖の量は、高くても低くても体に悪影響が出るので、およそ一定に保たれるように体の中のいくつかのホルモンで調整されています。

血糖値を上げるホルモン(一部)

  • グルカゴン(すい臓より)
  • コルチゾールやアルドステロン(副腎より)

血糖値を下げるホルモン

  • インスリン(すい臓より)

食事の後やストレス状態になると血糖値が上がりますが、インスリンは筋肉や脂肪組織、肝臓の細胞内に血液中の糖を取り込ませ、血糖値を下げる働きをします。こうして血糖値のバランスをとっていますが、糖尿病はこのインスリンの分泌不全が起きてしまうため、血糖値を正常に保つことができなくなり発症する病気です。

犬の糖尿病の原因

犬の糖尿病の多くは、先天性、免疫の病気、すい炎、薬剤などですい臓の細胞が壊され、インスリンの分泌がなくなったり減ったりすることにより発症する「1型糖尿病」です。

インスリンが分泌できなくなると、血液中の糖を細胞の中に取り込むことができず、血液中の糖の量が増えてしまいます。つまり血糖値が高い状態が続き、その血液を元に作られる尿にも糖が出てくるのが糖尿病の状態です。

犬の肥満と糖尿病は関係ない?

人間の場合、肥満や生活習慣によってインスリンの効きやすさが変わったりして発症する「2型糖尿病」が多いことから、肥満は糖尿病の主な原因のひとつと考えられていますが、犬の場合、1型糖尿病が多いため必ずしも太っているからといって糖尿病を発症することはありません。参考までに、猫の糖尿病は人と同じ1型糖尿病が多く、肥満にならないようにケアすることが大切です。

犬の糖尿病の症状

糖尿病でみられる症状を、初期と進行してからに分けて説明します。

初期症状

  • 体重減少
  • 多飲・多尿
  • 食欲亢進

糖尿病では、たくさん食べているのに痩せてくるという症状がみられます。また、多飲・多尿や食欲亢進(こうしん:増えること)なども糖尿病の代表的な症状ですが、ほかの内分泌系の病気でもよく出てくるものなので、動物病院での検査で鑑別が必要です。

たとえば多飲・多食、食欲亢進は、以下の病気でもよくみられる症状になります。

多飲・多尿・糖尿病
・副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
・甲状腺機能亢進症
食欲亢進・糖尿病
・副腎皮質機能亢進症

進行してからの症状

  • 食欲低下
  • 元気消失
  • 脱水
  • 膀胱炎、肺炎など感染症にかかりやすい
  • 下痢や嘔吐などの消化器症状
  • 昏睡

糖尿病が進行し血液中の糖を細胞に取り込めない期間が続くと、体はエネルギーを得るため脂肪細胞を分解し始めます。この過程で作られる「ケトン体」という物質は、血液を酸性に傾かせます。血液の状態が悪くなると、昏睡状態に陥り死んでしまうこともあります。

糖尿病性白内障

糖尿病の犬は、高い確率で両眼に白内障を発症します。また、糖尿病は中〜高齢の犬での発症が多いですが、糖尿病性白内障は若い犬でも発症します。糖尿病性白内障は進行がとても早く、視力の低下や失明を起こすこともあります。

もし失明してしまったとしても手術で視力を取り戻すことはできますが、手術をするには糖尿病の治療をおこない、血糖値が安定していることが絶対に必要です。

【関連記事】「愛犬の目が白い」原因は?症状や治療法、白内障と緑内障の違いを解説【獣医師監修】

犬の糖尿病の診断

糖尿病の診断は、主に以下の検査結果から判断します。

  • 血液検査で血糖値を測定する
  • 尿検査で尿糖の有無を調べる

血液検査

血液検査では、空腹時の血糖値が高いと糖尿病であると診断されます。そのほかにも脱水や、栄養状態の判断、血液の状態などをみていきます。

尿検査

糖尿病では、尿に糖が出ます。また、糖尿病の動物では細菌感染が起こりやすくなるので、膀胱などの尿路系に炎症がないかも調べます。

犬の糖尿病の治療法

糖尿病の治療は、薬物療法と食事療法を軸におこなっていきます。

薬物療法

薬物治療では、インスリンの注射を自宅で飼い主が1日2回皮下接種し、体に必要なインスリンを補給します。インスリンの量は、症状の進み具合や状態によっても変わってくるので、定期的に動物病院に通い、獣医師に治療プランを確認してもらいます。

猫の場合、糖尿病治療薬として「センベルゴ」という飲み薬が2024年3月に承認されました。しかし、犬と猫では糖尿病を発症する機序に違いがあることが多いので、犬ではセンベルゴは使用されません。

食事療法

糖尿病の犬の食事は、毎回同じ種類のフードを同じ量与え、食べ切ってもらうことが大事です。これは、フードの種類や量を変えると食後に上がる血糖値も変わってしまうため、薬の効きが強くなったり弱くなったりしてしまうからです。また、おやつも血糖値に影響が出るので、獣医師に相談したほうがよいでしょう。

糖尿病の犬との暮らしで気をつけること

犬の糖尿病は治ることはありませんが、毎日忘れることなく、適切な量のインスリンを注射で補えていれば寿命を全うできる病気です。日々の暮らしで気をつけるべき点をまとめました。

薬や食事の回数・量を獣医師の許可なく変えない

犬の症状が落ち着いているからといって、注射の間隔を空けたり、投与量を減らすといったことは絶対にしないでください。治療プランは、犬の状況に合わせて決められています。血糖値の乱れは、命取りになるケースもあるため注意してください。

毎日運動して、体重をコントロールする

肥満は、血糖値のコントロールが難しくなる原因のひとつです。糖尿病でも運動を制限する必要はないので、日常的な散歩や運動は普通におこなって問題ありません。

注射部位の皮膚の状態も観察する

注射の部位は、背中ならどこでも大丈夫です。しかし、毎日同じ部位に注射をおこなっていると、皮膚が硬くなったり、炎症を起こしてしまうこともあるので、注射の度に少しずつずらしましょう。

定期的な受診

治療プランの見直しのため、血糖値のコントロールがうまくいくようになってからも、2〜3ヵ月おきに動物病院を受診し、血液検査や尿検査を受け状態を判断してもらいましょう。

低血糖の症状があったらすぐ病院へ

インスリン治療の副作用として、特に注意すべきなのは低血糖です。低血糖状態はすぐに対処しないと死んでしまうこともある危険な症状です。

低血糖に陥ると

  • 元気消失
  • 震えやふらつき
  • 失禁
  • けいれん
  • 意識消失
  • 昏睡状態

といった症状が現れます。このような症状がみられたら、すぐに動物病院を受診してください。動物病院では、ブドウ糖を注射し、血糖を上げる処置をおこないます。

緊急用にガムシロップを用意しておく

低血糖を疑う症状がみられたときのために、ガムシロップを用意しておきましょう。危険な症状がみられたらガムシロップをスポイトで口に流し込むと血糖値が上昇します。ただし、一時的な緊急用の処置なので、犬の様子が落ち着いたとしても動物病院に連れていきましょう。

まとめ

犬の糖尿病について、症状や検査法、治療法、生活での注意点を解説しました。

  • 糖尿病は、膵臓からの分泌されるインスリンの分泌不全で起こる病気
  • 初期には、多飲・多尿、食欲亢進、体重減少が見られる
  • 治療は自宅での管理がメインで、毎日のインスリン接種と食事の管理を行う
  • 薬の副作用として低血糖があるが、命に関わることもあるのですぐに動物病院へ

糖尿病の治療を正しく理解し実践すれば、糖尿病になっても愛犬と長く一緒に過ごすことができます。ぜひ参考にしてみてください。

【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。

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