2024年8月5日

ピースワンコで働くということ 3

叶わなかったからこその想い

動物と一緒に暮らしたい。

幼い頃、その願いを叶えられなかった。

だからこそ、動物と関わる仕事を志し、想いを強く抱き続けられた人がいる。

検疫シェルターとオレンジ犬舎で治療や介護の必要なワンコたちに寄り添う、愛玩動物看護師の小野瑞稀さんもそんな一人だ。

入職後、愛玩動物看護師に合格

小野さんがピースワンコに入職したのは、2022年のこと。

2023年には、同年新たに国家資格となった愛玩動物看護師の試験に合格。

新しい職場での業務に向き合いながら並行して試験勉強に励み、長年の目標を実現させた。

その柔らかな雰囲気からは想像がつかないほど、小野さんはきっと、「努力の人」なのだろう。

「入職時、動物看護師はまだ国家資格になっていなかったんです。その後、国家資格化が決まり、取らなくてはきっと後悔すると思い受験を決めました。社会人としてピースワンコでの業務を覚えつつ、家に帰れば試験勉強という生活はなかなかハード。それでも動物看護の資格取得は、叶えたい夢だったんです」

少しはにかみながら話すと、ふと真剣な顔になり、こう続ける。

「でも、資格が取れたからといって、急に何かができるようになるわけではないですから。 現場では、まだ一人ではできないことばかり。先輩やワンコたちから学び、少しずつ技術をつけていかなくては」

物心ついた頃からの夢

幼い頃からすでに、動物医療の仕事に就きたいとの志を抱いていた小野さん。

そのきっかけについて伺うと、返してくれた答えは、やや意外なもの。

「いつから動物が好きだったか、覚えていないんです。物心ついた頃から好きで、ずっと動物を飼いたいと言っていましたね。ただ結局、実家では飼えなくて……」

そのことも動物医療への想いを失わず、資格取得を達成した原動力の一つになったのかもしれない、と振り返る。

高まった保護犬への関心

小野さんは高校卒業後、動物看護師を目指して、大阪の専門学校に進学。

同級生のほとんどがそうであるように、動物病院での勤務を志望していた。

だが在学中、進路希望に変化が現れる。

「テレビで保護犬や保護猫の特集をよく観るようになったんです。専門学校の特別授業でも、学外の方から保護施設の説明を受ける機会があって、動物保護に関連する仕事を知るようになりました」

気持ちは徐々に、保護犬に関わる仕事へ。

さらにピースワンコのインターンシップに参加したことで、進路が固まった。

「驚いたのは、保護犬の子たちがフレンドリーな『犬』のイメージとかけ離れていたこと。人間を怖がって逃げるようなワンコたちも多く、想像とのギャップが大きかったです。一方で、こういった子たちを看護、介護の面で支えていく人が必要なのかなという気持ちがいっそう増し、ここに就職したいと強く感じました」

入職し、検疫シェルターへ

ピースワンコに入職した小野さんが最初に配属されたのは、愛護センターから引き出された保護犬たちを最初に収容し、医学的な検査とケアを行う検疫シェルター。

当然、獣医師による検査中に体を支える保定を行ったり、医学的ケアを施したりもするのだが、近づくだけで怖がるワンコも多く、一筋縄ではいかない。

「その子は何が嫌で、何が怖いのか。お互いに相手のことを知らないところから、探り探り、ゆっくりと距離を縮めていきます。例えば攻撃性のあるワンコなら、まず噛ませないように徐々に近づいて、触れるところから触っていき、必要な処置を。時間をかけていくことが、最初はどうしても必要ですね」

「噛む犬」というレッテルを貼りたくないので、と小野さん。

当初は怖がって何も口にできなかったワンコが、少しずつ食べてくれるようになり、ケアしていくことで、だんだんと甘えられる子になっていく。

そんな変化もとても愛おしいと、笑顔がこぼれる。

忘れられないワンコ

入職して2年、幾頭かの看取りも経験してきた。

中でも強く印象に残っているのは、入職した年に引き出された、コルキという子。

もともと心臓が悪く、体調を崩してからは寝たきりになり、介護が必要になったワンコだった。

「つらい状態にもかかわらず、2ヶ月もの間、頑張って生きる姿を見せてくれたんです。当時の私はまだ介護経験が少なくて、あの子に不便をかけてしまったことが多々あったのではと、後悔も残りました。反面、一生懸命生きようとする姿を見せてもらったことで、動物看護に対する意識は、いっそう強くなりましたね。少しの体調の変化や身体の異常にも気づけるよう、より意識するようになりました」

看取りのたび、抱く想い

看取った後に残った、大きな喪失感。

満足できる介護には、まだまだ足りない。

コルキに対しても、ほかのワンコに対しても、看取りのたびに、小野さんはそう感じてきたのだという。

「ワンコたちは言葉を発せないので、バイタルサインやその日の様子を見ていくしかないのですが、もっとできることがあったのではといった気持ちは、今でも毎回、抱きますね。お世話していた子が一生を終えるとき、ここに来てよかったと感じてもらえるように、より良いケアをしてあげたいですから」

保護犬たちのために、願うこと

小野さんは現在、検疫シェルターとともに、看護が必要な保護犬たちの暮らすオレンジ犬舎での業務にあたっている。

同犬舎にいるのは、高齢や怪我、病気のため里親探しが難しい犬たち。

それぞれの状態に合わせた食事やトイレのケアをはじめ、血糖値や体温の測定、寝たきりのワンコたちの介護、投薬、医療処置などが日々の仕事だ。

「いつも同じ看護、介護をするのではなくて、その時点でその子に合った方法を見つけ、少しでも楽に過ごせるようなケアを実践するように心がけています。例えば、苦しい体勢はその子によって違いますし、タイミングによっても変わるんですよ。鳴き声や表情から、少しずつ気持ちを読み取れるようになってきたかな」

治療や完治を目標とした看護も、最期まで看取る介護も、等しく大切。

良くなることを目標に日々取り組んでいると、小野さんは言いきる。

「家族がいない子たちの面倒を見させてもらっているので、私たちが最期まで可愛がるという想いで日々接しています。一番の願いは、そういった子たちにも家族が見つかること。その子だけに時間とエネルギーを注いでくださる家族がいれば、より手厚いケアと愛情を注いでもらえるはずですから。もし家族が見つからなくても、生まれてきた命なので、何かをしてあげたいという思いが強くて。やっぱり自分が取り組んでいきたいのは、こういった保護犬たちに関わる動物医療なんです」

叶えた夢を分け合って

動物医療の仕事、資格取得と、思い描いた未来を実現させてきた小野さん。

彼女が叶えた夢が、もう一つ。

「保護犬の子を、『うちの子』として迎えたんです。妊娠中に収容され、生まれた仔犬たちは譲渡先が決まったのですが、おそらく先天的に片目が見えないこともあり、お母さん犬は里親さんが決まらなくて」

シェルターで接し、その愛らしさを知るうちに、「この子しかいない!」と感じるようになったそう。

入職して1年目の冬、ナンシーと呼ばれていたその子は、小野さんから鈴(りん)という名前をもらい、家族になった。

「鈴ちゃんの存在に、毎日癒してもらっています」

愛おしそうに話す小野さんに浮かぶ、幸せに満ちた笑み。

犬と家族として暮らす。

その喜びは小野さんを支え、大きな愛情に育ち、シェルターで生活する犬たちにも、日々注がれている。

取材・執筆:林りん
ライター、編集者、イラストレーター。シニアの愛犬が相棒。インバウンド向け情報メディアの編集部に勤務後、フリーに。雑誌やライフスタイル系WEBマガジンでの編集・執筆、企業オウンドメディアのデレクション、コピーライティング等を行う。近年はイラストレーターとして、出版物の挿絵やノベルティグッズのイラスト等も手がける。

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