アジソン病は、あまり聞きなれない病気ですが、体の機能を維持するのに大事なホルモンが不足し、低血糖や重度の脱水などを引き起こす病気です。
ピースワンコには、現在、アジソン病にかかった保護犬がいます。見た目も普段の生活もほかの健康なワンコと変わらないのですが、スタッフが毎日欠かさず薬を投与し、点滴や定期的に血糖値を測るなどの体調管理をしながら病気と闘っています。
アジソン病とは、どんな病気なのでしょうか。この記事では、アジソン病が発症する原因や症状、治療法などを詳しく解説していきます。
アジソン病の原因は“ホルモンの低下”
アジソン病(副腎皮質機能低下症)は、副腎という臓器から分泌されるホルモンが減ることが原因で起こる「内分泌系疾患」です。
ホルモンの分泌量が減る原因として、主に以下の3つの要素が考えられます。
- 特発性:免疫(ウイルスや細菌などから体を守る仕組み)が関与
- 感染症
- 腫瘍
犬のアジソン病は、特発性であることがほとんどで、子犬から6歳頃くらいまでの中年で発生することが多いといわれていますが、発生数自体は少なく、動物病院でもあまり診察することのない、めずらしい病気です。
内分泌系疾患とは
人や動物の体には、気温など体の外部の環境や、ストレス状態など体の内部の環境が変化しても体温や血圧、血糖値などを一定の状態に保つ仕組みがあります。
この仕組みは主に
- 交感神経、副交感神経などの自律神経系
- ホルモンを介して調節する内分泌系
- 病原体の侵入から体を守る免疫系
の3つが関与して調整しています。今回のテーマであるアジソン病は、このなかの内分泌系の仕組みが関与した病気です。
内分泌系の仕組み
内分泌系とは、臓器で作られたホルモンを介して体の状態を一定に保つ仕組みのことを指します。
内分泌系の臓器には、下垂体、甲状腺、副甲状腺、膵臓、副腎、松果体、精巣、卵巣があり、生成したホルモンを血液中に分泌して、ホルモンが届けられる臓器の働きを調節します。アジソン病は、副腎の出すホルモンが関係する病気です。
副腎の働き
副腎は、左右の腎臓の内側に1つずつ位置し、大福のあんこと皮の部分のように、中央部分の副腎髄質と周囲の副腎皮質の2つの部位に分かれています。副腎皮質からは3種類、副腎髄質からは2種類のホルモンが生成されます。
副腎皮質 | コルチゾール(糖質コルチコイド) |
アルドステロン(鉱質コルチコイド) | |
性ホルモン | |
副腎髄質 | アドレナリン |
ノルアドレナリン |
上記、副腎で生成される5つのホルモンのうち、アジソン病に関与するのは、コルチゾールとアルドステロンです。それぞれどのような働きをするのか、みていきましょう。
アジソン病に関与するホルモン①:コルチゾールの働き
- 血糖値の調節
- ストレスから体を守る
- 強い抗炎症作用
- 体内の代謝の調節
コルチゾールは、肝臓、筋肉、脂肪組織などさまざまな部位に作用し、幅広い働きを持つホルモンです。飲み薬や塗り薬に使われるステロイド薬は、コルチゾールの持つ抗炎症作用を利用したものです。
アジソン病に関与するホルモン②:アルドステロンの働き
血液などの体液には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、クロール、カルシウムなどのミネラルが電気を帯びた状態(イオン)で流れていて、それらのイオンは体の水分量や筋肉の収縮、神経の伝達などに関わっています。
アルドステロンは腎臓に作用し、イオンや水分の排泄量を調節することで体の中のミネラルバランスや水分量を正常に保つ働きがあります。
犬では両方のホルモンが不足するケースが多い
犬のアジソン病の場合、まれにコルチゾールのみが不足する「非定型アジソン病」もありますが、副腎の萎縮によりコルチゾールとアルドステロンが両方とも不足する症例が多くみられます。そのため犬のアジソン病の治療では、コルチゾールとアルドステロンの両方のホルモン作用を持つ薬が処方されるのが一般的です。
アジソン病の主な症状
アジソン病になると、どのような症状がみられるのでしょうか。
実はアジソン病には、この病気特有の症状はありません。動物病院でも普段からよくみられる消化器病や腎臓病、感染症などと同じ症状が出てくるため、最初はアジソン病に気づかないこともあります。
下記にアジソン病のおもな症状を紹介します。これらの症状が継続的にみられる場合、動物病院を受診してみてください。
コルチゾール欠乏が原因の症状
- 元気消失
- 食欲不振
- 多飲多尿と脱水による体重減少
- 震え
- 嘔吐や下痢、血便
- 低血糖
アルドステロン欠乏が原因の症状
- 電解質バランスの異常(低ナトリウム血症、高カリウム血症、高窒素血症)
- 循環血液量低下
アジソン病初期の頃は見逃されてしまうことも
初期のうちは副腎にもまだ正常な部位が残っているため、生活環境の変化などストレスがかかったときだけ症状が現れます。これらの症状は時間がたつと収まってしまうため、ちょっとした体調不良として見逃されてしまうこともあります。
しかし、アジソン病が進行すると、症状がつねに出るようになり、症状の程度も重症化してきます。何らかのきっかけで急激に犬の状態が悪くなり、緊急で動物病院に駆けつけるケースもあります。
「アジソンクリーゼ」は緊急の受診が必要
アジソン病が進行した状態で、強いストレスにさらされる出来事が加わると、急激に症状が悪化し、血圧、血糖値、循環血流量が減少することから「アジソンクリーゼ」といわれるショック状態を引き起こすことがあります。
アジソンクリーゼでは、以下のような症状が出ます。治療を早く受けないと命に関わることもあるので、急いで動物病院を受診しましょう。
- おしっこが出にくい、または出ない
- 徐脈(脈がゆっくりになる)
- けいれん
- 失神
- 虚脱(体に力が入らなくなり、意識がぼんやりしている状態)
アジソン病の検査方法
動物病院では、以下のような検査をしてアジソン病を診断していきます。
- 血液検査
- ACTH刺激試験
- 腹部の超音波検査
血液検査
血糖値や体内のミネラルバランスに異常が起きていないかを確認します。
血液検査でナトリウムやカリウムのバランスが崩れていると、アルドステロンの不足が疑われます。ただし、腎臓病など他の病気でもミネラルバランスの異常がみられるので、血液検査の結果だけでアジソン病を確定することはできません。
ACTH刺激試験
ACTH刺激試験は、副腎皮質の状態を判定するための試験で、アジソン病の確定診断には必ず実施します。この検査では、脳の下垂体前葉から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を犬に注射し、1時間後に採血をして血液中のコルチゾール値を測定します。
健康な犬では、ACTHに反応して副腎皮質からコルチゾールが分泌されるため、血液中のコルチゾール値が増加します。しかし、アジソン病で副腎皮質が働かないとACTHを注射しても血液中のコルチゾール量は低いままになります。
腹部の超音波検査
腹部の超音波検査で副腎のサイズを測定します。通常、犬の副腎は3~7mm程度の小さい臓器ですが、アジソン病でさらに副腎が萎縮していると、超音波で見つからないこともあります。
アジソン病の治療と自宅での暮らし方
アジソン病になると、副腎から生命維持に必要な量のホルモンが分泌されなくなるため、内服薬でホルモンを補います。アジソン病の治療は、こうした飼い主による投薬と体調管理がメインになります。
また、アジソン病はホルモン製剤を投与してホルモンを補充すれば安定しますが、極度の脱水症状や、アジソンクリーゼなどで急激な症状の悪化を起こしているときなどは、ミネラルバランスの改善とショック状態を安定させるために輸液をする場合もあります。
適切な治療で健康な犬と同じ生活が送れる!
アジソン病は、内服薬で症状がコントロールできていれば、食事や散歩などの普段の生活は健康な犬と同じで問題ありません。アジソン病の犬がご自宅で元気に過ごすためには、次の2つのポイントが大切です。
- 定期的な受診
- 生涯にわたる薬の投与
適切な治療を受けていれば予後も良好で、健康な犬と同じくらいの寿命を全うできます。しかし、一度小さくなってしまった副腎は元には戻らないため、アジソン病は完治する病気ではありません。そのため、症状が落ち着いているからと言って、飼い主の自己判断で薬の量を減らしたり、薬をやめたりすることのないようにしてください。
治療でもっとも重要な薬の与え方と注意点
アジソン病の治療で大事なことは、薬をきちんと飲み続けることです。そのため、犬に薬を飲ませるのをうっかり忘れないようにするだけでなく、確実に犬が薬を飲みこんだことを確認するようにしましょう。
薬が苦手な犬は、上手に薬だけ食べ残したり、後になって口から薬だけ出してしまうこともあります。なかなかうまく飲めないときは、次の2つの方法を試してみてください。
薬を好きなものや補助おやつに混ぜる
薬が苦手な犬に投薬するには、薬を犬の好きなおやつに埋め込んだり市販の投薬補助のおやつを使ったりして空腹の時間帯に与えてみましょう。薬のにおいが消え、犬に気づかれにくくなります。
薬を直接犬の口に入れて押さえる
犬の口を手で開けさせ、上を向かせてできるだけ奥に錠剤を入れます。口を押さえて5秒くらい待った後、喉をさすってあげると犬がごくっと飲み込みますので、薬が残っていないか口の中を確認しましょう。
一度獣医師にお手本を見せてもらうとよいでしょう。犬に噛まれそうで怖い方は無理をしないでください。
薬の与えすぎによる「クッシング症候群」の兆候に注意!
アジソン病の治療には、継続した薬の投与が大事ですが、薬の量が多すぎると副腎皮質ホルモンが増えすぎて起こる「副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)」を起こす可能性があります。下に挙げたような症状がみられるときは、獣医師に相談してください。
- 多飲多尿
- 両側性の対称性脱毛
- 皮膚が薄くなる(特に腹部)
- 皮膚が固くなる
- 皮膚に色がつく
まとめ
副腎皮質から分泌されるコルチゾール、アルドステロンの減少が原因で起こるアジソン病(副腎皮質機能低下症)の症状や検査法、治療法、おうちでの生活の注意点を解説しました。
- 主に、元気や食欲の消失、震え、下痢や嘔吐など消化器症状、血液検査でナトリウムやカリウムなど電解質バランスの異常といった症状が見られる。
- 現れる症状にアジソン病特有のものはないため、体調不良として見落とされてしまうこともある。
- 確定検査は、ACTH刺激試験をおこなう。
- 治療は、自宅でホルモンを補充するための薬の投与と健康管理がメイン。
- 定期健診を欠かさない。
薬を確実に投与できていれば、普段の生活も予後も健康な犬と変わりません。正しい知識をもって犬との生活を楽しみましょう。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。
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