医療施設×保護犬譲渡センター?
2025年1月18日、ピースワンコ10か所目の譲渡センターが誕生する。その名も「ピースワンコ・ジャパン 西東京ふれあい譲渡センター」だ。
場所は東京都の西東京市。「LIFE MEDICAL CARE いずみ」という、小学校の跡地に建つ医療複合施設の一角だ。2022年にオープンした建物の中は、「医」「食」「住」「動」「学」のテーマで、クリニック、カフェ、ホスピス、地域交流室などがある。
医療機関が集まる「医療モール」は各地にあるが、この施設が一般的な医療モールと違うのは、カフェや地域交流室も設けられていること。元々が公立小学校(西東京市立泉小学校)だったこともあり、校庭跡に広がる公園と共に、地域に開かれたコミュニケーションの場となっている。
これまで商業施設に入っている譲渡センターはあったが、医療施設の中というのはピースワンコでも初めて。しかも行政も関係する地域交流の場。広報担当者が「まったく新しい、未来の譲渡センターです」と表現したのも頷ける。
しかし、何がどう新しいのか?
そもそも、なぜ医療施設に保護犬の施設が入ることになったのか?
その理由を知るため、「LIFE MEDICAL CARE いずみ」の櫻井英里子さんと、西東京ふれあい譲渡センターの立崎真紀店長に、話を聞いた。
きっかけはウクライナのドッグトイ
「以前から、医療や介護の場に犬を連れてきたいと考えていたんです」
そう語るのは「LIFE MEDICAL CARE いずみ」を運営する順洋会グループの理事櫻井英里子さん。クリニックの院長でもある下村理事長のご長女であり、1階にあるコミュニティホスピス「だんろのいえ」のホーム長も務めている。
10代の頃から犬と暮らしていたが、留学先のロンドンで、人間のパートナーとして犬が社会で暮らしている姿を目の当たりに。さらに、やんちゃすぎる愛犬たちのために受けたトレーニングを通して、犬と人間が社会で共存し、犬にも役割を与えられるような取り組みをしたいと考えるようになった。
「犬が好きな母の発案で、うちはプラー(PULLER)というドッグトイの日本総代理店もやっているんです。プラーを作っているのは、COLLAR社というウクライナの企業。両親がその工場を視察したとき、COLLAR社が行っている動物介在活動を見学する機会がありました」
そこでは子どもたちに対して犬を介在した活動が行われていた。例えば足が不自由な子が犬と一緒に過ごすうちに、「一緒に走りたい!」という想いでリハビリを頑張れるようになったりする。自分たちも犬と暮らす効果を体感していた一家は「やっぱり犬ってすごい!」と、動物介在活動に力を入れるように。
「でも日本では、医療や介護の場に犬を連れてくることが難しいんです。一番の理由はやっぱり衛生面。他にも色々難しさがあって、ずっと試行錯誤してきました」
そこで櫻井さんたちは、それが可能な場を自分たちで作ることにした。
「管理されるのではなく、暮らしの延長ですごせるホスピスを作りたい」という想いが発端だった医療複合施設「LIFE MEDICAL CARE いずみ」には、コミュニティホスピス「だんろのいえ」がある。そこから中庭を挟んだ場所に、犬に関する施設を招くことにしたのだ。
「ワンちゃんとなら、行こうかな」
以前、そのスペースに入っていたのは、犬の預かりやレッスンを行う事業者。一般家庭の飼い犬のため、そこまで気軽に触れ合ったりできなかったそうだが、それでも「だんろのいえ」で暮らす高齢者たちには良い影響があった。
中でも櫻井さんが犬の力を感じた出来事がある。看取りを見据えて入居した方が、1か月ほど穏やかに暮らして亡くなった後、元気だった他の住人たちが落ち込んでしまったのだ。スタッフが声を掛けても暗い表情で、外にも出たがらない日が続いた。
「でもある日、犬のお散歩に一緒に行きませんかと声を掛けたら、『それなら行こうかな』と。目の前の公園を一周しただけでしたが、犬と触れ合ったりおしゃべりしたりして、皆さんの気持ちがすごく変わったんです」
WHOでは、健康を「肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされている状態」と定義している。櫻井さんは、犬はセラピー的に精神的な健康をもたらしてくれるだけでなく、社会的な健康をも与えてくれると期待する。
「犬がいると、お世話をしたり、一緒に運動したり、プレゼントを考えたり。歳を取ると役に立てることが減っていきますが、やっぱり自分以外の何かのために生きることは、すごく重要なんです。犬を飼っていると犬仲間とのコミュニティもできますし、いつまでも社会参加ができるんですよね」
そんな期待をもって、ピースワンコはこの場所に招かれたのだ。
犬にとってもプラスしかない
一方、西東京ふれあい譲渡センターの店長を務める立崎真紀さんは、高齢者や地域の人々との交流に、「むしろ犬のほうが得られるものが多いかもしれません」と話す。
「ピースワンコのワンコたちは野犬だった子が多いので、人間にはお年寄りや子どももいて、その人その人によってしゃべり方や触り方も違うんだな、と体験して学べることはとても大きいんです。シェルターで人慣れのトレーニングも行っていますが、やっぱり決まったスタッフたちとしか接触しないので、こうして様々な経験が積めることはプラスでしかないですね」
ピースワンコとしては「だんろのいえ」との交流はもちろん、地域の人々にもぜひ遊びに来てほしいし、ボランティアも大歓迎。「LIFE MEDICAL CARE いずみ」が隣接施設と毎年合同で開催しているイベントでは、保護犬との触れ合い会や災害救助犬の紹介などを考えている。
「『だんろのいえ』は犬との入居も可能と聞いているので、もしご縁があれば、ぜひピースワンコの終生預かりボランティアなどもご検討いただけたらなと思っているんです。そこまで行かなくても、『だんろのいえ』にワンコたちが遊びに行ったり、一緒にお散歩したり、色々な交流をしていきたいですね」
保護犬に特化したフォローの場に
ところで、この西東京ふれあい譲渡センター。ピースワンコの譲渡センターの中でも一、二を争うほどの広さを誇り、設備も充実しているのが特色だ。
日当たりの良い室内ドッグランがふたつもあり、先住犬とのお見合いやトレーニングの相談も可能。本格的なドッグバスがあるトリミングルームや、姉妹プロジェクト・ピースニャンコの拠点となるニャンコルームもある。
「この恵まれた環境を活かして、これまで難しかった里親さんのアフターフォローに力を入れていきたいと考えてます。例えばお散歩やしつけのお悩みなど、今まではお電話やメールでご相談いただいていましたが、ここに来ていただければ私たちも直接様子を確認できますし、トレーニングを実際に見ていただくことができます」
他にも、一般のトリミングサロンやペットホテルは野犬だった犬の扱いに慣れてないため、脱走などのトラブルが多く、預け先がないというのも里親さんの悩みの種。そこでこのセンターにて、保護犬に特化した預かりサービスも行いたいと考えている。
最後のおめかしは、自分たちの手で
さらに立崎店長は、ピースワンコの譲渡センター初となる取り組みも計画している。譲渡した犬たちのエンゼルケアだ。
死後硬直の前に姿勢を整えたり、きれいに拭いたりするお見送りの準備が、ペットのエンゼルケア。入院していた動物が亡くなった場合は、多くの病院で家族にお返しする前に、こういったケアを行っていることだろう。立崎店長が考えているのは、そこからさらに踏み込んだ、家族も一緒に行うエンゼルケアだ。
「西東京ふれあい譲渡センターにはトリミング設備もあるので、シャンプーやブラッシングもしてあげて、里親さんたちとワンコの最後のお別れができるようにしたいと考えています。シニアのワンコは体力的に、しばらくお風呂に入れていないことも多いので、最後にフワフワになった姿で見送ってあげられるというのは良い思い出になるんです」
プロの手を借りながら、自分たちの手で愛犬をきれいにして、けじめをつけて見送ってあげる。それは里親家族の心のケアにもなり、ペットロスを防ぐ効果もある。
「譲渡して送り出した側として、最後のお見送りの場にも立ち会わせていただきたい、最後まで里親さんに寄り添ってサポートできたら、とずっと思っていました。なので今回、このセンターで実現できて本当に嬉しいです」
ピースワンコから広がる輪を、さらに遠くへ
立崎店長は、お世話したワンコたちが里親さんと幸せに過ごしている姿を見たとき、この仕事のやりがいを感じると語る。ありきたりなのですが、とはにかみながら。
「ワンコの幸せだけじゃなく、ご家族に幸せが広がっていくのが、とてもいいなと思うんです。ワンコだけが幸せになっても意味がない。人が幸せじゃないところで過ごしているワンコは、絶対幸せじゃないので」
そして立崎店長にとっては、センターで働くスタッフもその対象。だからこの西東京ふれあい譲渡センターもハッピーな場にしていきたい。その幸せはきっと、「だんろのいえ」のお年寄りたちに、遊びに来る子どもたちに、その家族の皆さんに広がっていくはずだから。
そしてそれは、巡り巡って、さらに犬たちを幸せにするだろう。
取材・執筆 熊倉久枝
編集者、ライター。編集プロダクションを経て、2011年よりフリー。インタビュー記事を中心に、雑誌、WEBメディア、会報誌、パンフレットと多様な媒体の企画編集・ライティングに携わる。ペットメディア歴は、10年以上。演劇、映画、アニメ、教育などのジャンルでも活動。