てんかんは、脳が原因で繰り返し発作が起こる病気

大脳には、体をコントロールしたり、情報を処理するための神経細胞が詰まっています。てんかんは、何らかの原因でこの神経細胞が一斉に興奮してしまい、脳が正常に働かなくなります。すると、体の動きをコントロールできなくなり、体の一部もしくは全身にてんかん発作の症状が起こります。
てんかんは慢性的な脳の病気なので、発作が繰り返し起こります。今までに1回しか発作を起こしていない症例では、その時点ではてんかんと診断することはできません。
てんかんの種類と原因
てんかんは、原因により「特発性てんかん」と「構造性てんかん(症候性てんかん)」に分けることができます。
特発性てんかん:原因不明のてんかん
特発性てんかんは、動物病院で一般的な検査を受けても異常がなく、CTやMRIを使った高度な検査でもはっきりした原因が見つかりません。犬のてんかんのほとんどは、この特発性てんかんに当てはまります。
最近の研究では、てんかんの起こしやすさに遺伝子的な影響もあることが示唆されていますが、基本的にはどの犬種でも起こります。
構造性(症候性)てんかん:検査で脳に原因が見つかる
構造的てんかんは、脳に出血や外傷、脳炎、腫瘍、水頭症などの先天的な奇形といった明らかな原因があります。これらの構造上の異常は、CTやMRIでの検査で見つけることができます。
脳の病変部の位置によって、
- 片方の足だけ動く
- 片側の顔面だけピクピクする
など、てんかん発作の症状に左右差があることが多いようです。
チワワやミニチュアダックスフンドなどの頭が丸い小型犬種は、先天的に水頭症をもつ確率が高く、てんかんを起こしやすいといわれています。
てんかん発作の症状

てんかん発作の症状は、体の一部にわずかに出るものから、全身に一気に現れるものまでさまざまです。
焦点性発作
神経細胞の現局的な興奮なので、体の一部に発作が見られます。
- 手や足、顔の一部がピクピクしている
- よだれを流す
- 呼んでも反応しない
- 瞳孔が開く
- 飛んでいる虫を噛むような行動をする
全般発作
大脳の広範囲で異常な興奮が起こり、発作が全身に現れます。
- いきなり手足を突っ張らせたり、体を反らせたりして、硬直する
- 泳ぐように四肢をバタバタさせる
- 泡を吹く
- 多くは意識を失う
- 手足をけいれんさせる
ただし、けいれんは、脳の病気だけではなくさまざまな理由で起こります。例えば以下のものがあげられます。
- 熱中症
- 低血糖
- 中毒
- 肝臓の病気によるアンモニアの代謝異常
発作の前触れはある時とない時がある
てんかん発作の前に、ソワソワして落ち着かない様子や、元気・食欲がないなどの前兆が見られるときもあれば、まったくそのような症状がなく突然てんかんの発作が出ることもあります。
てんかん発作の対処法
もしも愛犬がてんかん発作を起こしたらどうすればよいのか。ここでは、てんかん発作の最中と、収まったあとの対処法を説明します。
発作の最中は静かに様子を見守る
焦点性発作では、意識を失うことはありません。また、発作の持続時間も短いです。一方、全般発作では意識を失うことが多いですが、たいていは数十秒〜2、3分で意識を取り戻します。
体をゆする、大声を出す、押さえつけるなどをしても、てんかん発作は収まりません。逆に音がてんかん発作を誘発してしまうこともあるので、大きな刺激を与えないようにして、犬の周りの安全を確保し、近くで様子を見ましょう。

口元には手を出さない
以前は、発作を起こしたら舌を噛まないように何かをくわえさせるのがよいと言われていましたが、それは間違いです。発作の最中に犬の口元に手を出すと、飼い主でも噛まれることもあるので注意してください。
「重積発作」に注意
てんかん発作が5分以上続いたり、意識を取り戻す前に次の発作が始まることを「重積発作」と言います。長く発作が続くと脳がダメージを受け、後遺症が残ったり呼吸が止まって死んでしまうこともあります。
5分以上発作が続くときは坐薬を使うか、すぐ受診
まずは、てんかん発作を止めることが重要です。てんかん発作の既往歴があり、獣医師から抗てんかん薬の座薬を処方されている場合は、5分以上発作が続いているようなら使用します。薬を持っていない、もしくは緊急薬が効かなかったらすぐに受診してください。
てんかん発作が収まったあと
犬は、発作が起こると体力を消費するのでとても疲れているし、精神的にも動揺しています。発作が止まったら、抱っこしたり優しく撫でたりして犬を落ち着かせましょう。

初めての発作のあと
動物病院を受診し、てんかん発作が起こった原因を検査するとともに、もし次に発作が起こったときのための緊急用の薬をもらっておきましょう。
2回目以降の発作のあと
発作を起こすたびに毎回受診が必要かどうかは状況によりますが、薬の見直しや追加が必要なこともあります。発作が収まったら動物病院に連絡して指示を仰ぎましょう。
動物病院受診時にスタッフに伝えたいこと
病院では、獣医師に発作が起こる前や、発作中の様子を伝えましょう。これらが診断の手掛かりになることもあります。発作が起こると動揺してしまいますが、犬の様子をメモに残すなど工夫してみましょう。獣医師に伝えてほしいポイントは、以下の点です。
- 犬種
- 既往歴
- 今服用中の薬
- てんかん発作は初めてか
- どのような状況でてんかん発作が起こったか
- てんかん発作が続いた時間
- てんかん発作中に嘔吐や失禁はあったか
- てんかん発作の前に体調不良や前触れがあったか
動物病院での治療
てんかん発作が止まらない犬が来院したら、酸素マスクなどで酸素を与えながら注射か点滴で発作を止めます。このような状態になっていると、そのまま入院することが多いです。てんかん発作が薬でコントロールできるようになったら通院治療に切り替えます。
おうちでの治療

てんかんは慢性的な脳の病気なので、今後もてんかん発作を起こすことが予想されます。
そのため、
- てんかん発作を起こす頻度を減らすこと
- 発作が起こった時軽くすむようにすること
が大切です。
てんかんをコントロールするには、抗てんかん発作薬を忘れずに飲ませてください。薬が苦手な犬には、フードに混ぜたり投薬用のおやつを上手に活用してみましょう。
てんかんの薬の中には、副作用で食欲が増し太ってしまう犬もいます。フードやおやつの量は大幅に増やさないようにし、体重の管理には気をつけてください。
定期的に動物病院を受診し、発作のコントロールができているか、薬の副作用がでていないかを獣医師にみてもらいましょう。
まとめ
犬のてんかんについて、原因や症状、てんかん発作を起こしたときの対処法、治療法を解説しました。
- てんかんは脳の病気で、繰り返してんかん発作を起こす。
- てんかん発作は、体の一部に出る軽度なものから、全身に一気に現れて意識を失う大きなものまで、さまざまな症状がある。
- 発作が起こったら、犬の周りの安全を確保し、静かに様子を見る。
- 5分以上発作が治らない場合は、緊急用の座薬を使用するか、なければすぐに動物病院を受診し、てんかん発作を止めることが一番大事。
- 治療は、内科治療が中心で、薬でてんかん発作のコントロールをする。
てんかんは完治することはないので、薬を使いながら生涯上手に付き合っていくことになります。動物病院の獣医師とも協力して、健康管理をがんばっていきましょう。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。