体力・免疫力の下がった老犬は注意!犬の肺炎の症状や治療生活の注意点を解説【獣医師監修】

犬の肺炎は、健康な犬ならあまり心配する必要のない病気ですが、重症化しやすいリスクのある犬では注意が必要です。 肺炎の原因は、細菌やウイルスの感染、誤嚥(ごえん)などさまざまで、最悪の場合は命に関わることもあります。この記事では、犬の肺炎の特徴や、症状、治療法、おうちでのケアのポイントなどを詳しく解説します。愛犬の健康を守るために、ぜひ参考にしてください。

犬の肺炎の特徴

まず、犬の肺炎にはどのような特徴があるのかを確認していきましょう。

若い健康な犬は肺炎にまで進行することは少ない

実際のところ、犬は簡単に肺炎にはならず、肺炎と診断される症例はそれほど多くありません。なぜかというと、犬の体の中で免疫細胞などの防御機能が働いて、肺炎に進行するまでに感染を食い止めるからです。

体の機能が未熟であったり弱ったりしている犬、たとえば

  • 子犬やシニア期の犬
  • 混合ワクチン未接種の犬
  • 病中・病後の犬

は、肺炎にまで進行してしまうリスクがあり、重症化すると死亡することもあります。

ウイルスや細菌の混合感染が多い

犬の肺炎は、1つの病原体による単独感染より、複数の病原体による混合感染が多いようです。特にウイルスと細菌の混合感染が多く、その場合症状が悪化しやすく、周りの犬への感染力もとても強いので注意が必要です。

たとえば、ケンネルコフ(犬伝染性気管支炎)もウイルスと細菌の混合感染で悪化し、肺炎に移行すると呼吸困難で死亡することもあります。

犬の肺炎の症状

犬の肺炎で最も多くみられる症状は咳です。犬の咳は、のどにつかえたものを吐き出すような「カハッ、カハッ」という音がします。

症状が進むと、元気や食欲の低下、発熱、膿性の鼻水、呼吸困難、チアノーゼなど重い症状が出てきます。

犬の肺炎の原因

犬の肺炎を原因ごとに分類し、特徴を解説します。

(1)感染症が原因・細菌性肺炎
・ウイルス性肺炎
・真菌性肺炎
・好酸球性肺炎
(2)感染症以外が原因・免疫介在性肺炎
・誤嚥性(ごえんせい)肺炎

それぞれの項目を詳しくみていきましょう。

細菌性肺炎

犬の細菌性肺炎の原因菌には、次のようなものがあります。

  • ブドウ球菌
  • ボルデテラ属菌 
  • パスツレラ属菌
  • マイコプラズマ

原因菌のほとんどは、犬の口の中や生活環境に常在する菌で、健康な状態なら肺炎を引き起こすことはありません。細菌性肺炎はシニア犬に多くみられ、体の機能が低下してくることが原因と考えられます。

ウイルス性肺炎

ウイルス性肺炎の原因になるウイルスには、次のようなものがあります。

  • 犬パラインフルエンザウイルス
  • 犬アデノウイルス2型
  • 犬ジステンパーウイルス

ウイルス性肺炎は、感染している犬のくしゃみや鼻水などを介してほかの犬に移りやすいという特徴があります。

真菌性肺炎

アスペルギルス、クリプトコッカスなどのカビが原因の肺炎です。体の免疫力が落ちているときに、ほかの病気と併発して起こります。

好酸球性肺炎(こうさんきゅう)

好酸球は、寄生虫感染やアレルギー反応が起こったときに病変部に集まってくる免疫細胞の一種です。この好酸球性肺炎の原因で一番多いのは、犬糸状虫症(犬フィラリア症)で、フィラリアの子虫が肺に迷入すると、好酸球が肺にたくさん集まってきて肺炎を起こします。

免疫介在性肺炎

免疫介在性肺炎は、犬の免疫システムに異常が生じ、正常な肺の組織を誤って攻撃することで起こります。 原因は不明なことが多いです。

誤嚥性肺炎

肺炎の前に嘔吐や嚥下(えんげ)障害を起こす病気を持っていて、嘔吐物が間違って気道に入ってしまったことで肺炎を起こした状態です。肺炎の治療とともに、もともと持っていた病気に対する治療も並行して進めていきます。

犬の肺炎の検査の方法

肺炎を疑う犬が来院したら、病院では以下のような検査を行います。

  • 身体検査
  • 聴診
  • 胸部レントゲン
  • 血液検査
  • 気管支洗浄やCT撮影など高度な検査

これらの検査は、単独で肺炎を診断するものではなく、結果を総合的にみて診断します。

身体検査

体温や心拍数、呼吸数の計測、チアノーゼの確認などを行い、犬の健康状態を判断します。

聴診

肺や気管支に炎症が起こると、呼吸音に混ざって「パチパチ」という異常音や、空気の通り道が狭くなることにより生じる高い「ピーピー」という喘鳴(ぜいめい)音が聴診されます。

胸部レントゲン

胸部レントゲンの画像では、肺のどの部分に炎症が起こっているか、肺炎がどの程度広がっているかをみます。炎症が起こっている部分は、白く濁った像が観察されます。初期の肺炎や、軽度な肺炎では異常がはっきりと出ないこともあります。また、肺腫瘍との区別にもレントゲンを使います。

血液検査

肺炎を起こしていると、白血球数や炎症が起こっていることを示すマーカーが異常値を示します。また、体全体の状態も見ることができます。

気管支洗浄やCT撮影など高度な検査

二次診療を行っているような大きな病院では、犬に麻酔をして気管支洗浄を行い、洗浄液を検査して原因の病原体を調べることもありますが、一般的な動物病院ではあまりやらない処置です。CTでの撮影も腫瘍との鑑別で行うことがあります。

犬の肺炎の治療法

肺炎の原因となっているウイルス、細菌、真菌を特定するのは難しく、仮に特定するための検査をすると長くて1週間程度結果を待たなければなりません。

そのため、まずさまざまな細菌に効く抗生剤を投与して、薬への反応を見ながら治療を進めます。ほかには、抗真菌剤、気管支拡張剤、去痰薬、咳止めなどを症状に合わせて処方します。

入院での治療

肺炎が重症で呼吸困難を起こしているときは入院し、酸素を吸入させます。ただし、酸素室に入ることは根本的な治療ではなく、薬が効くまで体の状態を安定させておくことが目的です。

治療期間は1ヵ月程度かかる

肺炎は体が弱っている犬が陥ってしまう病気なので、元の健康な状態に戻るまでには時間がかかります。目安としては1ヵ月程度を考えておくとよいでしょう。

おうちで治療生活を送るときの注意点

体の状態が安定しているようなら、入院ではなくおうちで療養生活を送ります。その際は以下の点に気をつけましょう。

自宅に酸素室を用意する

普段は調子が良くても、動いたり興奮したときに呼吸が苦しくなってしまうこともあるため、おうちに酸素を吸入できる設備を用意しておくと安心です。動物病院や業者から機械をレンタルすることもできるので相談してみましょう。

散歩は控える

運動すると呼吸が上がってしまうため、肺炎になっている犬を散歩に連れていくことはおすすめしません。体力が低下しているのでしっかりと休ませ、食事は消化がよく食べやすいものを与えましょう。

ワクチン接種を定期的に行う

肺炎を起こす病原体のなかには、犬アデノウイルス2型、犬パラインフルエンザウイルス、犬ジステンパーウイルスのように、混合ワクチンを接種することで感染を予防できるものもあります。

混合ワクチンの基本的な接種スケジュールは、生後2ヵ月ごろから接種をスタートし、0歳のうちは3~4週おきに2〜3回接種します。1歳以降は、年1回の追加接種がおすすめです。

まとめ

犬が肺炎になる原因、症状、治療法、おうちでの療養生活の注意点を解説しました。

  • 肺炎になる犬はそんなに多くないが、子犬やシニア期の犬、混合ワクチン未接種の犬、病中病後で弱っている犬は注意
  • 複数のウイルスや細菌に混合感染すると肺炎が悪化しやすく、死亡することもある
  • 治療は薬がメインで、重症な時は酸素室で酸素吸入を行う
  • おうちではゆっくり休ませ、酸素室を用意しておくと安心

混合ワクチンは任意の予防接種ですが、重症化しやすいリスクのある犬は接種しておくことをおすすめします。かかりつけの獣医師に相談してみましょう。

【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。

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