犬の心臓病は早期発見が重要!気をつけたい症状や暮らしの注意点を解説【獣医師監修】

心臓は体に酸素や栄養素を運ぶポンプの役割があるため、心臓に異常があると全身の異常へとつながっていきます。また、心臓病は突然死を起こすこともあるので、異常の早期発見と治療が重要です。この記事では、犬に多い心臓病をご紹介し、原因や症状、治療法などを解説します。ほかにも、先天性と後天性の違いや、よく聞くけれどイマイチわかりにくい心不全について、さらにおうちでの生活で気をつけたいポイントなどを解説します。ぜひ参考にしてください。

犬の代表的な6つの心臓病

心臓病は、原因によって大きく先天性心疾患と後天性心疾患に分けることができます。

先天性心疾患は、生まれつき心臓やその周囲の血管に異常がある病気です。一方、後天性心疾患は、主に加齢が原因といわれますが、原因不明の場合もあります。犬の心疾患の多くは後天性です。

心臓病先天性心疾患・動脈管開存症
・心室中隔欠損症
・肺動脈弁狭窄症
・大動脈弁狭窄症
後天性心疾患・僧帽弁閉鎖不全症
・拡張型心筋症

先天性心疾患の心臓病

まずは先天性心疾患について、原因や起こりやすい犬種をみていきましょう。

①動脈管開存症(どうみゃくかんかいぞんしょう)

犬の先天性心疾患のうち、最も発症率が高い病気です。動脈管とは、胎児期に存在する肺動脈と大動脈をつなぐ短い血管です。生後2、3日で自然と閉じていきますが、動脈管開存症はこの動脈管が閉じず、動脈管を通って異常な血液の流れが起きている状態です。

さまざまな犬種で見られますが、特にプードルやマルチーズ、コリー系の犬種に多いといわれています。

②心室中隔欠損症(しんしつちゅうかくけっそんしょう)

比較的発症率が高い先天性心疾患です。左右の心室を分けている壁(心室中隔)に生まれつき穴が空いていて、左右の心室の血液が混ざってしまいます。穴の位置や大きさにより症状は異なりますが、心臓に戻ってきた血液が肺を通らず再び血液が全身に回るような場合だと特に重篤な症状が出ます。

さまざまな犬種で発症が見られます。

③肺動脈狭窄症(はいどうみゃくきょうさくしょう)

全身を巡って心臓に戻ってきた血液は右心房から右心室に入り、肺動脈を通って肺に送られます。この右心室と肺動脈を仕切っているのが肺動脈弁です。この肺動脈弁が生まれつき狭いことで、右心に負担がかかっている病気です。

小型犬や短頭種に多いと言われています。

④大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)

左心室と大動脈を仕切っている大動脈弁に狭窄(きょうさく:狭くなること)があり、血液を大動脈に送り出しにくくなるため、左心に負担がかかります。

ゴールデン・レトリバーやニューファンドランドなどの大型犬に多いですが、最近は小型犬の飼育数が多いため小型犬でも多く見かけられます。

後天性心疾患の心臓病

次は、主に老化が原因で発症する後天性心疾患について解説します。

⑤僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)

先天性、後天性含め、心臓病の中で最も発症率が高い病気です。

僧帽弁は、左心房と左心室を仕切る弁です。僧帽弁が加齢などの原因でしっかり閉じなくなると、左心室に送られた血液の一部が左心房に逆流します。血液の逆流する量が増えると左心房が拡大し心臓の動きに異常が生じます。

特にキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルやマルチーズ、チワワなどの中高齢の小型犬に多く見られます。

⑥拡張型心筋症(かくちょうがたしんきんしょう)

原因不明のことが多い後天性心疾患です。心筋が薄くなって心臓のポンプ機能が低下し、全身に新鮮な血液を送り届けられなくなります。

ドーベルマン、グレートデーンなどの中高齢の大型犬に多く見られる病気です。

心臓病で見られる症状とそのチェックポイント

どの心臓病も、軽度のものや初期のうちは症状が出ないことが一般的です。しかし、先天性疾患では生まれてすぐに重篤な症状が現れるものもあります。犬の心臓病は、初期でも獣医師が聴診すれば心雑音で発見できることが多いですが、飼い主が気づくような症状が出る頃には病気が進行している場合があります。

以下のような症状が見られる場合は、早めに獣医師の診察を受けてください。

  • 長く続く咳
  • すぐに疲れる(運動不耐性)
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 胸水や腹水がたまる
  • 呼吸の異常(荒い呼吸、腹式呼吸、呼吸困難)
  • チアノーゼ(舌や歯茎の色が青白い〜紫)
  • 発作(ふらつき、失神)

特に、ひどい呼吸異常、発作、チアノーゼがあるときは、急いで受診しましょう。呼吸数の目安として、安静時に1分間で40回を超えると危険なサインと言われています。

子犬の先天性心疾患チェックポイント

先天性心疾患のある子犬は、遊んでいてもすぐに疲れてしまったり、苦しくなってへたり込んだりするなどの症状があります。ほかの子犬と比べて、気になることがあれば心臓の検診を受けましょう。

心臓病の疑問点

心臓病でよく聞くワードや、起こる症状の疑問点にお答えします。

心不全って何?

心不全という言葉は病名ではありません。心不全は、心臓病が悪化し最終的に辿り着いた状態を表した言葉です。

心臓のポンプは全身に血液を送り、さらに全身から心臓に血液を戻す役割もあります。心不全では心臓のポンプが弱くなっているため臓器や組織に血液が留まってしまい、血液の液体成分が血管の外に漏れてくるので浮腫や胸水、腹水の貯留といった症状がでてくるようになります。

なんで心臓病で咳が出るの?

咳は風邪や喉の炎症で起こるのに、心臓病の症状の中に咳があるのはなぜ?と疑問に思われる方もいらっしゃいます。

咳は心臓の働きが弱っているサインです。心臓のポンプ機能が弱くなり、肺に血液が溜まってしまうと、本来は呼吸で入ってきた空気が入るはずのスペースに血液中の水分がにじみ出てきます。この状態を肺水腫と言います。その結果、呼吸が苦しくなったり、咳が出るようになります。

心臓病の検査

心臓病を疑う犬が来院すると、動物病院では以下のような検査を行います。

  • 身体検査
  • 聴診
  • 胸部X線
  • 心電図
  • 心エコー検査

聴診

心臓の聴診では、血液の逆流や乱流による特徴的な心雑音が聞こえます。初期で臨床症状が現れていないようなケースでも聴診で心臓の異常を見つけることができます。

胸部X線

心臓のサイズを測定し、心臓が肥大していないか、肺に血液が溜まっていないかを確認します。

心電図

心電図の結果からは、不整脈の有無や心筋の働きを見ます。

心エコー検査

心房や心室のサイズ、心筋の厚さの変化、弁の動きの確認、異常な血管の存在、異常な血液の流れの有無を調べます。

心臓病の治療

心臓病の治療には、

  • 外科手術
  • 内科治療

の2つの方法があります。

先天性心疾患で手術により完治することが明らかであれば、手術も可能です。ただし心臓病の手術ができる大きな動物病院での治療が必要です。

内科治療は心臓病の根本的な治療にはなりませんが、薬で症状をコントロールし現状維持をするという治療になります。症状に合わせて血管拡張薬、利尿薬、強心薬などを使用します。

おうちで気をつけたいポイント

心臓病は不可逆的に進行してしまう病気のため、定期的な通院と心臓に負担をかけない生活を送ることが重要です。普段の生活で気をつけたいポイントをまとめました。

  • 定期的な通院
  • 食事と体重の管理
  • 過度な運動や興奮する出来事、ストレスに注意

定期的な通院

通院の目安は3〜6ヵ月に1回です。定期的に心臓の状態をチェックしてもらうとともに、処方された薬は忘れずに飲ませるようにしましょう。

食事と体重の管理

肥満は心臓への負担がかかるため、食事内容と体重の管理を行いましょう。心臓病の犬向けの低ナトリウム食も市販されているので、獣医師に相談してみてください。

過度な運動や興奮する出来事、ストレスに注意

体重管理のためにも適度な散歩や運動は必要です。しかし、強度の高い運動や長時間の運動で疲れると心臓に負担がかかるので気をつけましょう。興奮や不安は心拍数を上げるため、ストレスにも注意して穏やかに過ごせる環境をつくりましょう。

まとめ

犬に多い心臓の病気を6つ紹介し、原因や症状、検査法、治療法、おうちでの過ごし方を紹介しました。

  • 先天性心疾患は、生まれつきの病態で生後すぐ重篤な症状が出るものもある。
  • 後天性心疾患は、主に加齢などの理由で生じる心臓の変化が原因で起こる。
  • 心臓病では、初期では症状が出ないことが多く、咳や運動不耐性、失神などが出る頃には進行していることも多いので注意が必要。
  • おうちでは、体重を管理し、過度の運動やストレスなど心臓の負担になることを避ける。

心臓病の診断を受けるとショックを感じられると思いますが、投薬など注意事項を忘れず、犬と穏やかな毎日を送るよう心がけましょう。

【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。

すべてのワンコに生きる幸せを。ピースワンコの取り組み

ピースワンコでは、「殺処分ゼロ」をミッションに掲げ、保健所や愛護センターから殺処分対象の犬を引き出し、検疫施設で獣医師による診療を行い健康状態を確認。その後、ゆっくり時間をかけて人になれるトレーニングを行い、ある程度譲渡が可能だと判断された保護犬は里親を捜し、新しい家族へとつないでいきます。

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2020年にピースワンコにやってきた、推定2012年9月生まれのレジェンド。心臓病を患い、昨年11月21日に虹の橋をわたりましたが、獣医師とスタッフは深い愛情を持って治療と介護にあたり、レジェンドは犬生をまっとうしました

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