「普段は毎日排便があるのに、今日は便が出た様子がない」「うんちは出たけど、いつもより量が少ない」など、犬の便の様子がいつもと違うと「これって便秘かな?」と心配になりますよね。「何日便が出なかったら病院へ行くべきなのか」といった受診の目安も判断が難しいところです。
犬はもともと便秘になりにくい体の構造をしていますが、病気以外にも食事や水分の与え方、長時間の外出などちょっとした暮らしの変化で便秘を起こすことがあります。本記事では、まず犬の正常な排便の回数や便の形状を説明したあと、便秘の原因や、異常な排便のサインと受診の目安、便が出にくいときの自宅でのケア方法をわかりやすく解説します。犬の健康チェックには欠かせないので、しっかりと学んでいきましょう。
犬の便秘は実際は少ない

動物病院では、便秘の犬が受診することはあまりありません。犬の便は食事量や体調によって変わり、出なくても一時的なことが多いからです。その理由は、以下のような体の構造や生活習慣の特徴によります。
- 便が詰まりにくい腸や骨盤の構造
- 定期的な散歩や運動の習慣
- 規則正しい食生活
便が詰まりにくい腸や骨盤の構造
犬の腸はほかの動物よりやや短く、消化から排便までのサイクルが早い傾向があります。そのため、便が腸内にとどまっている時間は短く、水分が必要以上に吸収されて硬くなってしまうことは少ないです。
また、犬は骨盤が広く便が通りやすい構造をしているため、スムーズに体の外に便を押し出すことができます。
定期的な散歩や運動の習慣
多くの犬は、毎日お散歩に連れて行ってもらったり、家の中でも元気に遊んでいます。定期的に運動していると腸の動きも活発になり、便がたまりにくくなります。
規則正しい食生活
毎日規則的に同じ内容のフードを食べることで、腸内細菌のバランスや腸の動きのサイクルが安定し、今の食事の消化に適した消化酵素も分泌されるようになります。
犬の正常な排便とは

犬がお腹の調子を崩したときに気づくことができるよう、健康な犬の排便を知っておきましょう。
健康な成犬では、1日に1~2回の排便が目安です。子犬は消化が早いため、1日3回以上排便することもあります。
便の量は、食事量とフードの質によって変わりますが、大体は食べた量に比例します。ただし、高品質で消化吸収のよいフードだと排便量は少なめです。
健康な便は、バナナ状で少し柔らかいけれど、手でつかめるくらいの硬さが理想です。色は茶色が一般的ですが、食べた物によって多少変化します。
犬が便秘になる原因は?
犬は便秘になりにくいとはいえ、さまざまな要因が重なると便が出にくくなることもあります。その理由は大きく分けると、3つに分けられます。
- 食事・飲水に関わること
- 生活習慣に関わること
- 体の異常や病気
それぞれ解説していきましょう。
食事・飲水に関わること

人の食事の一部や生の野菜、果物など、普段食べ慣れていないものをたまたま与えてしまったり、フードを急に変更したりすると腸がうまく働かなくなって便秘になることがあります。
また、水分不足が原因のこともあります。飲水量が不足すると胃腸の働きが悪くなるほか、便自体が硬くなって出にくくなります。普段はお皿から自由に水が飲めるのに、車で長時間お出かけして水分が取れなかったときも、一時的に便が硬くなることがあります。
生活習慣に関わること

お出かけをすると、排便のタイミングがうまく取れなかったり、食事の時間が変わったりしてお腹の調子を崩すことがあります。また、運動不足やストレスも便秘の原因になります。
体の異常や病気
病気が原因の便秘の例として
- 異物の誤食、ポリープや腫瘍などにより、物理的に便が腸管を通過できない
- 会陰ヘルニアで腸の位置がずれたり肛門周りの筋肉が弱ったりして便が出しにくい
- 一部の痛み止めや抗ヒスタミン薬など、消化管の働きを抑える副作用がある薬を使っている
- 腎臓病や甲状腺機能低下症などの病気で腸管の働きが悪くなっている
などがあげられます。
便がスルッと出ないときのサイン

便の出が悪いときには、以下のようなサインがみられます。
- 何度も排便姿勢を取っているが、便が出てこない
- 量が少なく、細い
- 便が硬くてコロコロしている
- お腹を触ると嫌がる
腸管に長くとどまっていた便は、水分が吸収されいつもより硬めで、匂いも強くなります。
動物病院を受診したほうがいい症状
今まで規則正しく出ていたのに、急に便が出ない日があると飼い主は心配になりますよね。便が出ないトラブルでの受診の目安を紹介します。
- 2日以上便が出ない
- 嘔吐や腹痛など、便のトラブル以外の消化管症状がある
- 便は出るが血が混ざっている
- 誤食をした可能性がある
動物病院での診察・検査・治療

「便が出ない」という症状で来院した犬には、以下のような流れで診察や検査を行います。
- 問診と身体検査
- 直腸検査
- X線やエコーを使った画像診断
- 必要に応じて、血液検査や尿検査
問診と身体検査
問診では、以下のような項目を飼い主から聞き取ります。
- 普段の排便の頻度
- 最後に排泄した便の様子
- 普段の食事の内容や摂取量、飲水量
- 最近フードの変更をしていないか
- 運動量
- 既往歴(持病や服薬)
- 誤食の可能性
そして、実際に犬のお腹を触って、違和感がないか、触ったときに犬が痛がらないかなどをチェックします。
直腸検査
肛門から指を入れて、便のたまり具合や直腸の異常(腫瘍・狭窄など)がないかを触診します。
X線やエコーを使った画像診断

大腸に便が大量に溜まっていると、X線写真で白くモヤモヤと映る便と拡張した大腸が確認できます。また、骨盤狭窄、異物、腫瘍など、便が出ない原因があるかも確認します。
エコー検査では、腸の動き(蠕動運動)や、腸管の近くにある臓器に異常がないかを確かめます。
治療
腸管内の異物、腫瘍、会陰(えいん)ヘルニアによる便の通過障害では、内視鏡や外科手術などの処置が必要です。そのような物理的な原因がみつからず、便を自力で出すのが難しいときは、浣腸や摘便(てきべん:指などを使って腸内の便を掻き出すこと)をします。その後は、整腸剤や軽めの下剤を使用しながら、生活環境や食事内容の見直しで犬の排便をサポートします。
自宅でできる便秘ケア・解消法

軽度な便秘は、食事内容や水分補給を正しく管理する、毎日適度に運動させる、自宅など落ち着ける環境でゆっくり休ませる、といったことでほとんどのケースが解消します。
フードの切り替えは時間をかけて徐々に

犬の便秘や下痢などの消化管不良の原因には、急なフードの変更が理由となることもよくあります。
「毎回同じフードを食べていて飽きてしまわないのか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、犬の腸管は同じ食事を消化・吸収するのに適した機能や構造を持っているので、食事内容が頻繁に変わるとこれらのバランスが崩れ、消化不良を起こしてしまいます。
とはいえ、愛犬が高齢となるに伴い成犬用だったフードをシニア用に変えたり、健康状態によってはフードを変更するよう獣医師から指導を受けることもあります。
フードの切り替えが必要なときは一気に全量を変更するのではなく、新しいフードの割合を徐々に増やしていき、最終的に全部を変更する方法で、少しずつ切り替えていきましょう。
まとめ
今回は、犬の便秘の原因や、受診の目安、自宅でできる便秘のケアをご紹介しました。
犬は腸の構造や生活習慣から、比較的便秘になりにくい動物で、軽度な便秘なら生活習慣の見直しで改善することが多いです。しかし、水分不足や運動不足、急な環境や食事の変化、病気や薬の影響などで便秘になることもあります。
便は健康状態をとてもよく反映します。排便の様子や、便の回数、形状にいつもと違うところがないか毎回よく観察しましょう。2日以上排便がないときや、血便や嘔吐などの消化器症状がある場合は、早めに動物病院で診察を受けましょう。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。