犬によく見られる皮膚病の種類と症状
犬の代表的な皮膚病には、以下の8つが挙げられます。
・膿皮症(のうひしょう)
・脂漏症(しろうしょう)
・アトピー性皮膚炎
・皮膚糸状菌症
・アレルギー性皮膚炎(ノミ、食物)
・疥癬(かいせん)
・犬毛包虫症(もうほうちゅうしょう)
・マラセチア症
症状としては、赤みや、ぷつぷつした湿疹、かさぶたの形成、脱毛などが見られ、かゆみや痛みをともなう場合もあります。それぞれの病気の原因や症状を詳しくみていきましょう。
膿皮症(のうひしょう)
犬の皮膚には、「常在菌」という微生物(細菌)が存在します。普段は皮膚の健康バランスを保つ役割を果たし、特に悪さはしません。しかし、アレルギーやほかの病気により、ベタつきを抑えたり、適度な潤いを保とうとしたりする皮膚のバリア機能が弱くなると、常在菌は異常に増えて皮膚にさまざまな症状を引き起こします。
膿皮症は、強いかゆみをもたらし、細菌感染が皮膚のどの深さまで達しているかによって症状は変わります。表面だけなら皮膚の赤みやかゆみだけですが、感染が深くなってくると、湿疹やニキビのように膿を持った膿疱(のうほう)、痂疲(かさぶた)が現れ、脱毛や痛みがともなうこともあります。
脂漏症(しろうしょう)
皮膚は表層から表皮、真皮、皮下組織の3つに分けられます。表皮の一番下の層でできた新しい細胞が段々上に上がっていき、角質(フケ)となって剥がれ落ちるまでのサイクルを「ターンオーバー」と言います。脂漏症は、このターンオーバーの異常が原因となって起こる皮膚病です。
症状としては、犬の体全体に白くて細かい乾燥したフケが付くケースと、黄色くて脂っぽいベタベタしたフケが付くケースがあり、犬の体質や遺伝などにも影響されると言われています。
アトピー性皮膚炎
人でも花粉症やアトピーなどアレルギーに関与した病気を持つ人は多いですが、最近犬でもアトピー性皮膚炎が増えてきています。
アトピー性皮膚炎は、花粉やノミ、犬種、遺伝などいくつかの要因が複雑に関わって発症します。激しいかゆみや脱毛、赤みなどの症状が、目の周りや耳、指の間やおなかなどに現れますが、完治が難しく、薬で症状をコントロールし続けていく必要があります。
皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)
「皮膚糸状菌」というカビの感染で起こる皮膚病です。顔や耳をはじめ全身に脱毛やフケ、紅斑(こうはん|少し盛り上がった赤い模様)、かゆみなどの症状が出ます。若齢の犬によく見られる皮膚病です。
アレルギー性皮膚炎(ノミ、食物)
ノミの唾液や、特定の食べ物に対して起こる皮膚炎です。頭、顔面が赤くなることが多いです。
疥癬(かいせん)
疥癬は、ヒゼンダニという小さなダニが皮膚の中にトンネルを掘って寄生することが原因で、激しいかゆみやそれにともなう脱毛、赤みなどの皮膚トラブルを起こします。重症になると皮膚がゴワゴワと厚くなることもあります。
ヒゼンダニは、草むらで犬にくっついてくるマダニとは別の種類のダニで、大きさも0.2〜0.4mmしかないため、肉眼で見つけることは難しいです。ノミやマダニに使う駆虫薬とは別の薬で治療します。
犬毛包虫症(いぬもうほうちゅうしょう)
毛包虫(ニキビダニ)は、健康な犬でも毛の根元や皮脂腺にいます。体調不良などで皮膚のバリア機能が低下するとニキビダニも増殖して炎症を起こし、主に顔面や足先に脱毛や皮膚の赤みが起こります。
マラセチア症
マラセチアは、カビの一種である酵母の仲間で、皮膚や耳の中にいます。ニキビダニと同じく皮膚のバリア機能が弱まると増え、脱毛や赤み、かゆみなどの皮膚炎や、外耳炎を起こします。マラセチアが増えると、犬の体や耳からツーンとした独特なにおいがします。
動物病院で獣医師に伝えること
愛犬の皮膚に異常が見られたら、動物病院を受診しましょう。皮膚病の診断には、飼い主からの情報が大きなヒントになります。病院を受診する際には、以下の点を先生に伝えましょう。
・症状はいつ頃から始まったか
・初めて症状が出てから今までの経過
・どんなときに症状が出るのか
・季節には関係あるのか
・親や兄弟犬に同じような症状が出ている犬がいるか
・同居の犬や猫、飼い主に皮膚の症状があるか
・飼育環境
経過については、例えば、「だんだんと悪くなってきている」「よくなったり悪くなったりを繰り返す」「ずっと同じような状態が続いている」などの様子を話してください。
皮膚病の治療法
皮膚病の治療を行うためには、まずはじめに原因が細菌なのか、ダニやノミなどの寄生虫によるものか、あるいはそれ以外なのかを検査で調べます。そして原因が分かったら、内服薬、外用薬、注射、シャンプーや薬浴といった方法で治療を行っていきます。それぞれどのような治療なのか見ていきましょう。
内服薬
症状によってひとつ、もしくはいくつかの薬を組み合わせて使います。
内容 | 効能 |
---|---|
抗生物質 | 細菌をやっつけ、増殖するのを防ぎます。 |
抗真菌薬 | カビの増殖を防ぎます。 |
駆虫薬 | ノミ、ダニの駆除に使います。 |
抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬 | かゆみ、赤みなどのアレルギー症状を抑えます。 |
外用薬(ぬり薬)
外用薬には、抗生物質、抗真菌薬、駆虫薬、アレルギー薬などがあります。最近は犬が舐めてとらないようにスプレータイプや速乾性のものも販売されており、副作用も少ないため、使用される機会が増えてきています。
注射
炎症が強いときに用いる、かゆみ止めやステロイド剤があります。
シャンプーや薬浴
皮膚で増えている細菌や真菌(カビ)を洗い流し、炎症部位を清潔にするため、薬用シャンプーや薬浴を行うこともあります。
気をつけなければいけない「うつる犬の皮膚病」
犬の皮膚病の中には、一緒に住んでいる犬猫や飼い主など家族にうつるものもあります。今回ご紹介した皮膚病のうち、気をつけなければいけないのが以下の3つです。
・皮膚糸状菌症
・ノミアレルギー皮膚炎
・疥癬
これ以外の、膿皮症、脂漏症、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーによる皮膚炎、犬毛包虫症、マラセチア症は、人や同居するほかの犬猫にうつることはありません。
【人やほかの犬猫にうつる皮膚病】皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌症は、動物にも人にもうつりやすく、注意が必要です。皮膚糸状菌症の治療には2〜3ヵ月かかり、途中でやめてしまうと再発することもあります。
人に現われる症状
人にうつると皮膚炎が起こり「リングワーム」という赤い指輪のような発疹が現れます。その場合は、必ず皮膚科に行って飼っている犬が皮膚糸状菌症であることを伝え、皮膚糸状菌に効く薬をもらいましょう。くれぐれも、犬用に動物病院で処方された薬を塗らないでください。
部屋の掃除が大事
治療と同時に大事なのは、生活環境を清潔に保つことです。皮膚糸状菌は、落ちている犬の毛やフケにも感染して生きています。掃除機をこまめにかけたり、粘着クリーナーを使ったりして毛やフケを取り除きましょう。
次亜塩素酸ナトリウムを使用し、週2回程度の拭き掃除も効果があります。犬が使用した毛布などは廃棄することをおすすめしますが、思い入れがあって捨てられない場合は、2〜3回洗濯をしてください。
【ほかの犬猫にうつる皮膚病】ノミアレルギー皮膚炎
同居している犬や猫にノミがうつると、同じような皮膚炎を起こします。一方、ノミは人の皮膚の上で増えることはできないため、基本的に人にうつることはありません。しかし、ノミに血をすわれるとかゆみをともなう赤い発疹や水ぶくれができることもあるので、犬についたノミは定期的に動物病院で駆除を行いましょう。
【ほかの犬猫にうつる皮膚病】疥癬(かいせん)
疥癬の原因であるヒゼンダニは、疥癬にかかっている犬や猫と直接的に触れ合うことにより、ほかの動物にうつっていきます。感染力がとても強いので気をつけましょう。またヒゼンダニは、ノミと同じように人にうつることはありませんが、かまれればかゆみなどの皮膚症状が現れるので注意しましょう。
皮膚病の予防につながるホームケアと注意点
皮膚病を予防するために大切なのが、自宅での日常的なケアです。皮膚病にかからせない、またかかっても悪化させないために、ここでは皮膚病の予防につながるホームケアについてご紹介します。
健康チェックでノミやダニを退治!
犬の皮膚トラブルに早く気づくため、日ごろから犬をよく観察し、よく体を触って、いつもと違うところがないかチェックしましょう。しこりやベタつき、かさぶた、フケなどの異常がないか確認してください。
また、ノミやダニの付着は、吸血して膨らんでいるダニなら見つかることもありますが、吸血前のダニやノミを見つけるのはなかなか大変です。そのようなときは、ノミのフンが毛やくしに付いていないか確認してみましょう。
ノミのフンは、黒い砂粒のように見えます。濡らしたティッシュに黒い砂粒をおいてみて、赤いシミが広がってきたらノミのフンです。
月1回程度のシャンプーでスキンケア
健康な犬であっても、皮膚の健康を保つため月1回程度のシャンプーをおすすめします。犬によっては、シャンプーが苦手という犬もいます。嫌がってうまくいかないときは、ドッグサロンや動物病院でシャンプーをしてもらうとよいでしょう。
低刺激性のケア用品を使う
犬の皮膚は人の皮膚より薄く、1/3程度の厚さしかありません。自宅でシャンプーをする場合は、低刺激性のシャンプーを使い、ぬるめのお湯で念入りに流すようにしましょう。シャンプーが嫌いな犬には、ローションやムースタイプのシャンプーもあります。
毛やフケはこまめに掃除する
犬の毛やフケは、皮膚病の原因となる細菌やノミ・ダニのエサや住み家となったりするため、こまめに掃除機をかけましょう。できる限りハウスダストや花粉などのアレルゲンを取り除くことが、皮膚炎の発症や悪化を抑えることにつながります。
食物アレルギーの食事療法
食物アレルギーは、肉や大豆、小麦などのタンパク質に対して過剰に免疫反応が起き、かゆみ、赤みなどの皮膚症状や、嘔吐、下痢などの消化器症状が出る病気です。1歳未満の子犬で発症することが多く、季節には関係ありません。
疑わしい症状があれば必ず動物病院へ
食物アレルギーの診断は、獣医師でも難しいことがあるため、何かを食べた後に体調を崩したからと言って自己判断で食べ物の除去を行わないようにしましょう。食物アレルギーを疑うときは必ず動物病院を受診し、治療や食事内容は獣医師の指示に従ってください。
まとめ
今回の記事では、犬によく見られる皮膚病の種類や症状、治療法について解説してきました。
皮膚病のなかには、皮膚糸状菌症のように、同居する犬猫や飼い主にうつりやすい病気もあります。もしも感染してしまった場合、治療には時間がかかるので、あせらずにじっくり治しましょう。
また、ノミアレルギー性皮膚炎や疥癬は、人にうつるわけではありませんが、家にノミやヒゼンダニがいると人間も刺されて皮膚病になることもあります。ノミやダニの住み家となる抜け毛やフケなどが床にたまらないように、部屋をこまめに掃除することが皮膚病の予防にもつながります。
人間と同じように愛犬の皮膚病も早期発見・治療が大切です。日頃から犬をよく観察し、皮膚に異常を見つけたり、愛犬がいつも以上に体をかいたり、なめるなどの行動が見られたら、動物病院で診てもらうとよいでしょう。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。