犬の熱中症を疑う症状とは
熱中症は、暑い環境に置かれたり運動したりして体温が異常に上がり、体温が高い状態が長く続くことによって発症します。高体温の時間が長いほど多くの細胞が損傷を受け、死亡したり後遺症が残ったりすることもあり、回復に時間がかかります。
はじめに、熱中症が疑われる症状と、その中でもすぐに対処が必要な緊急性の高い症状についてみていきましょう。チェックポイントは、以下の4点です。
・呼吸の変化
・体温の変化
・行動の変化
・体の状態の変化
呼吸の変化
【初期症状】浅く速い呼吸
【緊急の対応が必要な症状】努力性呼吸や、呼吸数の減少
犬の正常時の呼吸数は、18~40回/分と言われています。
犬は暑くなると舌を出して「ハッハッハッ」という早く浅い呼吸をして熱を下げようとします。熱中症になると呼吸数が増え、さらに進行すると「ゼイゼイ」という激しい喘鳴(ぜいめい)音を伴う荒い“努力性呼吸”をするようになります。
努力性呼吸とは、普段無意識的に行っているような呼吸ではなく、意識的に筋肉を動かしてがんばって呼吸をしている状態で、呼吸困難のときにみられる症状です。
熱中症が悪化すると、正常な血圧が保てずにそれぞれの臓器に血液が回らなくなり、ショック状態に陥ります。この場合、逆に呼吸数が減少してきますが、この状態はとても危険なサインです。
体温の変化
【緊急の対応が必要な症状】41℃以上、もしくは平熱以下の低体温
人は、汗をかくことで熱を逃がし体温調節をしますが、犬は汗腺がなく、汗をかくことができないため、口を開けてハアハアと息をすることで体温調節をしています。また、犬は、全身が毛におおわれているため、人よりも体温を調節することが苦手です。
犬の平熱は、38.5℃前後です。体温が41℃を超えると高体温とされ、細胞がもとに戻れないほどのダメージを受ける危険性があり、複数の臓器が働かなくなると、多臓器不全で死亡することもあります。
また重症のケースでは、体温が低下し平熱以下になることもあり、非常に危険な状態と言えます。
行動の変化
【緊急の対応が必要な症状】立てない、意識がない、意識がはっきりしない、痙攣
熱中症になると、動きたがらない、ぐったりしている、立てるがよろつく、立てない、意識がない、意識がはっきりしない、痙攣といった症状が起こります。立てない状態であれば、すぐに救急の処置が必要になります。
体の状態の変化
【緊急の対応が必要な症状】舌や口の粘膜が青紫や蒼白
体温が上がると血管を広げて熱を放散しようとするため、舌や口の粘膜の色が鮮やかな赤色になります。しかし、熱中症が進行し、ショック状態になると逆に血管が縮み、粘膜が青紫や蒼白になり、チアノーゼと呼ばれる症状になります。
ほかに、吐く、下痢をするといった消化器症状や、失禁するといった危険な状態に陥ることもあります。
熱中症で飼い主がすべき初期対応
もしも、愛犬に熱中症を疑う症状が見られたら、病院に行く前に飼い主が施す処置がとても重要になります。熱中症は、高い体温の時間が長く続けば続くほど重症化し、回復する確率が下がっていくためです。では、どのような初期対応が必要なのか、みていきましょう。
熱中症の初期症状
犬の熱中症は最初に
・元気がなくなる
・ぐったりする
・熱が出る
といった症状が出ることが一般的です。軽症のうちであれば涼しい場所に移動して体を冷やし、水分を自力でしっかり補給できれば徐々に回復します。
とにかく体を冷やす!
熱中症で体温が上がっている犬は、一刻も早く体を冷やし、体温をこれ以上上昇させないことが重要です。タオルでくるんだ保冷剤や氷のうで、大きな血管が通る以下の部位を冷やしましょう。
頸部(けいぶ):喉元から首のあたり
腋窩(えきか):前足の付け根の内側
鼠径部(そけいぶ):鼠径部は後ろ足の付け根の内側
また、濡らしたタオルで体を覆い、うちわや扇風機をあてて体を冷やし、体温上昇を抑える方法もあります。タオルでくるむのは、一気に冷やしすぎないためです。
そのほかにも水をかけたり、水を張ったたらい等に入れるという方法もありますが、意識が朦朧としているようなケースでは溺れてしまう心配もあるため注意が必要です。
また、冷たすぎる水をかけるのも血管が収縮してしまい、熱が放散できなくなり、あまりよくありません。水をかけるなら常温の水を使いましょう。
水分は、欲しがっていたら与えても問題はありません。ただし、無理やり飲ませると誤嚥(ごえん)することもあり危険です。できるだけ早く動物病院に連れていき、点滴をしてもらいましょう。
できるだけ早く動物病院へ!
前章で解説した【緊急の対応が必要な症状】が見られたら、すぐに病院に連れて行きましょう。車で病院に行く場合は、出発前にクーラーをかけて車が冷えてから乗せるようにしてください。
また、飼い主一人で犬を連れていくときは運転中犬を冷やし続けることは難しいので、ネットの包帯に保冷剤を入れ、犬の首に当ててあげましょう。ネットの包帯は、ストッキングなどでも代用できます。
できれば先に動物病院に連絡しておく
熱中症は緊急性が高い病気なので、動物病院でも犬の状態によっては優先的に対応する必要があります。熱中症の疑いがある犬が緊急で来院することが分かれば、病院側も準備することができるため、できれば先に動物病院に連絡するとよいでしょう。
熱中症になりやすい要因
熱中症を起こしやすい要因には、犬種や年齢のほか、体形や既往歴なども影響すると言われています。
犬種
寒い地方原産の犬
シベリアンハスキー、アラスカンマラミュートといった寒い地方原産の犬は毛が厚くて皮膚からの熱の放散が阻害され、遺伝的に暑さに弱いです。
短頭種
パグ、フレンチブルドッグといった短頭種の犬は、もともと気道が狭く気道がつまりやすい体形です。また、鼻が短いせいで吸った空気が十分冷やされないまま体に入っていくため、体温が上がりやすいと言われています。
大型犬
コリー、シェパードなどの大型犬は呼吸量が多く、熱い空気が肺にたくさん入ることで体温が上がりやすいです。
年齢
シニア犬や子犬は、体温調節の機能が低下している、もしくは未発達のため、成犬に比べて熱中症になりやすいと言えます。
肥満
太っていると気管が圧迫されて呼吸困難を起こしやすかったり、体内に脂肪が多いと体の中の熱を逃がしにくくなったりするため、熱中症にかかる可能性は高まります。
既往歴
気管虚脱(きかんきょだつ)、咽頭麻痺(こうとうまひ)、鼻腔狭窄(びくうきょうさくしょう)など、空気の通り道が狭い病気を持っていたり、心臓病、てんかんの既往がある犬は、熱中症のリスクが高いです。また、以前熱中症にかかったことのある犬は、再びかかりやすいと言われています。
犬の熱中症対策と予防策
十分な暑さ対策を行うことで、熱中症を予防することができます。ここでは、飼い主ができる、有効な熱中症対策をご紹介します。
肥満を解消する体形管理
肥満は、熱中症も含めて、さまざまな病気の要因となります。したがって体形をしっかりと管理することが、熱中症対策にもつながります。効果的にダイエットをするためには、自己流で行うよりも獣医師や病院スタッフに相談し、フードの見直しや運動のアドバイスを受けてみましょう。
通気性を高めるサマーカット
気温が高くなる時期に、犬種本来の長さよりも短く毛を刈る“サマーカット”も熱中症対策には有効です。サマーカットには、通気性がよくなり涼しくなるほか、手入れが楽になるといったメリットもあります。
しかし、短ければ短いほどいいというわけではなく、毛が短くなることで皮膚が直射日光の影響を受けやすくなったり、虫に刺されやすくなったりするデメリットなどもあるため、短くなりすぎないように注意しましょう。
外出時はクールベストを着用
保冷剤を入れるポケットの付いたバンダナや服も販売されています。散歩に行くとき使ってみるとよいでしょう。
快適な室温を保つ環境づくり
毛の種類や量、犬種によって違いはありますが、犬にとって快適な気温は22℃前後と言われます。特に留守番などをさせる際には、適切にエアコンを使用しましょう。
犬の熱中症対策で注意すべきこと
最後に、熱中症に関していくつか注意すべき点について補足します。
Q.熱中症は、夏場だけ気をつけていればよいですか?
A.アニコム損保の調査によると、熱中症による保険の請求件数は5月ごろから増加し、7~8月がピークとなります。熱中症は暑い夏に起こりやすいのは確かですが、閉め切って空気の流れの悪い車内、湿度が高い状況、激しい運動の後などでは季節に関係なく発症することもあるので注意しましょう。
Q.家でも普段から体温測定をしたほうがいいですか?
A.動物病院では、犬の体温は肛門に体温計を挿入して計測する直腸温で測ることが多いですが、一般のおうちでそこまですることはあまりないでしょう。そこで犬と日ごろからよくスキンシップを取り、普段の犬の体の熱さを知っておくことが予防策にもつながります。耳の先や足の先など、体の末端部と言われる部分は毛も少なく短いことが多いため、熱を感じやすいポイントです。
Q.短時間なら車の中に犬を残しても大丈夫ですか?
A.JAFの真夏の車内温度に関する実験では、車内温度が黒い車では最高57℃、窓を3cm開けた車でも45℃に上昇するという結果が出ています。人間同様、短時間でも車内に犬を残すのは絶対にやめましょう。
参照:一般社団法人 日本自動車連盟(JAF)|真夏の車内温度(JAFユーザーテスト)
Q.熱中症の指標はありますか?
A.環境省の「熱中症予防情報サイト」で湿度、 日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、気温の3つの要因から算出された熱さ指数(WBGT)が公表されています。熱中症の危険は、人も犬も同じなので、こちらを参考にしてみるとよいでしょう。
参照:環境省|熱中症予防情報サイト
Q.夏の散歩の注意点を教えてください。
A.犬は体高が低く、人よりも地面からの輻射熱の影響を強く受けます。真夏のアスファルトの温度は、50~60℃程度にもなるため、真夏の散歩は気温が低めの早朝か、日没後数時間たってから行うようにしましょう。気温が暑くなってきたら無理して外に散歩はしないほうがよいでしょう。
まとめ
この記事では、犬の熱中症に見られる症状から、熱中症になったときの初期対応、熱中症になりやすい要因、対応策と予防策まで解説してきました。
熱中症では、高い体温の状況が長く続くほど細胞や臓器が受けるダメージが大きくなるため、飼い主は犬の様子をよく確認して、熱中症を疑う症状があればすぐに体を冷やすといった体温を下げるための処置を行うことが大事です。
また、下記症状が見られる場合は、緊急対応が必要です。的確な処置を施し、できる限り急いで病院に連れていきましょう。
【熱中症による危険な症状】
・努力性呼吸や、呼吸数の減少
・41℃以上、もしくは平熱以下の低体温
・立てない、意識がない、意識がはっきりしない、痙攣
・舌や口の粘膜が青紫や蒼白
→体を冷やしながらすぐに病院へ!
人間同様、対策や予防策をしなければ、犬も熱中症にかかりやすくなり、最悪の場合命を落としてしまう危険性もあります。愛犬が長く健康で暮らしていけるよう、飼い主が安全な環境を整えてあげることを心がけてください。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。