充血や目やにといった目のトラブルは、目薬での治療により短期間で治るものもあれば、数日で失明につながるもの、目以外の部位の病気が関与しているものなど、原因を判断するのは難しいといわれています。
この記事では、犬によく見られる目の病気の症状や治療法を解説します。目のトラブルに早く気づくためのチェックポイントも紹介しますので、ぜひ普段のスキンシップや遊びの時間に犬の目をよく観察してみましょう。
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犬の目によく発生する病気は?
犬でよく起こる目の病気には、白内障や緑内障のほかに、炎症性の病気や、腫瘍(しゅよう)、まぶたなど目の周辺組織の病気があります。これらの病気について症状や治療法をみていきましょう。
- 炎症性の病気:角膜炎、乾性角結膜炎(ドライアイ)、角膜潰瘍、ぶどう膜炎、瞬膜突出(チェリーアイ)、進行性網膜萎縮
- 腫瘍性の病気:マイボーム腺腫、メラノーマ
- まぶたなど目の周辺組織の病気:眼瞼内反症
1.炎症性の病気
病原体が目に感染したり、ほかの臓器の病気の影響が目に出てきたりすると、目に炎症が起きます。
角膜炎
ウイルスや細菌、真菌の感染、まつ毛や異物などの刺激、アレルギーなどが原因で角膜に炎症が起きている状態です。炎症は角膜上皮の範囲にとどまっているため、抗生剤や炎症を抑える点眼薬を使用し、ほとんどの場合、短期間で治ります。
乾性角結膜炎(かんせい かくけつまくえん)・ドライアイ
涙の量や質が低下すると目の表面が乾いてしまい、角膜や結膜が傷つく結果、目の充血が続いたり目やにが出やすくなります。
パグやフレンチ・ブルドッグなどの短頭種は、先天的に涙腺の形成不全で乾性角結膜炎になりやすいといわれています。
ほかにも、感染症や糖尿病など全身の病気でも発症することがあります。治療は、涙を補うための点眼薬や、炎症を抑えるステロイドの点眼薬を使います。
角膜潰瘍(かくまくかいよう)
角膜潰瘍は、犬の目の病気のなかで多く見られる病気です。角膜の炎症が悪化し、角膜の表面だけにとどまらず角膜の内部にまで炎症が及んでいる状態です。結膜の充血や涙の増加、眩しがる、角膜浮腫などの症状が見られ、重度になると角膜以外の組織に炎症が広がってしまうこともあります。
治療は点眼薬の使用が主ですが、角膜に穴が空いてしまうまで進行していると手術を検討します。
ぶどう膜炎
虹彩、毛様体、脈絡膜の部分を合わせてぶどう膜といい、この部分に起きた炎症をぶどう膜炎といいます。ぶどう膜炎は、感染やアレルギー、異物の刺激で発症することもあれば、角膜潰瘍が広がったり、糖尿病など全身の病気が影響していることもあり、原因の特定が難しい病気です。
ぶどう膜は網膜に接しているため、ぶどう膜の炎症が物の見え方に影響してくることもあります。
瞬膜突出(しゅんまくとっしゅつ)・チェリーアイ
瞬膜(第三眼瞼)が眼球の前に出てきてしまう状態で、見た目から「チェリーアイ」ともいわれ、見た目ですぐ診断できます。アメリカン・コッカー・スパニエル、ビーグル、ペキニーズ、フレンチ・ブルドッグなどの犬種の子犬によく発生します。
治療は、ステロイドの点眼薬や眼軟膏を使用したり、体質的に繰り返すケースでは手術で突出を治す方法もあります。
進行性網膜萎縮(しんこうせいもうまくいしゅく)
両目の網膜が変性する病気で、治療をしても進行を止めることはできず、最終的には失明してしまいます。遺伝性の病気と考えられています。はじめは夜や暗いところでものが見えにくいという症状から始まります。有効な治療法は、残念ながら特にありません。
2.腫瘍(しゅよう)性の病気
次に、目に発生することの多い腫瘍をみていきましょう。
マイボーム腺腫(せんしゅ)
マイボーム腺はまぶたの周辺にあり、眼球に適度な油を分泌しています。この腺の細胞が増殖して腫瘍ができるのがマイボーム腺腫です。一般的に良性であることが多く、腫瘍が大きくなって犬が目をこすったり気にしているようであれば切除すると完治します。ほかの腫瘍と同じく、シニアの犬に多く発生します。
メラノーマ
メラニン産生細胞が増殖してできた腫瘍をメラノーマといいます。メラノーマは、皮膚や、口腔内、粘膜などざまざまなところで発生し、なかには眼球内にできることもあります。目にできるメラノーマは良性のことが多いですが、悪性の場合は眼球摘出の手術を行うこともあります。
3.まぶたなど目の周囲組織の病気
目の周囲組織に起こりやすい病気をご紹介します。
眼瞼内反症(がんけんないはんしょう)
眼瞼内反症は、まぶたが眼球側に巻き込んでしまっている状態で、まつ毛や被毛が持続的に角膜や結膜を刺激することで角膜炎や結膜炎、角膜潰瘍を起こします。トイプードル、パグ、ペキニーズなどの犬種でよく発症します。内反が軽度な症例ではまつ毛を抜いて対処しますが、重度な場合はまぶたの皮膚を切開して縫い縮めて内反を防ぎます。
動物病院での目の検査項目
動物病院では、目にトラブルがある犬が来院すると、次のような項目を検査します。
- 問診
- 外貌検査
- 対光反射
- 眼瞼反射
- 眼圧測定検査
- スリットランプ検査
- 眼底検査
このほかにも必要に応じて、隅角検査、比色対光反射、網膜電位図検査などを行います。
問診
飼い主に犬種、年齢、犬の状態を聞き、情報収集します。目の病気には遺伝性のものや、好発犬種があるものも多いため、犬の親や兄弟に同じような病気になった犬がいないかというのも大事な情報です。
外貌検査(がいぼうけんさ)
獣医師が犬に触れながら、眼球の位置や、犬と目が合うか、左右の目に違いがないか、目の色、充血の状態などを見て検査します。眼球だけではなく、まぶたやまつ毛、周囲の皮膚にも異常がないか確認します。
対光反射
目に入る光の量は、瞳孔の大きさで決まります。暗いところでは光をたくさん取り込むため瞳孔が拡大します。診察では、ペンライトで目に光を当て、瞳孔が小さくなるか(瞳孔反射)をみます。また、急に強い光をあて、目を閉じる反応があるかも確認します。
眼瞼反射(がんけんはんしゃ)
目の周りにある神経の働きが正常か調べるため、目頭や目尻に触れ、犬がまぶたを閉じるかを確認します。動物の意識レベルが低下しているときなども眼瞼反射を見ることがあります。
眼圧測定検査
眼球の圧力を眼圧計という機械で測定します。機械の先が一瞬目に触れますが、特に痛みは感じないので犬が動かなければ数秒で終わる検査です。緑内障では、眼圧が上昇します。
スリットランプ検査
角膜、前眼房、虹彩、水晶体などの器官に浮腫や炎症がないかを目に細長い光を当てて観察します。痛みはなく1分程度で終了します。
眼底検査
特殊なレンズで目の中を観察し、目の奥のほうにある網膜や視神経乳頭の状態を観察します。痛みは特になく、短時間で終わる検査です。
犬に視力の低下が見られたら……
犬の視力は0.2〜0.3程度で、色の識別も私たちのように鮮やかではなく全体がグレーに見えているといわれています。そのため、犬は普段私たちほど視力に頼っていません。
犬は嗅覚や聴覚がとても発達しているため、視力が落ちてきてもある程度ハンディをカバーすることができます。室内など慣れた環境なら以前とそれほど変わらずに生活できる犬もいます。そのため、飼い主が「もしかして見えていないかも?」と気づいたときには、視力低下がだいぶ進んでしまっていることもあります。
しかし、目が見えないことで階段や段差から落ちたり、物にぶつかるといった可能性はあるので、飼い主がサポートしてあげる必要があります。もしも愛犬に視力の低下がみられたら、飼い主は次の3点を意識してみてください。
①今までよりたくさん声をかける
視力を失った犬は、見えづらさを補うため音に対して過敏になります。音がどの距離で鳴っているのかがわからなくなることから、車道のトラックの音に驚いて後退りして側溝に落ちるといったこともあるかもしれません。飼い主は、今まで以上に犬に声をかけ、安心させてあげましょう。
②家具の配置は大きく変えず、犬の動線上はスッキリとさせる
慣れ親しんだ家の中で急に家具の配置を変更すると、犬は逆に混乱してしまいます。犬がよく動く範囲は大きな家具を置かないようにし、お風呂場やベランダなど、危険な場所にはつい立やガードを設置しましょう。家具の角など危険なところはカバーで覆ってケガをしないようにしましょう。
③段差にはゲートやスロープを設置する
視力が低下または失明してしまった犬は、階段を登ることはできますが、降りることはできません。階段から落ちてケガをしないよう、ゲートやスロープを設置しましょう。
異常に早く気づくための目の健康チェックポイント
目の病気には、緑内障のように短期間で急激に悪化する病気もあります。普段から犬の目や行動をよく観察し、異常に早く気づけるようにしましょう。
異常発見のポイントは、左右差をみつけること
目の異常は片側の目から発症することが多く、両目同時に現れることはあまりありません。そのため、まずは左右の目を比べてみることで異常を発見しやすくなります。トラブルがあるときに出やすい症状を下にまとめました。
- 目の大きさや開き具合が左右で異なっている
- 目が充血している
- 目をショボショボさせたり、まぶしそうにしている
- 目が白濁している
- 目やにがでている
- 涙の量が増えたり、涙やけができている
目やには病気?
犬が起きたときに目に少し目やにがついている程度なら問題ありません。もし、目の淵にびっしりと目やにがついていたり、糸を引いている、黄色や黒っぽい色の目やにがついているというときは、細菌やウイルスの感染、アレルギーなどにより目に炎症が起こっている可能性があります。
目やには、角膜など目の組織を傷つけないように犬の目を閉じさせ、濡らしたガーゼでふやかしながら取ってあげましょう。炎症が起きている兆候があるときは、動物病院を受診し、抗生物質や抗アレルギー作用のある目薬を処方しましょう。
犬の行動を観察する
視力低下の原因は、アレルギーや免疫、糖尿病など全身の病気が関わっていることもあり、一見、目に関係のないような行動が現れることがあります。犬の様子をよく観察し、視力が低下すると次のような行動がみられるので注意しましょう。
- よく物にぶつかっている
- 階段や段差を怖がる
- 夜や暗いところで行動するのを嫌がる
- 極端にまぶしがる
- 動きが鈍くなった
- 顔周りや目を気にしてこすっている
- 元気や食欲がない
- 寝てばかりいる
- 飼い主から離れたがらない
まとめ
犬によく見られる目の病気について、炎症性の病気、腫瘍、目の周囲組織の病気にわけて、症状や治療法を解説しました。
犬の目の病気には短期間で失明に至るものもあり、飼い主が目の異常に早く気づいてあげることが重要です。異常を発見するためのポイントとしては、
- 左右差を見つける
- 犬の行動をよく観察する
気になることがあったら、動物病院を受診しましょう。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。