愛犬が誤って人のご飯を食べてしまったことはありませんか?人の食べ物には、時に中毒を起こす危険なものがたくさんあります。この記事では、中毒を起こす危険な食べ物の紹介から、万が一中毒が起きてしまったときの対処法や中毒の予防法まで詳しく解説します。
中毒の発生率はこんなに多い!
ペット保険会社の調査によると、0歳〜10歳までの犬25万頭を対象とした調査において、誤飲件数は全体の保険請求の約1.7%を占めます。これを全国の飼育頭数に当てはめると、毎年20 万件以上もの誤飲事故が発生していると試算できます。
中毒を起こした際、幸いすぐに治ることもあれば、時には命を失うこともあります。人にとっては無害でも、犬にとっては猛毒となる食べ物は数多くあり、飼い主の「大丈夫だろう」という軽い考えが命取りとなってしまいます。
犬が人の食べ物を誤食する理由
犬は、もともと好奇心が強く、身の回りの食べ物やおもちゃに興味を示して食べてしまうことがあります。また、空腹時や栄養不足のときも、異物を食べて栄養を補おうとする場合があります。そのため普段から愛犬の体型を観察したり、食欲の程度を把握しておくことが重要です。
【参照】アニコム ホールディングス|家庭飼育犬における誤飲発生の実態に関する分析
中毒になる危険な食べ物一覧
中毒を引き起こす食べ物はたくさんあり、種類も多岐に渡ります。ここでは、身近で代表的な食品を中心に紹介します。
カフェイン
カフェインは、コーヒー、紅茶、エナジードリンク、チョコレートなどに含まれます。犬はカフェインを分解する能力が低く、発症すると心拍数の増加から嘔吐や下痢、時に呼吸困難を引き起こし命に関わることもあります。
キシリトール
人工甘味料としてガムやキャンディーに使われるキシリトールは、犬に低血糖や肝不全を引き起こします。血糖値が低下するとけいれんが起こるほか、肝機能障害による黄疸(おうだん)などの症状が現れることも。甘い匂いに釣られて誤食してしまう犬が多いため、注意が必要です。
ブドウ・ベリー類
ブドウやレーズンは、腎臓に障害をもたらします。急性腎障害を発症すると嘔吐、下痢などの初期症状が出始め、進行すると尿がまったく出せなくなり、やがて命を落とします。少量でも症状が出てしまう子もいるため、非常に危険です。
カカオ
チョコレートの成分カカオに含まれる「テオブロミン」は、犬にとって致命的です。特にダークチョコレートは、毒性が高いことで知られています。症状としては嘔吐、けいれん、時に心不全を引き起こし、命を落とす危険もあります。
ねぎ類
玉ねぎ、ネギ、ニンニクは、赤血球を破壊する物質を含んでいます。中毒量を誤食すると赤血球が破壊されて貧血や血尿が起こり、酸欠状態になると呼吸困難、多臓器不全に陥ります。加熱をしていても毒は消えないため、注意が必要です。
アボカド
アボカドの実や果皮、葉には「ペルシン」という物質が含まれており、嘔吐や下痢を引き起こします。また高脂質・高カロリーのため、摂取後、すい炎や肝不全などのリスクもあります。
アルコール
犬は、人よりもアルコールを分解する能力が低いため、少量でも中毒を引き起こします。中毒になると嘔吐、ふらつき、昏睡(こんすい)などの症状が出てしまい、重症では命に関わることもあるので、注意が必要です。
中毒を疑う症状
愛犬が普段と違う様子を見せたとき、中毒の可能性を考えることはとても重要です。中毒は原因物質によって症状が異なり、一見軽い不調に見えても危険なケースもあります。ここでは、代表的な中毒の症状を解説します。
消化器症状(嘔吐・下痢など)
毒性の強い食べ物を摂取した場合、嘔吐や下痢が見られることが多いです。胃腸の損傷や、腸が詰まった場合は激しい痛みも伴います。急にお腹を触られるのを嫌がったり、背中を丸めて痛がる姿勢を取る場合は注意が必要です。
呼吸器症状(呼吸困難など)
開口呼吸や胸を大きく動かし息をしている、あえいでいる場合は、呼吸困難になっている可能性があります。呼吸器症状は進行が早く、放置すると命の危険を伴うため、早期対応が不可欠です。普段の呼吸状態をよく観察しておき、いつもと違う様子を見逃さないようにしましょう。
神経症状(けいれんなど)
毒物が神経系に作用すると、異常行動や神経症状が見られます。特にキシリトールやカフェイン、テオブロミンが原因の中毒では、けいれんを起こすことがあります。発作が続く場合は、脳へのダメージが広がるリスクがあるため、一刻も早く対処が必要です。
ショック
ショック状態は、中毒の最終段階で見られる危険な状態です。全身に十分な血液や酸素がいかなくなることでショック状態に陥ります。ぐったりして動けない、歯茎が白くなる、体温が冷たいなどの症状がでたら、すぐに病院に連れていきましょう。
中毒が起こるまでの時間
中毒が起こるまでの時間は、食べた毒物の種類や量、犬の体格によって異なります。カフェインやキシリトールのように食べて数分~数十分で急激に症状が現れることもあれば、ぶどうやレーズンのように数日経ってゆっくりと腎不全の症状が現れることもあります。食べてすぐに症状が出なくても、油断せず獣医師に相談するのがとても重要です。
食べ物以外の危険なもの
人の食べ物以外にも、愛犬の周りにはたくさんの危険が潜んでいます。危ないものを事前に把握することで愛犬から危険を遠ざけ、中毒を防ぎましょう。
観葉植物などの植物
ポトスやユリなどの観葉植物は、実は犬にとって危険です。これらには口内や消化器を刺激する成分が含まれ、嘔吐や下痢を引き起こすことがあります。
また、街路樹のアジサイやキョウチクトウ(オレアンダー)も毒性が強く、葉や花を誤食すると神経や心臓への影響が出る場合があります。観葉植物はできれば愛犬が届かない場所に置き、散歩中は植物を食べないように目を離さないことが肝心です。
薬剤(殺鼠剤、毒餌剤、散布剤、人の薬)
家庭で使われる薬もまた、犬にとっては致命的です。誤って摂取すると、嘔吐、出血、けいれんなどの危険な症状が見られることがあります。そして人間用の薬も犬にとっては危険なことが多いです。愛犬の調子が悪いときは安易に人の薬を与えず、まずは専門機関に相談してみてください。
異物(おもちゃ、針)
犬は、好奇心から何でも飲み込んでしまうため、注意が必要です。異物が犬の喉や消化管に詰まると、窒息や消化器閉塞を引き起こすことがあります。さらに、針などの鋭利なものは消化管を貫通してしまうため、より大きな危険を伴います。
誤食してしまったときはどうする?
愛犬が誤食してしまうと、飼い主としては驚きと不安でいっぱいになるでしょう。しかし、ここで焦らず冷静に対応することが、愛犬の命を守る鍵となります。具体的にどうすればよいのか、ぜひ参考にしてください。
誤食後にまずやること
まず愛犬の誤食を見かけたら、すぐに止めてください。動物病院へ連絡して状況を詳しく説明し、いつ・何を・どれだけ食べたかをしっかり伝えられるようにしましょう。病院に連れて行く際は、実際に誤食した食べ物の実物やパッケージを持参するのも大切です。原因物質や食べた量が分かれば、大きなヒントになります。
誤食後の危険なNG行動
自己判断で無理に吐かせたり、薬や水を与えるのは危険です。特に針や毒性の強いものは吐かせると喉や食道を傷つけるリスクがあります。逆に症状が軽いからといって病院に行かずに放置すると、毒が体に広がり命に関わる事態を招くこともあります。誤食後は、必ず専門家の指示を仰ぐことが重要です。
動物病院での治療方法
中毒の治療方法は、食べたものの種類や症状によって様々です。愛犬の症状に合わせて適切な治療を選ぶ必要があります。
催吐(さいと)処置
催吐処置は、吐き気を促す薬を注射して吐かせることで、毒物を体の外に出す治療方法です。時間が立つと食べ物が腸に移動し効果が薄くなるため、誤食して時間が経っていない場合に行うことができます。
解毒剤の投与
特定の毒物に対しては、解毒剤の投与も効果的です。炭はチョコレート中毒などで使用し、毒を吸着し体外へ排出させる効果があります。また、有害金属の中毒ではキレート剤を使用して、無毒化することもあります。
胃洗浄
大量の毒物を摂取した場合などに、胃の中の毒物を体外に排出させるために行う解毒方法です。麻酔をかけて寝かせた状態で、チューブを胃に挿入して毒物をできる限り取り除き、生理食塩水などで洗います。
点滴
点滴は脱水を防いだり、ミネラルの補正や毒を体外に排出させるための治療です。様々な中毒の場面で多用され、症状の度合いに合わせて皮下点滴や静脈点滴を行います。
内視鏡
消化管の中の異物を直接取り除くための治療法です。 開腹手術を避けるため、負担が少ない方法として選ばれます。主にゴムボールや針など異物を飲み込んだ場合に使用されることが多いです。
開腹手術
開腹手術は、内視鏡で対応できない異物の除去や、中毒での重篤な状態に対処する最終手段です。異物を取り出したり、腸が傷ついて壊死している場合は腸自体を取り除くこともあります。大きな負担を伴いますが、命を救うために時には必要な処置です。
飼い主が気をつけるべきこと
愛犬の誤食を防ぐために、飼い主は日頃から愛犬の身の回りに配慮してあげる必要があります。以下のポイントを押さえて、上手に中毒の危険を回避しましょう。
人が目を離しているときは要注意
愛犬にとって、飼い主が目を離した隙が最も危険な瞬間です。特に食事中や台所での調理中、目を離した隙に落ちた食べ物を盗み食いすることがよくあります。愛犬から目を離すときは必ずケージやサークルの中に入れて、愛犬が自由に行動しないように習慣づけることが大切です。
危険なものは近づけない
危険な食べ物や品物は常に犬が届かない場所に保管しましょう。 誤食事故のほとんどは、飼い主の管理不足から発生しています。食べ物を保管する棚や、薬箱、ゴミ箱にはロック機能をつけたり、侵入防止ゲートなどで危険な場所に近づけないような仕組み作りが大切です。
万が一のときの救急病院を事前に把握
いざというときのために、近隣の動物病院の連絡先や開院時間を把握しておきましょう。夜中に発症してしまったときを考え、夜間救急病院の場所や交通手段をまとめておくこともおすすめです。
スマートフォンに病院の連絡先や住所を事前に登録しておくと、パニックになったときもすぐに連絡ができます。緊急時に迅速な対応ができるよう、事前の準備を欠かさないことが大切です。
愛犬の中毒を予防し穏やかな日々を送ろう
愛犬にとって、中毒は病気よりも身近に潜む危険かもしれません。しかし、事前に中毒の知識を身につけておくことで、誤食を防いで愛犬の命を守ることができます。可愛い家族とこれからも末長く過ごすために、愛犬の安全をより意識して過ごしてみてはいかがでしょうか。
【執筆・監修】
原田 瑠菜
獣医師、ライター。大学卒業後、畜産系組合に入職し乳牛の診療に携わる。その後は動物病院で犬や猫を中心とした診療業務に従事。現在は動物病院で働く傍ら、ライターとしてペット系記事を中心に執筆や監修を行っている。