犬の食事を考えてみる
犬が食事をしている姿を見るのが好きだ。
動物園でもフィーディングの時間をもうけて、客に食事シーンを見せたり、あるいは体験させたりしているが、「動物がごはんを食べている姿」に人間はなにかを感じてしまう、それは間違いないだろう。
犬の行動や健康、さらには飼い主とのコミュニケーションの質にも影響を与える「食事」。
食事は犬にとってももちろん重要なイベントであり、飼い主の提供する食事に対する反応は、その関係性に影響を及ぼすはずだ。
ドッグフードの栄養素とそのバランス
高品質なドッグフードは、犬に必要な栄養素がバランスよく含まれるように設計されている。
ビタミン、ミネラル、タンパク質、炭水化物、脂肪などの割合が適切に調整されており、AAFCO(米国飼料検査官協会)などの基準を満たす製品であれば、犬の健康維持に効果的なはずだ。
さらにドッグフードは保存性が高く、開封後も一定期間使用できるものが多い。
なにせ忙しい飼い主にとって、調理不要というのが手軽で使いやすい。
当然ながら、獣医や栄養管理士が開発に関与している製品も多く、犬の健康に適した配合を提供するための知見が活かされている。
とはいえ、低品質なドッグフードも存在するわけで、そこをどう見極めるか、というところだろう。
抗生剤などの化学物質を使用していないかとか、野菜や果物への農薬の使用の有無なども気になるし、加工の過程での栄養素の損失や変性、保存のための合成添加物も。
まあ、言い出せばキリがないのだが、ドッグフードを使っていると、どうしても気になってしまうのだ。
うちの子がフードをたべなくなった
そして、飽きちゃって食べなくなることも、ある。
フードボウルのにおいをすんすんと嗅いで、ぷいっと踵を返す。
「自分から餓死する犬はいない」とよくいわれているが、それはそうなのだ。
だから、いずれは食べるはず。
そうなんだけど、どうにもそんなハードコアな考えかたができず、甘やかしてしまう。
嗜好性が低いのがいけないのだ、と食べなかったフードを片づける。 ぼくは、愛犬が美味しそうに食事をしている姿を見ているのが、好きなのだから。
手作り食はどうだろうか
では、愛犬家の究極の選択、手作り食への移行を考えてみようか。
犬の体調や疾患に合わせた食材の選択が可能なのが、手作り食のアドバンテージ。
特定のアレルゲンを避けたり、健康状態に合わせたタンパク質や脂肪の調整が容易になる。
新鮮な食材を使用するわけだから、保存料などの添加物を含まない、自然な食事を提供することができる。
となれば、免疫機能や消化機能のサポートだってできるし、なんといっても、食事を用意する過程で、飼い主と犬の絆が深まる。
ほら、なんていったって、いいにおい。
愛犬がわくわくして食事を待つ姿は、なんともいえない幸福感がある。
とはいえ、手作り食で犬に必要な栄養素をすべて揃えるのは困難で、特にビタミンやミネラルなどは不足しやすくなる。
栄養の偏りは、長期的に健康に悪影響を及ぼす可能性があるから、そうとう注意しなきゃいけない。
さらに、手作り食は準備に手間がかかり、毎日続けることが難しいと感じる人だっているだろう。
作り置きや冷凍保存などで栄養素が劣化するリスクも馬鹿にならない。
ましてや調理や保存方法が不適切だと、食材が傷んだり、犬にとって有害な細菌が繁殖することも。
特に生肉を使う場合は慎重な衛生管理が必要だし、犬は人間ほどシビアじゃないという意見もあるが、悪い食物はほんとうに危険なのだ。
犬にとって重要な栄養素
犬にとって重要な栄養素を考え直してみようか。
まずはタンパク質。筋肉や臓器の維持、免疫機能のサポートに不可欠な栄養素。特に動物性のタンパク質(鶏肉、牛肉、魚など)はアミノ酸バランスがよい。
そして脂質。エネルギー源としても重要で、皮膚や被毛の健康維持に役立つ。必須脂肪酸であるオメガ3、オメガ6も含まれることが望ましい。
ビタミンとミネラルについて。ビタミンA、D、E、B群、カルシウム、リン、亜鉛などは、免疫機能、骨の健康、酵素の働きをサポートする。これらはバランスよく摂取することが大切。
さらに炭水化物。炭水化物もエネルギー源の一部として役立つが、犬のからだには必須ではないため、消化の良い穀物や野菜などを少量加えるのが適切かもしれない。
決め打ちしないのもよいかもしれない
犬にとって最適な食事の選択というのは、ライフステージや健康状態、個々の嗜好に応じて異なるわけだ。
であれば、特に決め打ちする必要はないのかもしれない。
そのとき、そのステージでベストとはいわないけれども、ベターなものを選ぶ。
少なくともよく食べてくれるほうにする。
栄養状態は必ず犬のからだに現れるから、ちゃんとボディチェックを毎日する。
きっと痩せたり、太ったりするけれど、それは許容範囲ならいいんじゃないかな。
体重をキープするだけが健康管理ではないし、つい食べ過ぎちゃったり、食欲が沸かなかったりするのは、生きていれば自然なことだ。
食事はメインイベントだけど、ルーティンでもある
食事は犬にとってメインイベントだけど、ルーティンでもある。
ならば、こちらの都合と愛情を秤にかけずに混ぜ合わせて、答えを導き出す。
そんな感じでいいのかもしれない。
おっと、ちょっと待っててね、いまごはんの用意をするね。
食べることは、生きること
朝の日差しが窓から差し込むと、ぼくはぬくもりを感じながら目を開けた。彼女が動く気配で「朝が来た」とすぐにわかる。彼女のベッドから降りる音、キッチンに向かう足音、そしてぼくの名前を呼ぶやさしい声。それが、一日が始まる合図だ。
「光太郎、ごはんよ」
その言葉が聞こえた瞬間、ぼくは起き上がる。彼女はいつも食事に気を使ってくれていて、栄養バランスもしっかり考えてくれる。最近はサーモンがお気に入りだと気づいたらしい。ほんのり香ばしいサーモンのにおいが漂うと、もうどうにも待ちきれない。
食事の準備をしているあいだ、ぼくは決して彼女を急かさない。彼女の動きをじっと見つめながら、準備が整うのを待つ。彼女もそんなぼくの姿に気づいて、微笑んだ。ぼくの心はあたたかい気持ちでいっぱいになる。
皿が置かれ、彼女がなにかを言う。ぼくはぴたりと止まり、彼女の顔を見上げる。お互いの目が合うと、少しだけ照れくさい。けれどその瞬間、ぼくと彼女のあいだに見えない絆が流れているように感じる。次に聞こえるのは、「どうぞ」。その言葉がどんなに心地よいか、彼女は知っているのだろうか。
皿にのせられたあのサーモンの香ばしい香りがぼくの気持ちをさらに高める。カリッとした感触とやさしい味わいが口の中に広がる。彼女のそばで食事をしていると、不思議な安心感がぼくの中に満ちていくことに気づく。ここが安全な場所で、ぼくがここにいることが、ただただ「大丈夫だよ」と言われているような気持ちになるのだ。
食べ終わると、彼女はにこっと微笑んで「おいしかった?」と聞く。そのたびに、ぼくは小さく意思表示をする。すると彼女は笑って、「そう、よかったね」とやさしく頭を撫でてくれる。彼女の手はあたたかくて、ぼくの背中をなでるたびに心の奥まで癒される気がする。ぼくにとって彼女の笑顔と手の温もりは、どんなごちそうよりも満ち足りたものなのだと思う。
ぼくは食事を通じて、ただお腹が満たされるだけでなく、心も満たされていることに気づく。あの日、ひとりでさまよっていた頃にはこんな穏やかな日常があるなんて、想像もできなかった。そして、そんな日々をともにする彼女の存在が、ぼくにとって何よりの「家」だった。
彼女がぼくに与えてくれる食事と愛情は、ぼくにとって生きる力そのもの。だからぼくは食べ終わった後、彼女の足元にそっと寄り添い、ちょこんと座る。今日も満たされた心で、彼女のそばにいられることが幸せだと、ぼくは静かに感じている。わん。
文と写真:秋月信彦
某ペット雑誌の編集長。犬たちのことを考えれば考えるほど、わりと正しく生きられそう…なんて思う、
ペットメディアにかかわってだいぶ経つ犬メロおじさんです。 ようするに犬にメロメロで、
どんな子もかわいいよねーという話をたくさんしたいだけなのかもしれない。