真菌症とはどんな病気か

真菌は、動物でも植物でもない独立したグループの生物です。死んだ動植物の組織や排泄物などを分解し栄養を取り込んで生きており、胞子を飛ばして増殖します。
真菌症は病原性真菌が引き起こす感染症
真菌には、キノコやコウジカビのように病原性を持たないものと、病原性を持つものがあります。真菌の胞子は空気中や土の中に多く存在し、病原性真菌の胞子が皮膚に付着したり、呼吸によって吸い込まれたりすると、人間や動物に感染症を引き起こします。
真菌症の特徴
真菌は、増殖の速度が細菌やウイルスと比べて遅いため、真菌症はゆっくり進行していきます。体力や免疫力がある健康な犬では、体の防御機能が真菌を排除するので真菌症を発症する確率はあまり高くありません。

注意が必要な犬は、以下のような犬です。
- 子犬や高齢犬
- 持病のある犬
- 病中病後で免疫力が弱っている犬
- 抗がん剤や免疫抑制剤を使っている犬
- 皮膚が弱く、肌が荒れている犬
飼い主が注意すべき真菌症
ここからは、動物から人にもうつる真菌症の「皮膚真菌症」と、繰り返しやすい真菌症の「マラセチア皮膚炎」「外耳炎」を解説します。
犬の真菌症①|皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)
皮膚糸状菌症は、同居のペットや飼い主にも感染する可能性がある「人獣共通感染症」です。同居しているのが猫やうさぎなど犬以外の動物でも移ります。
皮膚糸状菌症の原因
Microsporum canisやTrichophyton属の真菌が皮膚に感染して起こります。感染した動物との直接接触だけでなく、抜け毛や落ちたフケ、使用した食器やおもちゃ、寝具などのペット用品などからも感染します。

皮膚糸状菌症の症状
皮膚糸状菌症に感染した犬では、以下のような症状が見られます。猫などほかのペットでも同じような症状が出るので、同居のペットがいるおうちでは注意しましょう。
- 頭部、顔、前肢などに円形の脱毛
- 皮膚の赤みや発疹
- フケの増加
- 軽度のかゆみ
- 重症になると、かさぶたの形成

人にうつったときに出る症状
人が皮膚糸状菌症にかかると「リングワーム」と呼ばれる赤い指輪のような特徴的な発疹が出ます。そのような症状が出たら皮膚科を受診し、自宅の犬が皮膚糸状菌症にかかっていることを伝えて薬をもらいましょう。犬用に動物病院で処方された薬は塗らないでください。

皮膚糸状菌症の診断
皮膚糸状菌症の診断は、病変部の毛やフケなどを採取し、顕微鏡で真菌を観察します。ウッド灯という特殊なライトを当てると感染した部分が光るという検査方法もありますが、検出率が50%程度のため補助的に行うこともあります。
皮膚糸状菌症の治療
皮膚糸状菌症の治療では、抗真菌薬、皮膚の炎症を抑えるステロイド剤、二次感染の細菌をやっつける抗生物質を症状にあわせて使います。抗真菌成分を含むシャンプーで薬浴をすることもあります。治療には通常2〜3カ月かかり、やめてしまうと再発することもあるので根気強く行いましょう。
対策1:犬に触ったらしっかり手を洗う
感染した犬の世話をしたらしっかり手を洗い、手についてしまった真菌を落としましょう。触れる場合は、感染を予防するためできるだけ使い捨て手袋などを使用するとよいでしょう。
対策2:部屋の掃除をこまめに行う
皮膚糸状菌は、抜け毛やフケにも付着しており、他の動物や人への感染源となります。掃除機をこまめにかけたり、粘着クリーナーを使ってこまめに掃除しましょう。次亜塩素酸ナトリウムでの週2回程度の拭き掃除も効果があります。犬が使用した寝具は買い替えるか、2~3回洗濯をしてから使用してください。

犬の真菌症②|マラセチア皮膚炎・外耳炎
マラセチアは、犬の皮膚や耳の中に常在する酵母様真菌です。体の免疫力が弱まると異常に増殖し、皮膚炎や外耳炎を起こします。マラセチアは、増殖すると独特の「ツーン」という酸っぱい匂いがします。

マラセチア皮膚炎・外耳炎の特徴
この病気は、一度治っても何度も繰り返しやすいという特徴があります。そのような犬の特徴として、以下のようなものがあります。
- 食物アレルギーやアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患を持っている
- 元から乾燥肌である
- 脂漏症(しろうしょう)など皮膚病の治療中である
- 甲状腺機能低下症やクッシング症候群など内分泌系の病気を持っている
アメリカン・コッカー・スパニエル、ダックスフンドなど、耳が垂れている犬は通気性が悪く外耳炎になりやすいと言われますが、耳の立った犬でも外耳炎になることはあり、耳の形状よりも、犬の皮膚の状態や免疫力などの体質が大きく関係していると考えられています。
また、梅雨など湿気の多い時期は細菌が増殖しやすいため、皮膚炎や外耳炎が悪化しやすいと言われています。
次に、マラセチア皮膚炎と外耳炎の症状をみていきましょう。
マラセチア皮膚炎の症状
脇の下や内股、耳や口の周り、指の間、肛門周囲など、湿気がこもりやすい場所によく発生します。
- 皮膚のかゆみ
- ベタベタした黄色っぽいフケが出て、体がベタつく
- 皮膚が赤くなったりや発疹ができたりする
- 体から酸っぱい匂いがする
症状が長く続くと、皮膚がゴワゴワする苔癬化(たいせんか)という症状や、皮膚の色が黒っぽくなる色素沈着という症状が現れます。
マラセチア外耳炎の症状
健康な犬の耳には匂いはなく、耳垢も外耳道に白〜淡黄色の耳垢が少量付く程度です。
マラセチア性の外耳炎では以下のような症状が現れ、犬は耳の不快感から頻繁に頭を振る、足で耳をかく、床に耳を擦り付けるといった行動をするようになります。
- 耳のかゆみ
- 外耳道が赤くなったり腫れたりする
- 耳からツーンという独特な匂いがする
- 茶色〜黒の耳垢が外耳道にベッタリと付く
耳の症状を放置すると、耳の深部に炎症が広がって中耳炎になったり、耳を擦った影響で耳の血管が破れ皮膚の下に血液がたまる耳血腫(じけっしゅ)という病気になることもあります。耳の病気を疑った場合は、速やかに動物病院を受診しましょう。
検査法
皮膚のフケや耳垢を顕微鏡で観察します。マラセチア独特の酸っぱい匂いも重要な判断材料になります。
治療法
皮膚糸状菌症と同じく、抗真菌薬、ステロイド薬、抗生物質を併用しながら治療します。薬浴も、皮膚の清潔さを保ち、マラセチアの増殖を抑えるために重要です。
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犬の薬浴について

犬の皮膚病治療では、薬浴は患部を清潔に保つためにとても重要です。治療目的で薬浴を行う場合は、獣医師から抗菌・抗真菌などの成分が入ったシャンプーを処方されるので、おうちで週2回程度シャンプーをしてあげましょう。調子が良くなっても皮膚の健康状態を保つため月1回程度のシャンプーをおすすめします。
ペット用シャンプーは犬に合わせて作られているので安心
抗菌、抗真菌などの作用があるシャンプーは肌荒れが心配になる飼い主様もいらっしゃるかもしれません。意外かもしれませんが、動物の皮膚は人の皮膚より薄く、角質層は1/3程度と言われています。ペット用に作られたシャンプーは、そのあたりも考慮して作られているので、安心して使ってください。逆に人用のシャンプーを使うと、洗浄力が強すぎて皮膚を痛めてしまうのでやめましょう。
まとめ
犬の真菌症について、飼い主が知っておくべき2つの感染症、皮膚糸状菌症とマラセチア皮膚炎・外耳炎を中心に解説しました。
- 真菌症は、体力や免疫力の弱った犬、皮膚が弱い犬などは注意が必要
- 皮膚糸状菌症は人や同居のペットにもうつることがある
- マラセチア皮膚炎・外耳炎は繰り返しやすい傾向にある
- 真菌症は抗真菌薬、ステロイド剤、抗生物質を併用して治療する
- 薬浴も有効なので、処方されたシャンプーを使い週2回程度行う
普段から犬の皮膚の状態も観察して、真菌症を寄せ付けないようにしましょう。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。