保護犬を想うひと―世田谷譲渡センター等ボランティア 阿部奈津さん

保護犬と現場を支える、大きな力

保護犬たちを支える。

一つずつの行動を積み重ねることで、彼らを取り巻く環境を、社会を変えていく。
ピースワンコが掲げ、実現に向かって少しずつ近づこうとしているのは、そういった高く大きな目標だ。

その活動を支えているのは、志を同じくする人々からの多様な支援。
寄付や遺贈、マンスリーサポーター制度といった資金的援助に加えて、終生預かりボランティアとしての保護犬の受け入れ、もちろん里親になること自体も、保護犬とピースワンコにとって欠かすことのできない重要な助けとなっている。

さらにもう一つ、忘れてはならない大きな支援がある。
各シェルターで保護犬たちの世話や譲渡会のサポートなどを行う、ボランティアの活動だ。
限られた時間とエネルギーを、惜しみなく保護犬たちの散歩や世話に注いでくれるボランティアの人々。

その原動力は、いったいどこから湧き上がってくるのだろう。
自らを保護犬たちの「ばぁや」と称し、2016年末から8年以上、世田谷譲渡センターを中心にボランティアとしてピースワンコの保護活動に携わってきた、阿部奈津さんにお話を伺った。

ボランティア歴9年目の阿部さんとコタ

世田谷譲渡センターから程近いエリアに住む阿部さんは現在、2匹の保護猫と暮らしている。
猫と暮らしつつも「犬派」で、ピースワンコのボランティアを始める数年前までは、愛犬のミニチュアシュナウザーと暮らしていた。

「初めて自分の犬として迎えた子で、愛称はコタ。わちゃわちゃした元気な男の子で、15歳まで生きてくれました」

愛犬との経験から、阿部さんはあることを考えたと話す。

「もう犬は飼えないと思いました。コタの最期の3ヶ月は、横につきっきりの介護の状態で、ゴミ出しやシャワーも急いでこなすような毎日だったんです。飼うなら当然、最期まで看取ってあげたいと思いますが、犬の介護は生半可ではできないですから」

車を持っていないことや独身であること、コタを看取った後、両親の介護のために引っ越した実家近くのマンションがペット不可だったことも理由となって、愛すべき犬との暮らしを手放した阿部さん。
「犬不足だった」という生活を大きく変えたのが、ピースワンコ世田谷譲渡センターだった。

導かれるように、世田谷譲渡センターへ

2016年12月、いつもは通らない裏道を通っていた阿部さんは、たくさんの人が集まっている場面に遭遇する。
その場所は、オープンを迎えたピースワンコ世田谷譲渡センター。
偶然にもオープニングイベントの日に通りかかったのだ。

「少しだけのぞいてみようと中へ入ってみたんです。その際にボランティア募集のことを知って、その場で『やりたいです』と答えていました。ボランティア経験もないし、元野犬なんて見たこともなかったのに。本当にできるのかなと、家に帰ってから逡巡しましたね。でも、やりたい気持ちは止められなくて」

ボランティアだからこそ、気負わず、まずは始めてみることができる。
とにかくやってみようと、阿部さんは心を決めた。

「通りかかったのは運命だと思いましたね。スピリチュアルなことをあまり信じない人間なのですが、これはうちの亡くなった子が『母さん、そんなに犬不足で時間もあるならば、ここでちょっと犬に対してお役に立ちなさい』と言って、私に一番必要な処方箋をくれたんだと」

ボランティアとして、保護犬と触れ合う日々

こうして2016年12月末から、世田谷譲渡センターでのボランティアをスタート。
始めてまもなく「ハマった」と、阿部さんは笑う。

「とにかく何かの役に立ちたかったし、犬たちはどんどん可愛くなるし。それに、オープニングからの1、2ヶ月は当時ピースワンコのプロジェクトリーダーだった大西さんが手伝いに来ていらして、お散歩の注意点やピースの考え方などを教えてもらえたんです。貴重な機会でしたから、1日4枠のシフトのうち、2枠入ったりしていましたね」

ボランティアに通うペースは、多い頃は週5日、現在は週3日。
朝晩の散歩や掃除、ゴミ出しや皿洗い、ワンコの遊び相手などが毎日の主な作業内容だ。

「雑巾を作ったり、フードをおやつ用に小さく切ったりといった、その時に必要な作業もしています。ここでのボランティアは、自分にとって生活の一部。日に2、3時間、自分の時間を犬たちのために使えるチャンスをいただけるのは、ありがたいことだと思っています。仕事を辞めた自分にとっては、社会との繋がりができ、社会貢献の喜びが得られる場でもあるんです」

大規模な譲渡会や同窓会の手伝い、さらにピースウィンズのフェアトレード部での活動もこなす阿部さん。
なかでも一番の楽しみは、家族を見つけて卒業した元保護犬たちの同窓会だ。

「あんなに嬉しいことはないです。幸せそうなワンコがご家族の中心にいて、穏やかになっていたり、無邪気になっていたり。そんな様子を見ると、もうニヤニヤが止まらない。何よりのご褒美ですね。スタッフさんとの再会も、飼い主さんのご様子も、すべてが尊くて」

“プロのボランティア”でありたい

ボランティアも9年目になり、その回数は通算750回を越えるほど。
阿部さんの熱意は、どこからやってくるのだろう。

「ワンコたちが可愛いこともありますが、もう一つの柱は、ピースワンコで働く人たち。おこがましいですけど、スタッフさんの助けになりたい。彼らにしかできない仕事に時間を使えるように、『雑用はボランティアの私にやらせて』とよく言うんですよ」

長年通い、業務の流れを知っているからこそ、できること。
プロのボランティアでありたいというのが、阿部さんのモットーだ。

「あくまでもボランティアだから、でしゃばりすぎないように。以前の自分は過労で心の健康を損なったほどの仕事人間。求められることに110%応えないと気がすまないスタンスでしたから、何事にもきちんと応えたいけど、それ以上になりすぎてもいけないなと」

スタッフたちの情熱を見つめて

ピースワンコの活動を知るほどに、応援したい気持ちが強くなったと阿部さん。
神石高原のシェルターにもすでに3回、足を運んでいる。

「現場で頑張っている人たちは、20代30代の人がほとんど。私がボランティアを始めた当時はピースワンコへの逆風が強くて、非難の声も多かった時期だったんです。でもね、お手伝いしていると分かりますよ。みんな黙々と、目の前の命に向き合って頑張っている。神石の人たちはもちろん、各譲渡センターも、みんなそう。だからもう、若い人たちが情熱を持ってやっていることを応援するしかないですよね」

ピースワンコという組織への期待

さらにもう一つ、阿部さんがボランティアを続ける理由がある。
組織として活動する、ピースワンコへの想いだ。

「保護団体としてある意味、理想だと思うんです。非営利団体として多くのプロジェクトを真剣にやれば相当の資金が必要で、それを捻出する方法を考え出して、実現したいことを進めていくって。スタッフにお給料が出せて、国内に10ヶ所も譲渡センターができて、広報チームもあって、組織として続いてきたじゃないですか。個人では太刀打ちできないほど、犬猫の問題って大きいですから。組織として問題に取り組んできたピースワンコがこれからも活動していけるように、応援し続けたいんです」

社会の変化を共に感じて

現在、阿部さんと暮らす猫たち…左(弥生顔)/ひるね、右(縄文顔)/あくび

この3月、阿部さんは個人的にたびたび訪れている動物福祉先進国ドイツで、動物保護施設「ティアハイム・ベルリン」を見学した。
そこはピースワンコの犬舎のモデルの一つともなった施設で、視察を希望する人々が世界中から集まる場所。
「見学を通して、ピースワンコの施設も充分に誇れるものだと感じた」と、嬉しそうに話してくれた。

「愛護センターからの引き出しや搬送など、大変な現場がある一方で、譲渡センターでのボランティアは体力や時間が限られていても活動しやすいもの。今では世田谷譲渡センターのみで300人を超える登録があります。男性も最近は多いんですよ。街を歩いていて、元保護犬のワンコを見かける機会も増えました。社会の意識が確実に変わってきているのを感じますね」

愛犬を失った後、思いがけず立ち寄った世田谷譲渡センターで始めたボランティア。
情熱に導かれて遠い地まで赴くほどに、その活動は今や、阿部さんの心の大きな場所を占めている。

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取材・執筆:林りん
ライター、編集者、イラストレーター。シニアの愛犬が相棒。インバウンド向け情報メディアの編集部に勤務後、フリーに。雑誌やライフスタイル系WEBマガジンでの編集・執筆、企業オウンドメディアのデレクション、コピーライティング等を行う。近年はイラストレーターとして、出版物の挿絵やノベルティグッズのイラスト等も手がける。

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