やさしい自問自答

静かに、心に問いかける。
「うちの子は、本当に心から幸せなのかな?」
そのやさしい自問自答こそ、ぼくらが愛犬に抱く、深い愛情の証なのかもしれない。
そして、それはきっと、「アニマルウェルフェア」という、動物たちの幸せを願う心と響き合う、あなたなりの問いかけなのだ。
「アニマルウェルフェア」と聞くと、少し難しく、遠い世界の言葉のように感じるかもしれない。でも、それは決して特別なことじゃない。むしろ、ぼくらの日常のすぐそばにあり、愛犬との絆をより深く、より豊かなものにするための、温かいヒントに満ちている。
愛犬の「心」に寄り添うこと

アニマルウェルフェアは、簡単に言えば、動物たちが心身ともに健やかで、満たされた生活を送れるように、ぼくらが心を配ること。そのうえで「5つの自由」という考え方がある。
- お腹が空いたり、喉が渇いたりしない自由
- 暑さや寒さ、雨風から守られ、安心して眠れる場所がある自由
- 痛みや病気から解放され、もしもの時には手当てを受けられる自由
- その子らしく、のびのびと過ごせる自由
- 恐れや不安を感じず、穏やかな心でいられる自由
これらは、ぼくらが愛犬に願う、当たり前の幸せのかたちそのものだろう。
しかし、ぼくらの気づかぬうちに、ほんの少しだけ、その「自由」を窮屈にさせてしまっていることがあるかもしれない。毎日同じ場所への散歩、長いお留守番の寂しさ、あるいは、犬が苦手な音を無理に我慢させてしまっていないか…。
アニマルウェルフェアは、ただ世話をするだけでなく、愛犬がその子らしく、心から生き生きと輝けるように、そっと背中を押してあげること。
そう、それは愛犬の「心」の声に耳を傾け、寄り添うことなのだ。
「うちの子は幸せ?」という問いかけ

「うちの子は本当に幸せ?」
繰り返しになるけれども、この問いは、あなたの愛犬への限りない愛情から生まれる、尊い問いかけだ。
そして、この問いかけがあるからこそ、ぼくらは愛犬の「幸せ」について、より深く、温かく考えることができる。
ぼくらはつい、人間の視点で犬の幸せを想像しがちだ。
「美味しいものをたくさんあげたい」「可愛い洋服を着せてあげたい」「高価なオモチャを買い与えたい」。
もちろん、それらも大切な愛情表現。でも、愛犬にとっての本当の幸せは、目に見える「モノ」だけじゃないはずだ。
彼らは言葉を話さない。
だからこそ、ぼくらは彼らの瞳の輝き、尻尾の揺れ方、耳の向き、そして穏やかな寝顔から、その心のささやきを感じ取ろうとする。
小さなため息や、そっと寄り添う仕草。これらのサインをひとつも見逃さず、「今、うちの子は何を想っているんだろう?」と心を重ねて想像すること。
それこそが、アニマルウェルフェアを日々の暮らしの中に迎え入れる、最初の、そして最も大切な一歩となる。
日常のささやかな彩り

では、どうすれば、愛犬の心に寄り添い、その幸せを深く感じ取ることができるだろう?
「5つの自由」を羅針盤に、日々の暮らしの中でできる、ささやかな工夫を考えてみよう。
1. 満足のいく「食」で、体と心の栄養を
お腹が満たされることは、命の基本。でも、ただ食べるだけでなく、食事の時間が愛犬にとっての楽しみであってほしい。その子の年齢や体質に合った、体にやさしいフードを選び、時には手作りの温かさを添えて。新鮮な水を、いつでも好きな時に飲めるように。食事は、体だけでなく、心の栄養も満たしてくれる大切な時間だ。
2. 安心できる「居場所」で、心落ち着くひとときを
愛犬が心から安らげる場所は、心の拠り所となる。家族の温かい気配を感じつつも、邪魔されずにゆっくりと休める、自分だけの特別な場所。夏は涼しく、冬は暖かく、清潔に保たれた空間は、愛犬の心に穏やかな波紋を広げるだろう。
3. 「健やかさ」への願い、慈しむ手で
愛犬の健やかな日々は、ぼくらのいちばんの願いだ。定期的な健康チェックはもちろん、毎日のブラッシングや歯磨きの時間も、愛おしい触れ合いのひととき。小さな異変にも気づけるように、慈しむ手でそっと触れてあげよう。
4. 「その子らしさ」を解き放つ、自由な心と体
愛犬がその子らしく輝く瞬間は、どんな時だろうか。散歩は、ただ排泄のためだけじゃない。地面の匂いを丹念に嗅ぎ、風の匂いを感じ、新しい発見に目を輝かせる。そんな「探求」の時間を、たっぷりプレゼントしてあげよう。ボールを追いかける無邪気な姿、知育トイに夢中になる真剣な横顔。愛犬が心ゆくまで遊び、体を動かす喜びを感じられる環境を整えてあげること。
5. 「心の安らぎ」を育む、温かい絆
愛犬がぼくらに抱く、絶対的な信頼。それは何物にも代えがたい宝物だ。叱ってばかりで、心を閉ざさせてしまわないよう、いつも穏やかで一貫した態度で接し、愛犬が「この人は味方だ」と心から思える存在でいよう。褒めること、優しく撫でること、抱きしめること。ポジティブな経験をたくさん重ねることで、愛犬の心には自信と喜びが芽生える。
背伸びせずに、等身大で

アニマルウェルフェアの考え方を日々の暮らしに取り入れることは、決して完璧を目指すことじゃない。高価なドッグランに毎日通ったり、最高級のフードだけを与えることが、必ずしも愛犬の幸せにつながるわけではない。
大切なのは、「うちの子は、どんな瞬間に心から楽しそうに、そして幸せそうにしているんだろう?」という、あなた自身の温かい視点だ。
泥んこになって走り回るのが最高の喜びの子もいれば、ただ隣でそっと撫でてもらうだけで、満たされる子もいるだろう。新しいおもちゃよりも、ボロボロになっても大切にしている、お気に入りのぬいぐるみと戯れるのが好きな子もいるはずだ。
愛犬の個性や性格、年齢、体調に合わせて、その子にとっての「たったひとつの幸せ」を見つけてあげること。
そして、その幸せを見つけるために、ぼくら飼い主も自分自身の生活スタイルや、できることを理解し、背伸びせずに、等身大で、温かい心を込めて実践していくことが何よりも大切なのだ。
ある散歩道の情景

夏の盛りを過ぎた、ある日の夕暮れ。
散歩道には、まだ日中の熱がほんのりと残っていたけれど、風はどこかひんやりと、秋の気配を運んでくる。足元にいる愛犬は、ぼくのペースに合わせるように、時折きょろきょろとあたりを見回しながら、尻尾をゆったりと振っていた。
道の脇の草むらに鼻を近づけ、深く、深く、匂いを嗅ぐ。そこに広がる世界は、ぼくには知ることのできない、彼だけの物語だ。
草の露の匂い、先を行く犬の足跡、遠くで響く子供たちの声。そのすべてを、彼は五感の限り受け止めているようだった。
急ぐことはない。ただ、彼がその瞬間の「犬」であることを、心ゆくまで許してあげる。リードを緩め、彼の行きたい方向へ、ほんの少しだけ身を任せる。
すると、彼はうれしそうに駆け出し、短い草丈の茂みの中に顔を突っ込んで、小さな宝物でも探すように夢中になった。
ぼくは、そんな彼の姿を、ただ穏やかに見守っていた。
この子の好奇心を満たし、この子の「したい」を尊重することは、ぼくがしたかったことでもあるんだ。
「自分の犬は本当に幸せなのか?」
この問いかけは、これからもずっと、あなたと愛犬の絆を温め、より豊かな日々を紡いでいくための、大切な心の羅針盤であり続けるだろう。
文と写真:秋月信彦
某ペット雑誌の編集長。犬たちのことを考えれば考えるほど、わりと正しく生きられそう…なんて思う、
ペットメディアにかかわってだいぶ経つ犬メロおじさんです。 ようするに犬にメロメロで、
どんな子もかわいいよねーという話をたくさんしたいだけなのかもしれない。
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