犬と人とのよりよい未来へ、「刑務所」での新たな挑戦の今

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「ほらパクス、おいで。」身をすくめながらもおどおどと顔を上げる黒いワンコと、怯えさせないよう控えめに手を差し出しながら優しく声をかける男性。そんなほほえましい光景が繰り広げられているこの場所は、高い塀に囲まれた尾道刑務支所。黒いワンコ・パクスのお世話をしているのは、この中で過ごす受刑者たちです。

この「保護犬育成プログラム」は、受刑者の更生や社会復帰を支援するための全国初の試みとしてスタートしました。パイロットプログラムが2024年12月に始まってから約半年。参加する受刑者たちやワンコの様子についてレポートします。

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保護犬トレーニングと受刑者更生の両得目指す

このプログラムは法務省矯正局と、全国で犬の殺処分ゼロを目指して犬の保護・譲渡活動を行っているピースワンコ・ジャパンの連携によって実現しました。尾道刑務支所、松江刑務所で受刑している受刑者が保護犬の世話やトレーニングをすることを通じ、更生につなげるという趣旨で実施されています。

プログラムを開始した24年12月のお知らせはこちら

保護犬は元野犬や捨て犬が多いため、人を強く警戒したり怯えたりする子が多く、お世話も一筋縄ではいきません。そんな保護犬に根気強く接して信頼関係を築くという経験は、他者への思いやりや責任感・社会性を身につけること、ひいては更生や再犯防止に効果があると期待されています。

ピースワンコから送り出される保護犬の側にもメリットがあります。犬たちが普段生活しているピースワンコのシェルターでは、将来の一般家庭への譲渡を見据えて日々人馴れトレーニングが行われていますが、普通の家庭とはどうしても環境が異なります。このプログラムに参加することで、知らない人たちと接する機会や、人が常にそばにいる環境に慣れることができれば、将来の一般家庭へのスムーズな譲渡につながるとの期待があるのです。

保護犬パクスの挑戦

今回のパイロットプログラムを実施している尾道刑務支所には、月に約1度のペースで、黒の雑種犬「パクス」、茶色の雑種犬「ロバート」の2頭のワンコが訪れています。プログラムに参加する受刑者は、ピースワンコスタッフから犬との接し方についての説明を受け、リードを持って散歩をさせるなどの人馴れ訓練に挑戦しています。

比較的人に慣れているのはロバート。2024年12月の初対面の日から、受刑者たちとの散歩トレーニング、手からおやつを食べるなどの課題を難なくクリア。愛らしい様子に、受刑者たちからも笑顔がこぼれます。

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一方のパクスは、まだまだ人に対する恐怖心がぬぐえません。初回プログラムでは、車での長旅を経てたどり着いた見知らぬ場所と、大勢の知らない人たちにすっかり怖気づいてしまい、ほとんどトレーニングに参加できずクレートの中に閉じこもることになってしまいました。

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そのパクスが、5月以降のプログラムではなんと尾道刑務支所で受刑者とともにお泊まりすることに。半年の時間が経っているとはいえ、刑務所には通いで月に1回程度訪問しているのみ。限られた機会で、パクスと受刑者はどこまで打ち解けることができたのでしょうか?

初の「お泊まり」トレーニングの成果は?

迎えた5月。怖がりのパクスは相変わらずクレートからなかなか出てこず、腰も引けていますが、散歩トレーニングに参加できるまでに成長していました。このプログラムを通じて、少しずつ、新しい環境や人に慣れてきているのが伺えます。

これならきっと大丈夫と、いざ受刑者2名とのお泊まりへ。宿泊する和室にピースワンコスタッフがパクス用の寝床を用意します。パクスが安心できるスペースとして檻は設置してあるものの、同じ空間で人と一晩過ごすのはパクスにとって初めての経験です。夕方と翌朝のお散歩、ご飯やトイレなどのお世話も受刑者や刑務官に託し、スタッフはいったん引き揚げました。

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翌朝8時半。少しの不安を胸に尾道刑務支所を訪れると、前日と変わらぬ様子のパクスを敷地内で散歩させる受刑者たちの姿がありました。

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無事お泊まりトレーニングをやり遂げたパクス。6月以降のプログラムでも、1泊、2泊と期間を少しずつ長くしながら訓練を継続する計画です。

将来的には、数日という限られた期間ではなく、刑務所の中で受刑者と保護犬が継続的に共同生活をしながらトレーニングをするという形を目指しています。刑務所側で保護犬トレーニングによる更生プログラムが確立されれば、殺処分の危機にさらされた犬の保護を増やしていくことにもつながります。

弱いものに優しく 「当たり前のこと」を取り戻す

なかなか人に心を開けないパクスとの訓練について、受刑者はどう感じているのでしょうか。お泊まりトレーニングの参加者にお話を聞きました。

自身もかつて保護犬を飼っていた経験があるという受刑者の男性は、「当たり前のこと」ができるようになったと話します。

「自分より弱いものに対して優しくするというのは、いわば普通のことだが、その普通のことがまたできるように練習をさせてもらえている」。

刑務所での生活は余裕がなくなりがちで、自分のことしか考えられなくなってしまう時があったという男性。パクスとの関わりは、そんな状態に陥っていた自分を見つめ直すきっかけになっているといいます。パクスには人馴れ訓練を通じて、人と一緒に幸せに暮らせるようになってほしいと願っています。

「犬と触れあっているときの受刑者は、とてもいい表情をしている」と話す刑務所の職員も、プログラムの手応えを感じています。「パクスとの距離をどうやったら縮められるか受刑者同士で自主的に話し合ったり、次にパクスが来るのはいつかと心待ちにしていたり、これまでになかった変化がみられます」と話してくれました。

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2025年6月1日、日本の刑罰の考え方に大きな転換がありました。改正刑法の施行によって、これまでの「懲役刑」「禁錮刑」が「拘禁刑」に一本化されたのです。高い再犯率を問題視し、受刑者の更生や再犯防止に重点を置いた改正と言えます。

刑務所という特殊な環境に身を置いた受刑者が、再び一般社会で普通の生活ができるようにするため、更生に結びつくような指導ができるかは非常に重要になってきています。保護犬との触れ合いがその一助になると分かれば、このプログラムは全国の刑務所で広く取り入れられる可能性があります。

人にとっても犬にとってもよりよい未来をつかむため、ピースワンコは引き続き、関係者の皆様とともにこの保護犬トレーニングを介した更生プログラムを前進させていきます。

お知らせ

2025年10月3日(金) 23:58 放送のTBSのニュース番組「news23」で、刑務所での「保護犬育成プログラム」の活動の様子が紹介されます。番組内ではこれまでの経過や、受刑者とワンコの様子などが紹介される予定です。ぜひご視聴ください。

📺TBS系列「news23」
・放送日:2025年10月3日(金)  23:58~翌0:43
・番組ホームページ:https://www.tbs.co.jp/news23/

※見逃し配信は、TBS系ニュースサイト「TBS NEWS DIG」または  公式Youtube  をご覧ください。

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