
「うちの子やたらあくびが多い気がするけど、大丈夫かな。」そんな不安を感じたことはありませんか?犬のあくびには、眠気だけでなくストレスや体調不良のサインが隠れている場合もあります。この記事では、犬のあくびの意味や見分け方から、飼い主ができる自宅での対応まで詳しく解説します。
犬のあくびの原因は?

犬があくびをする理由は、単に眠いからだけではありません。犬のあくびには感情的・生理的・社会的な要素が複雑に関係しており、犬はあくびを通じて「不快だ」「落ち着きたい」など様々な感情や状態を表現しています。そのため愛犬のあくびの背景を理解することが大切です。
カーミングシグナルとしてのあくび
犬はストレスや不安を感じたときにあくびをすることがあります。これは「カーミングシグナル」と呼ばれる犬特有の感情調整の行動のひとつです。特に初対面の犬とすれ違うとき、診察を待っているとき、苦手な人に撫でられたときなどに見られる行動です。カーミングシグナルはあくびの他に目をそらす・身体をブルブル震わせる・口元を舐めるなどがあります。
健康状態を反映したあくび
犬のあくびは、ときに体の異常や病気のサインの可能性もあります。例えば、低血糖や貧血になると脳への酸素供給が不足し、酸素を取り込むためにあくびが増えることがあります。また、てんかんなど神経系の異常でも、発作の前兆としてあくびが出ることがあるとも言われています。こうしたあくびは通常のあくびと似ていても、実は大きな問題を抱えている場合があるため、変化に早く気づくことが重要です。
飼い主のあくびが移る場合も
犬はとても社会的な動物で、飼い主のあくびに反応して自分もあくびをすることがあります。これは「伝染性あくび(共感あくび)」と呼ばれ、東京大学の研究では、飼い主のあくびが犬にうつる頻度は知らない人の場合よりも高いという結果が出ています。この現象は、犬が人の感情や行動を理解しようとする能力を持っている証拠で、飼い主との信頼関係の深さを示すひとつのサインとも言えます。また、犬同士の間でもあくびが伝染することがあり、これは群れの平和な関係の維持に役立っていると考えられています。
出典:Yawn contagion and empathy in dogs
犬のあくびの意味と見分け方

犬があくびをする場面には、それぞれ異なる意味や感情のサインが隠れています。犬の行動は状況によって意味がまったく異なるため、環境・タイミング・様子をセットで観察することが大切です。
抱っこ・撫でたとき → 嬉しいor嫌がってる合図
愛犬を撫でたり、抱っこしているときのあくびは、「リラックス」もしくは「嫌がっているサイン」どちらの可能性も考えられます。心地よく感じている場合、犬は安心してあくびをすることがあります。一方で、苦手な場所(頭やお腹など)に触れたときや、長時間の抱っこであくびをする場合は、「もうやめて」という拒否のサインかもしれません。
叱っているとき → 反抗ではなく「やめて」の合図
叱っている最中に愛犬があくびをすると、「聞いてないの?」「馬鹿にしてる?」と感じてしまう方もいるかもしれません。しかし、このあくびは“反抗”ではなく、“緊張やストレスによる行動”の1つ。「争いたくない」「気持ちを落ち着けたい」と感じているときの行動で、典型的なカーミングシグナルのひとつです。こんなときは感情的に叱り続けるのではなく行動の意味を理解し、落ち着いて対応しましょう。
遊んでいる最中 → 興奮を抑えようとしている

楽しく遊んでいる最中に突然あくびをする場合、飽きたのではなく、興奮を落ち着けようとしている可能性があります。この行動は、特に子犬や遊び好きな犬に多く見られる傾向です。また、遊び相手(人や犬)とのやりとりが激しくなったときも、あくびで「少し休憩しようよ」「これ以上はやりすぎかも」と伝えている場合もあります。
動物病院・ドッグラン・車中など → 緊張や不快感のサイン
動物病院の待合室や車の中、ドッグランで他の犬といるときなどにあくびをする場合は、苦手な場所での「緊張」「不安」が表れている可能性が高いです。過去に特定の嫌な経験をした犬は、ストレス反応としてあくびをする傾向があります。「この状況は嫌だ」「怖い」という犬からのサインで、放置してしまうとより強いストレスや問題行動につながる可能性もあるため、注意が必要です。
注意すべき「危ないあくび」

あくびは、状況によっては病気の可能性を示す「危険なサイン」のこともあります。ここでは、飼い主が特に注意すべきあくびの状態を紹介します。日常の変化を早めに察知し、適切に対応することが重要です。
頻度が極端に多い
犬が1日に十数回もあくびを繰り返すような場合、通常の生理現象ではなく、異常のサインの可能性が高いです。特に、普段より明らかに回数が増えたときは注意が必要です。いつもと違うと感じたら、動画などで記録を取って早めに動物病院で相談しましょう。
顎が震えたり舌が青い
あくびをしたときに顎が震えていたり、舌の色が紫・青っぽい場合は、呼吸器系・循環器系に異常がある場合があります。このような状態は酸素が十分に行き渡っていない「低酸素状態」を意味し、貧血・心臓病・肺の疾患などが原因となるケースもあります。また、あくびとともに震えや脱力感が見られる場合は、てんかん発作や神経症状の前兆の可能性も。こうした体の異常サインと組み合わさっているあくびには、特に注意が必要です。
あくび以外の症状がある
あくびだけでなく、他の症状が一緒に見られる場合は、必ず病気を疑いましょう。食欲や元気がない、嘔吐、下痢、歩き方の異常、呼吸が荒い、よだれが多いなど、体調不良を示す複数のサインがある場合は緊急性が高まります。そのため「あくびをしている」だけでなく、その前後の様子も観察することが重要です。
あくびに関連する病気

犬のあくびは、さまざまな病気と関連して現れる場合があります。ここでは「あくび」のような症状を示す代表的な病気について紹介します。
心の不調やストレス
犬は長時間の留守番、運動不足、生活の乱れなどのストレスが続くとストレス性のあくびが増加するケースがあります。このような状態が続くと、うつ状態や問題行動から深刻な体調不良につながることもあるため、早めの環境見直しが重要です。
貧血、酸欠状態

酸素不足や貧血状態になると、脳への酸素供給が減りあくびが増えることがあります。一時的な疲労や暑さだけでなく、心疾患・呼吸器疾患・血液疾患の兆候の可能性の場合も。息切れや咳が見られたり、活動量が減っている場合は見逃さずに動物病院で検査を受けましょう。
発作などの神経疾患
てんかんなどの神経疾患では、あくびが発作前後の兆候として出るケースがあります。特に震え・硬直・異常行動などが同時に見られた場合、早急な受診が必要です。犬の発作は見た目でわかりにくい場合もあるため、動画記録や症状の詳細なメモが診察の大きな手がかりになります。
歯のトラブル
犬のあくびが増える背景には、歯や口内の痛み・不快感が関係している場合もあります。虫歯や歯石の蓄積などが進行すると、口を開けることがつらくなるため、回数や様子に変化が現れます。口臭が強い・食べづらそう・口元を触るのを嫌がるなどの行動がある場合は、口腔内トラブルの可能性大です。定期的な歯のケアやチェックを習慣にすることで、口の病気を防ぐことができます。
自宅でできる対処法

自宅でもあくびの意味や原因を理解して、健康を守るためにできることはたくさんあります。ここでは、家庭でできる具体的な3つの対策をご紹介します。
日々の健康チェックを欠かさない

愛犬の異変をいち早く察知するには、毎日の健康チェックが不可欠です。元気や食欲の有無、排便・排尿の状態、口臭、歩き方、被毛や皮膚の状態などをまんべんなく観察しましょう。また、歯周病や口内トラブルを早期に見つけるためには、口の中のチェックも定期的に行うのがおすすめです。愛犬の「いつもの様子」をしっかり把握しておくことが重要です。
あくびの頻度やシーンを観察
愛犬がいつ、どのような状況であくびをするかをしっかり記録しておくことで、その原因や背景が見えてきます。例えば「来客中」「ドッグランで他の犬と会ったとき」「叱ったとき」などメモしておくと、愛犬の性格をより理解できたり、獣医師に相談する際の判断材料にもなります。可能であればスマートフォンで動画を撮っておくのもおすすめです。「いつ」「どこで」「どのくらいの頻度で」など具体的に把握することで、原因に気づきやすくなります。
ストレスに配慮した生活を送る
あくびの多くは「ストレスのサイン」として現れるため、日常生活でストレスを減らす工夫が最も効果的な予防策になります。例えば、安心できる静かな寝床、生活音を和らげる工夫、安心できる散歩コースの選定など、環境面の見直しはすぐにできる対策です。また、過度なスキンシップや急な生活リズムの変化は、犬にとって大きな負担になることも。日々の散歩や遊びの時間をしっかり確保し、適度な運動と刺激を与えることで、心身の健康が安定します。叱りすぎない、犬が自分のペースで休める時間と空間を大切にするなど、心理的な安心を与えることも非常に重要です。
あくびは心と体のメッセージ
犬のあくびは、ただの眠気のサインだけではありません。嬉しいとき、緊張したとき、ストレスを感じたとき、そして体の不調を伝えたいときの大切なサインです。その意味を正しく理解し、日々の様子に目を配ることが、愛犬の心と体の健康を守る第一歩になります。「今日はリラックスしてるね」「この環境は少し苦手かも?」そんな小さなサインに気づけるようになると、愛犬との絆はもっと深まり、お互いにとって安心できる毎日を送れるはずです。
【執筆・監修】
原田 瑠菜
獣医師、ライター。大学卒業後、畜産系組合に入職し乳牛の診療に携わる。その後は動物病院で犬や猫を中心とした診療業務に従事。現在は動物病院で働く傍ら、ライターとしてペット系記事を中心に執筆や監修をおこなっている。















