
夏は、犬にとっても飼い主にとっても大変な季節。愛犬が舌を出して「ハァハァ」「ゼェゼェ」と、息が荒くなったり呼吸が速くなったりする姿を見る機会が増えてきます。
犬の呼吸数の増加には、暑さや運動後に見られる「パンティング」と、安静時にも続く「病的な呼吸困難」があり、見極めが必要です。本記事では、パンティングと呼吸困難の見分け方や、呼吸数に変化が現れる病気、呼吸がおかしいときの適切な対処方法など、夏によくみられる犬の荒い息づかいについて解説します。
犬の「息が荒い」とはどんな状態か

犬の息が荒いという状態は、呼吸数の増加や、呼吸のリズムの乱れなどが当てはまります。しかし「息が荒い」=「病的な呼吸困難」とは必ずしも言い切れません。まず、生理的に行うパンティングと、呼吸困難のときの特徴をみていきましょう。
パンティングは主に体温調節のために行う
パンティングは、犬が口を開けて舌を出し「ハッハッ」「ヘッヘッ」というふうに、速く浅い呼吸で、体温調節やストレス解消のために行います。
パンティングの特徴は以下のとおりです。
- 暑い、運動後、興奮、緊張などきっかけがある
- リズムが一定
- 数分〜十数分で治まる
- その他の症状なし
病的な原因による呼吸困難のサイン
一方、呼吸困難は以下のような症状が見られます。
- 安静時でも止まらない
- 努力呼吸:胸やお腹を大きく動かし、苦しそうに呼吸をする
- 「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった雑音も聞こえる
- チアノーゼ:舌・歯茎が青紫色や白っぽくなる
- 元気消失、食欲低下、ぐったりして起き上がれない
パンティングと呼吸困難の見分けポイント
パンティングと呼吸困難は、次の3つを確認すると区別しやすくなります。
- きっかけがある?
- 安静時も続く?
- 他に気になる症状は?
見分け方をまとめましたので参考にしてください。
| パンティング | 異常な呼吸(呼吸困難) | |
| きっかけ | 暑さ・運動後・興奮時 | 特になし、または安静時から続く |
| 呼吸のリズム | 規則的で浅い | 深い・不規則・努力的 |
| 経過 | 数分〜十数分で収まる | 休ませても改善せず続く |
| その他の症状 | 特になし | 元気や食欲の消失、発熱、咳、舌や歯茎のチアノーゼなど |
犬の息が荒くなる主な病気

生理的なパンティング以外で犬の息が荒くなる病的な原因には、以下のようなものがあります。
- 熱中症
- 呼吸器疾患(気管の病気、気管支炎、肺炎など)
- 心疾患(心不全など)
- アレルギー
- 異物誤飲
- ストレス
- 痛み
それぞれ詳しくみていきましょう。
熱中症

気温が高い日や直射日光を長時間浴びたとき、体温が上がりすぎると犬はまずパンティングで体内の熱を逃がそうとします。しかし、熱の放散が追いつかなくなると、呼吸の変化以外にも症状が現れます。
- よだれの増加
- 元気消失
- 嘔吐・下痢
- 失禁
- 意識障害
- チアノーゼ など
【関連記事】愛犬が熱中症になったら…危険な症状や対策、飼い主が注意すべきポイントを解説
呼吸器疾患
気管支炎、肺炎、気管虚脱など、呼吸器の病気では呼吸がしにくくなるため、呼吸数が増えます。
細菌やウイルスなどの感染症では、以下のような症状が見られることもあります。
- 咳
- 鼻水
- 発熱 など
心疾患(心不全など)
心臓の病気で呼吸数が増えるのは、心臓のポンプ機能が弱まって血液の流れが悪くなることが原因です。体の中の酸素供給量が減ると、これを補うため呼吸が速くなります。
呼吸数の増加以外には、以下のような症状が見られます。
- 咳
- 疲れやすい
- 舌や歯茎のチアノーゼ
- 失神
- 腹水や浮腫
- 心雑音 など
アレルギー
食べ物、花粉などのアレルギー反応で、気道の平滑筋が収縮したり、気道の粘液の量が増えたりすることで呼吸がしにくくなり、呼吸数が増えます。
その他、以下のような症状が現れます。
- 咳
- 鼻水
- 皮膚症状(かゆみ、赤みなど)
- 消化器症状(嘔吐や下痢など)
【関連記事】愛犬のかゆみは食べ物が原因?犬の食物アレルギーの原因や症状、対策を解説
異物誤飲
異物を飲み込むことで気道が狭くなったり、塞がれたりして呼吸が苦しくなると呼吸数が増加します。
ストレス
環境変化や分離不安などで興奮すると、パンティングに似た状態が長く続くことがあります。
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痛み
外傷や内臓の痛みがあると呼吸が浅く速くなり、苦しそうに見えることがあります。
犬の正常な呼吸数の目安とは

犬の安静時の正常な呼吸数は、犬種や年齢によって異なりますが、一般的には以下のような目安があります。
年齢別
- 子犬(~6ヵ月):20〜40回/分
- 成犬(1〜7歳):15〜30回/分
- シニア犬(7歳以上):15〜30回/分(持病がなければ成犬と同程度)
子犬は、体温調整機能が未熟で肺の容量が小さいため、安静にしているときも呼吸数は成犬より多いです。
犬種による違い
- 小型犬は基礎代謝が高く、やや速めの呼吸(20〜35回/分)
- 大型犬は肺活量が大きいため、ゆっくり深い呼吸(10〜25回/分)
短頭種は普段から呼吸に注意が必要

フレンチブルドッグ、パグ、シーズー、ブルドッグといった短頭種は、空気の通り道である上気道が狭く、鼻孔狭窄・軟口蓋過長・気管低形成・喉頭嚢逸脱などの構造異常もあります。
そのため、普段から呼吸に抵抗がかかり、以下のような症状が出やすいです。
- 努力呼吸
- 呼吸にいびきのような雑音が混ざる
- 疲れやすい
- 熱中症になりやすい
- 睡眠時無呼吸
平常時の犬の様子をよく把握しておき、呼吸の異常に気づけるようにしましょう。
呼吸数のカウント方法
犬の呼吸数は、犬の健康チェックに役立つサインのひとつです。以下のポイントに沿って正確に測れるようにしましょう。
時間帯
朝起きてすぐや、夜寝る前など、食事や運動の影響がない安静時に行います。
飼い主の帰宅直後や来客があったときなど犬が興奮しているときも呼吸が乱れるので、犬の様子が収まるまで5〜10分程度待って普段の状態になってから計測しましょう。
姿勢・環境

座っているか、横になってリラックスした姿勢など、静かな環境下で計測します。
睡眠中は呼吸レベルが10〜20%低下し、睡眠のステージによって呼吸のリズムが変化します。計測は犬が起きているときに行いましょう。
測り方
胸郭か腹部の上下運動がわかりやすい部分を目視、そして手で触れて1分間カウントします。吸気+呼気の1セットを1回とカウントします。
1分間計測するのが最も正確な方法です。犬がどうしても動いてしまうなら、正確さには少し劣りますが30秒測って2倍にしたり、15秒測って4倍するという方法で確認してみてください。
3日程度同じくらいの時間に計測し、通常の回数を把握しましょう。
息が荒いときの対処法

病院に行ったほうがよい症状や、おうちで様子を見るときの対処法を解説します。
急いで受診が必要な症状
- 普段の呼吸数+10回以上の増加が収まらない
- チアノーゼ
- 立てない
- 意識が朦朧としている、意識がない
などの症状があれば動物病院に行きましょう。
しばらく様子を観察するときの処置

パンティングや一時的な呼吸の乱れが疑われる場合は、以下の処置を行いましょう。改善が見られない場合は、速やかに動物病院を受診してください。
涼しい場所へ移動
直射日光を避け、風通しのよい日陰やエアコンの効いた室内へ連れて行って休ませます。
安静確保
ケージやクレートに入れて運動を制限し、周囲の刺激を減らして落ち着かせましょう。
体を冷やす
首の後ろ、脇の下、鼠径部(そけいぶ:足の付け根付近)などにタオル越しに保冷剤を当て体温を下げます。冷たすぎる水を掛けると体温が下がりすぎてしまうので、水をかける場合はぬるま湯にするか、濡らしたタオルで体を覆い、扇風機を当てて気化熱で冷やしましょう。
水分補給

水が飲めるようなら、少量ずつゆっくり飲ませてください。大量に与えすぎたり、無理やり飲ませたりすると、嘔吐して喉につまらせた場合、危険です。水が飲めなければ病院を受診してください。
まとめ
犬は体温を下げるためにパンティングをするため、必ずしも、息が荒い=病的な呼吸困難ではありません。
パンティングと呼吸困難を区別するには、
- いつから
- 安静時にも続くか
- 咳やチアノーゼなど他の症状があるか
の3点をチェックしてみましょう。
パンティングなら涼しい場所で休ませて水分補給を。改善が見られない、あるいは明らかな努力呼吸やチアノーゼなどの症状がある場合は、速やかに動物病院を受診してください。
犬種や体型によって多少の違いはありますが、1分間の呼吸数は子犬が20〜40回、成犬以上は15〜30回が目安です。平常時に犬の呼吸数を測って正常範囲を知っておきましょう。日々の呼吸チェックを愛犬の健康管理にお役立てください。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。












