2024年2月29日

災害のモニュメント

そこに住んでいるペットたちはどうしていたか

よりにもよって、という言葉がある。
なにもこんなときに、こんな場所で、計ったかのようなタイミングで、やってこなくてもいいじゃないか、と。

ほんとうにそう思う。
ぼくらの視線はその偶然性に泳ぎっ放しだ。
そのあとに歯ぎしりをすることになる。

能登半島地震は、この日本にまたしても深い爪痕を残した。
そこに住んでいるペットたちはどうしていたか。
飼い主と別れ別れになってしまった子もいただろう。

当然のことだが、人命優先が叫ばれている中で、ペットのための救援活動は厳しい状況にもなる。
多くの人たちが被災している現状で、デリケートな配慮が求められるのは間違いない。

避難所で犬や猫に対する支援物資を配ろうとしても、人間すら十分に物資が行き届いていないところでは、動物のことで声をかけにくい。
犬のためにそんなことをする余裕があるのなら、こっちに支援してくれよ、というのもまた人間社会の正直な話なのだ。

 

現実的な折り合いをつけるということ

もちろんいちばん大事なことは、そこで現実的な折り合いをつけるということだ。
こちらの人にごはんを食べてもらったら、その足もとの犬にごはんをあげてもいい。
そこに救いたい命がある、という点においてのみ、人間だろうがペットだろうが、物言いがつくことはない。

そして、人間の暮らしが立ち行かなければ、ペットたちの幸福もあり得ない。
あなたの愛犬の幸せは、あなたと一緒に生きていくことなのだから。

災害とは、なにを恨むべきだろう。
呪われた正月か、そこに住んでいた不運か、予知能力のない渇いた現実か。
そんなことを呟いても、なんの意味もなく、ぼう然とするだけ。

 

災害時の状況はそれぞれ異なる

実際にまたこのレベルの地震がきたらどうするか、今回は具体的な話にも触れておこう。

まずは、あなたの家の災害対策をあらためて真剣に考えよう。
最初に考えるべきは、あなた自身の命を守ること。
あなたが無事でなければ、愛犬を守ることはできないのだ。

災害のタイプは多岐にわたり、地域や家庭によって必要な対策は異なる。
であれば、各家庭のオーダーメイドの防災計画を考える必要があるのではないか。

はじめに、あなたが身を置いている地域で考えられる災害の調査が大切なのは間違いないだろう。
これは地元自治体のホームページ等から得ることが可能。

次に、現在の住環境を見直すこと。
たとえば、2頭の犬と暮らし、高層マンションに住んでいる場合、停電によりエレベーターが止まり避難を余儀なくされたとき、犬たちをどのように運び、荷物はどうやって携行するかを想像すると、事前に準備すべきものがわかってくるはず。

携帯電話がつながらない場合、家族とどこで合流するかを決めておくことも重要だ。
確実に落ち合えるように、具体的な場所をしっかりと決めておくべき。
たとえば、「あの公園のモニュメントの正面部分」といったように、細部まで明確にしておくことが大切。

住んでいる地域や家族構成、ライフスタイルによって、災害時の状況はそれぞれ異なるものだ。
家族でさまざまな事態を話し合い、かつ状況を見据えることで対策が見えてくることだろう。

 

防災への準備

決していいことではないのだが、ここ数十年の災害によって、より具体的に災害時の状況がイメージしやすくなったのは確かだ。

事前に想像するという行為は、あなたや家族の生命を守る上で重要な判断力を養う一助となる。
もちろん、事前の準備だけですべての災害から身を守るのは不可能だろう。
「完全な防災」とは、そのように口にした段階で完全ではなくなってしまうほどに脆い。
なぜなら相手は自然そのものだからだ。

けれどもその防災への準備が、少しでも「減災」に貢献することはできるかもしれない。

たくさんの人が言う。
「家は壊れてしまったが、家族全員生きていてよかった」と。
その部分さえ守れれば大丈夫なんだ、というラインが必ずある。

もちろんそんな願いすら奪っていくのが災害であり、不幸である。
だが、そのことを認めつつ、それでも犬たちを抱き、進んでいくのがぼくらではなかったか。

 

彼らだって震えている

いずれにしても避難の段階になった際には、犬を連れて同行避難することを強く願う。

さまざまな事情からペットを連れて共に避難できなかった人たちもいただろう。
自宅に数日で戻れるのではないか、という場合でも、避難の際には、何とかして一緒に連れていってほしい。
彼らだって震えているのだ。
あなたの手で、その震えを止めてあげてほしい。

能登半島は、人と犬が暮らす、日本の土地である。
どこかにありそうで、別の地域にはない、唯一無二の場所。
人と犬の営みは確かにそこにあり、モニュメントを形作る。

ここで言うモニュメントとは、記念碑ではない。
物事が次の段階に移るきっかけとなる拠り所、のことだ。

災害がなくなることはないが、ぼくらだって負けっ放しではない。
決してあきらめず、人と犬がなかよく暮らす大地を夢見る。

何度でも言うが、犬や動物たちが暮らしやすい世界は、人間が生きやすい世界だ。

なにも臆することはない、理想を捨てることもない、まだまだこれからだ、と自分に言い聞かせて、いまはなき動物たちに思いを寄せる。

文と写真:秋月信彦
某ペット雑誌の編集長。犬たちのことを考えれば考えるほど、わりと正しく生きられそう…なんて思う、
ペットメディアにかかわってだいぶ経つ犬メロおじさんです。 ようするに犬にメロメロで、
どんな子もかわいいよねーという話をたくさんしたいだけなのかもしれない。

 

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