
犬の肉球は、夏の散歩でダメージを受けやすいパーツのひとつです。特に真夏のアスファルトは60度を超えることもあり、無防備な肉球はやけどや乾燥、ひび割れなどのリスクにさらされます。この記事では、肉球の構造や役割から、夏に多いトラブルの予防法、散歩時の注意点までわかりやすく紹介します。夏が来る前に、愛犬の可愛い肉球を守る準備をしましょう。
犬の肉球の大切な役割

犬の肉球には人間の靴や手袋のように、生活に欠かせない多くの役割があります。肉球は正確には「蹠球(しょきゅう)」と呼ばれています。表面は厚い角質層で覆われ、内部には脂肪組織や弾性線維、コラーゲンなどが豊富に含まれているため、クッションとなり衝撃から守る役目を果たしています。
そして肉球には、犬の唯一の「汗腺(エクリン腺)」があります。肉球からの汗は体温調節を助け、地面との摩擦を高めて滑りにくくします。さらに肉球は、高感度センサーとしての機能もあり、地面の温度や振動、質感を感知できる特殊な神経が発達しています。肉球は、可愛いだけでなく健康を支える重要な存在とも言えるでしょう。
夏の散歩で起こりやすい肉球トラブル
夏になると、犬の肉球は通常よりも多くのリスクにさらされます。特に散歩時は、熱くなった地面や小石・細菌などの影響によってさまざまな症状が出やすくなるため、注意が必要です。
地面の熱による火傷

アスファルトや人工芝などの地面は、夏になると表面温度が60度以上になることもあります。これは人が素足で立てないほどの高温で、肉球にとっても深刻なダメージになります。
特に、日差しが強い午前10時から午後4時ごろまでの時間帯は要注意です。火傷をすると肉球の赤みやひび割れ、水ぶくれが現れやすく、嫌がったり気にする症状がみられます。すぐに異変に気づいてあげることが大切です。
石や砂などによる切り傷

公園や散歩道に落ちている小石やガラス片、金属片などは、犬の足裏に刺さると大変です。軽度の擦り傷でも、進行すると化膿や出血のリスクがあります。また、砂利道も摩擦により角質が剥がれ、炎症や感染症を引き起こす場合もあるため注意しましょう。
細菌感染による炎症
夏は湿気と気温の上昇により、細菌や真菌(カビ)の繁殖が活発になります。足裏や指間の汚れは特に細菌や真菌の温床となり、指間皮膚炎(しかんひふえん)などの皮膚トラブルが増加します。症状が悪化すると足裏が赤く腫れたり、化膿して痒みや痛みが出てしまうため、汚れや湿気の溜まりやすい夏は特に注意しましょう。
注意するべき肉球の異変

肉球のトラブルは、早期発見と対応が肝心です。以下のような症状が見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。
しきりに肉球を舐める
舐める行動は、ストレス・外傷・アレルギー・皮膚炎・異物感などさまざまな原因が考えられます。特に夏は熱による肉球の炎症などが原因で舐めてしまう場合もあり、原因を見つける必要があります。放置せずに動物病院を受診しましょう。
歩き方がぎこちない、痛がる
愛犬が足を浮かせて歩いたり、歩きたがらない場合、肉球に痛みを感じているサインの可能性があります。特に屋外での散歩や遊びの後に見られる場合は、ケガをしているかもしれません。異物や赤み、膿、出血がないかを確認しましょう。
肉球の色の変化
通常の肉球はピンクや黒など、品種や個体差で異なりますが、いつもと色の変化がある場合は注意が必要です。赤みは肉球の炎症や火傷、白さは循環不良や貧血など、ケガだけでなく病気の兆候のこともあります。色の変化に気づいたら、早めに動物病院へ相談するのが安心です。
ついやりがちな肉球のNGケア
ケアをしてあげること自体は良いのですが、人間用のクリームや化粧品、シャンプー、石鹸などの使用は推奨されません。人用の商品には香料やエタノール、防腐剤など犬にとって有害な成分が含まれており、中毒や皮膚炎を引き起こすおそれがあります。
さらに犬用のケア用品を使っていても、塗りすぎてしまうとかえって悪影響です。塗りすぎると汚れや細菌の温床になりやすく、犬にとっても不愉快に感じやすくなります。使用前に獣医師やトリマーに相談するのもおすすめです。
今日からできる肉球のケア方法

肉球の健康を守るには、毎日の積み重ねが大切です。ダメージを受けやすい夏は特に、ケアを習慣化してあげましょう。
散歩後は拭き取り・洗浄で清潔に
散歩後は、地面の細かい砂粒やほこり、雑菌、時には除草剤の残留物など様々な異物が肉球や指の間に付着します。そのまま放置すると皮膚が刺激されて、炎症や細菌感染の原因になります。散歩から帰ったら、まずぬるま湯で軽く洗うか、ペット用のノンアルコールウエットシートで優しく拭き取りましょう。
丁寧に水気を吸い取り、指の間もしっかり乾かすのがポイントです。この習慣だけでも、感染予防やにおいの防止につながります。
犬用の肉球グッズを活用しよう
乾燥やひび割れを防ぐために有効なのが、犬用の保湿グッズです。犬専用の保湿クリームやジェル製品は、無香料・無着色で安全性が高く、天然成分を配合したものも多く見られます。
肉球全体に薄く塗り、塗った後は愛犬が舐めないよう、遊びやおやつで気をそらしてあげるのがポイントです。また、散歩時に肉球の保護スプレーやワックスを使用するのも、熱からの保護や乾燥防止に有効です。
爪と毛のカットで歩きやすく

「爪」と「指間の毛」も肉球のケアにとって重要です。爪が伸びすぎると地面にまっすぐ足が着地できず、歩行異常や肉球の片減りを引き起こします。長い毛は滑りやすく、雑菌や湿気がたまりやすくなる原因にもなります。
愛犬の伸びるペースに合わせて、月1〜2回バリカンやハサミでのカットを行いましょう。不安な場合は動物病院やサロンにお願いするのもおすすめです。
肉球を傷つけないお散歩の工夫

愛犬の足元を守るために、お散歩を工夫してみましょう。少しの意識で、愛犬のお散歩が快適になるはずです。
散歩の時間と場所を工夫しよう
地面の熱や摩擦から肉球を守るために、散歩の場所と時間を工夫してみましょう。日中のアスファルトは太陽の熱を吸収し、気温より20〜30℃高い温度になることもあります。朝の6〜8時、または夕方18時以降など、地面の温度が和らいだ時間帯に散歩することで、熱傷を避けられます。
また公園の芝生や土の道、木陰を歩くことで肉球に優しく、熱中症の回避にもつながります。
アスファルトの温度も要チェック

夏の肉球トラブルの多くは、地面の熱が原因になることが多いです。手のひらで触ってみて、5秒以上触れられないアスファルトは、犬にとっても危険です。特に黒いアスファルトや金属製のマンホールの蓋は熱を集めやすく、リスクが急増します。地面用の温度センサーや散歩前に地面を触ってチェックするなど、しっかり確認すると安心です。
犬用の靴は有効?
犬用の靴は、アスファルトの熱や砂利道でのケガ、雪道での凍傷などに幅広く効果があります。ただし犬にとっては異物感が強く、ストレスになる場合もあるため注意が必要です。使用する場合はサイズと通気性、滑りにくさを確認して、少しずつ慣れていくようにしましょう。
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室内のフローリング環境にも要注意

滑りやすいフローリングもまた、肉球や関節に大きな負担をかけます。ケガをしないよう、滑り止めマットやペット対応フローリングの導入を検討しましょう。肉球や爪に装着できる滑り止めグッズも販売されているため、愛犬に合ったものを選ぶのがおすすめです。
暑い夏は気をつけながら散歩を楽しもう
肉球は非常にデリケートで大切なパーツです。 肉球のちょっとした気配りが、愛犬の健康と笑顔につながります。今年の夏も愛犬といろんなところへ出かけて、夏の思い出をつくってくださいね。
【執筆・監修】
原田 瑠菜
獣医師、ライター。大学卒業後、畜産系組合に入職し乳牛の診療に携わる。その後は動物病院で犬や猫を中心とした診療業務に従事。現在は動物病院で働く傍ら、ライターとしてペット系記事を中心に執筆や監修をおこなっている。