保護犬を想うひと 2 ―世田谷譲渡センター等ボランティア 千葉弥生さん

ボランティアという選択、あるいは生き方について

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犬たちのために、何かをしてあげたい。

人生の一部を、彼らの幸福のために使いたい。

その想いに至ったとき、人はどんな道を選ぶことができるだろう。

たとえば動物医療関係者、トリマー、トレーナー、保護団体のスタッフといった職業に就くことは、ごく自然で意義のある選択だ。

それから、職業として関わるのではない方法だって、たくさんある。

犬を家族とし、その子の命が続く限り愛情を注いで共に暮らしていくこと。

信頼できる組織や保護活動者に寄付し、支援すること。

そして、ボランティアとして犬たちのための活動に携わること。

「犬たちを幸せにしたい。それが私にとって、人生を通しての一番のテーマなんです」

やわらかく凛とした声でそう語るのは、2017年からピースワンコのボランティアを続けてきた、千葉弥生さんだ。

いくつかの転機を経て、ボランティアとして、また里親として、犬たちを支えていくことを選んだ千葉さん。

人生の時間をできるだけ彼らの幸福のために使いたいと考え、今年から、生業の働き方も変えたと言う。

そこには、いったいどんな想いがあったのだろう。

ボランティアという選択、あるいは生き方について、犬たちと過ごしてきた軌跡について、さらにお話を伺ってみよう。

愛読書は犬図鑑、30歳で訓練士の学校へ

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日本盲導犬協会の仲間たちと

千葉さんが、8年半に渡りボランティアに通っているのは、世田谷譲渡センター。

あきる野市と西東京市の譲渡センターにも足を運び、最近は東京事務所での事務ボランティアも始めた。

センターでの業務は、散歩や清掃、人馴れのトレーニング、譲渡会や同窓会などのイベントの手伝いが中心だ。

「愛情を胸に、それぞれの個性や気持ちに寄り添えるよう心がけています。少しずつ楽しいことが増えて、シェルター内でだけでも、その子らしさが出せるようになったら嬉しいですね。都会でのお散歩や人に慣れて、怖いことが減っていけば、譲渡のチャンスも増えるはず。里親様の感覚に近い立場だからこそ、できることがあると感じています」

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西東京ふれあい譲渡センターお散歩ボランティアにて

こんこんと湧く慈しみをもって、保護犬を見守る千葉さんのまなざし。

その源は、幼少期まで遡る。

「物心ついた頃から、なぜか犬が大好き。幼稚園に入る前から毎日、犬図鑑を読んでいたそうです」

図鑑をめくる日々が3年ほど続き、「一番お気に入りの犬種」だったウェスティ(ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア)を迎えることに。

18年を共に過ごし、大切な家族となったその子を看取った数年後、千葉さんは30歳で大きな決断をする。

犬に関わる仕事への憧れに背中を押され、新卒で入社した会社を退職し、日本盲導犬協会の訓練士学校に入学したのだ。

盲導犬訓練士を目指し、学び始めた千葉さん。

しかし次第に「福祉の世界で、犬だけでなく人の人生を背負う」覚悟が自分には足りないと感じるように。

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日本盲導犬協会で担当したワンコたち(茶:ピクシー、白:オペラ)

「盲導犬の訓練は、あくまでも人が主軸。冷静に一線を引いて訓練することが求められますが、どうしても犬を中心に考えてしまって。悩んで限界を迎えてしまい、1年で会社員に戻りました。私の力不足でしたね。それでも、すごく大きな経験になりました。犬のことを深く知る機会にもなりましたし、先生たちが素晴らしくて。やりがいのある仕事で生計を立てている生き方を見せていただいて、『自分はどう生きたいか』を考える上で、すごく得るものが大きかったです。思えば、今の活動に繋がる芽が出始めたのはそこでした」

蓋をしていた想いが、あふれ出して

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世田谷譲渡センターお散歩ボランティア後のふれあいタイム

飛躍の種となった経験だが、当時の千葉さんは失意の渦中。

忙しさを理由に犬への気持ちに蓋をし、数年間を過ごしていた。

転機となったのは、2011年の東日本大震災。

「何かしなきゃと蓋が一気に開き始めて」、毎週末、仙台のシェルターまで車で通い、保護された犬や猫のお世話ボランティアを続けた。

やがて千葉さんは、ある想いを抱き始める。

「自分にできることとして、『一頭の子を迎えて幸せにしよう』と考えるようになりました。被災した動物たちの状況が好転するのは、飼い主さんの元に戻れるか、里親様が見つかるかのどちらか。里親様が現れることで、その子の犬生が変わっていく。そこに活動の終着点があると感じました。一つの命を看取りまで責任持ってお世話するのは、覚悟が必要ですし、家庭や仕事の環境もあったりで、誰もができることじゃないですよね。だから自分自身もまずは、最後までお世話する一頭を迎えて、幸せにしたいと思ったんです」

たどり着いた、一番大切なこと

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愛犬のタンタン

千葉さんは間もなく、劣悪な環境のブリーダーからレスキューされた1歳のトイプードルを家族に迎えた。

タンタンと名付けたその子は、現在11歳。

一緒に過ごしてきた10年の間、いい時も悪い時もかたわらに寄り添い、癒しと活力になってくれている。

「2017年1月に亡くなった父の闘病にも、ずっと寄り添ってくれました。この子がいたことで、父も救われているところがたくさんあったと思います。自宅で過ごせた最期の1ヶ月、この子は毎日、父のベッドで寝て、そばにいてくれましたね。本当に大きな存在です」

当時を思い出し、言葉に詰まりながらも、

「だからこそ、これからはボランティア活動を通じて、保護犬たちに寄り添っていきたい」と想いを語ってくれた千葉さん。

ピースワンコのボランティアを始めたのは、父を看取った同じ月のこと。 世田谷譲渡センターが2016年末にオープンしたと知り、すぐに手を挙げた。

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闘病に寄り添ってくれたタンタンと父の手

「父を看取り、『人生は有限なんだ』と強く感じたんです。自分はちょうど人生の折り返しを迎える年代。残りの時間を何に費やしたいかを考え、これからは犬たちのためのボランティアを主軸とした人生にしたいと、強く思うようになりました」

限りある人生で、できるだけボランティアを。

それが実現できる生き方に変えたいと、千葉さんは独立の準備を進め、昨年、退職して小さな会社を設立。

仕事に使う時間を減らし、ボランティアを中心とする生活へと、今年から本格的にシフトした。

「長い旅をして、理想に近い今の生活にたどり着けました。犬たちの幸せに人生の時間を使えることが、私にとって一番の幸せであり、豊かな生き方。何年もかけてそれに気付いて、その気持ちに従って行動していったから、たどり着けたんだと感じています」

1日1日が愛おしい、豊かな人生

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西東京ふれあい譲渡センターお散歩ボランティアにて

ボランティアへの一歩を踏み出したことから、自らの願いに気付いた千葉さん。

「最初の一歩はハードルが高いもの。何ができるか不安でためらっている人も、小さなことから始めてみることで景色が変わり始めるはず」と微笑む。

「できることを、できるときにするだけでいいんです。譲渡センターのボランティアさんは、保護犬の幸せという同じ目標を持った、愛情たっぷりの方ばかり。そういった場に身を置けること自体も心地いいんですよ。この子たちへの愛さえあれば、お手伝いしていただけることが、きっとあります」

楽しいから続けられていると笑いながら、保護犬と触れ合うボランティアは「ほぼ推し活です」と、千葉さんは目を細める。

その言葉通り、その日散歩した犬たちの写真を撮り、振り返れるようノートに貼ってまとめているのだ。

「一期一会を大切にしていて。人だけでなくワンコも、長い地球の歴史の中で、同じ時代に生まれてきた命。その子と一緒に時を過ごせること自体が特別で、幸せなんです」

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ワンコたちとの一期一会を振り返るノートは何冊にも…!

かけがえのない一頭。

そして、その命を譲渡センターまで繋いでくれた各所のスタッフたちの尽力にも報いたい。

神石高原町の本部のシェルターへも何度か足を運び、「命のリレー」の陰の努力を目の当たりにすることで、ここで働く人たちの力になりたいとの思いも、より強くなった。

「里親様に繋ぐために、日々、ひたむきに深い愛情を持って尽力して下さっている譲渡センターの方々、その活動を支える広報や事務を担って下さっている方々、そんなスタッフの皆さんの力になれたら嬉しいんです。私にとっての報酬は、犬たちが幸せになること。お金だけでは得られない大切なものに自分の人生を費やしていけるなんて、本当に豊かだと感じます。幸せで、一日一日が愛しいですね」

苦い挫折や災害の現実、別離の悲しみを通して、自らの望みを見つめ、願う生き方を描いてきた千葉さん。

その温かいまなざしは今日も、愛する保護犬たちへと、惜しみなく注がれている。

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取材・執筆:林りん
ライター、編集者、イラストレーター。シニアの愛犬が相棒。インバウンド向け情報メディアの編集部に勤務後、フリーに。雑誌やライフスタイル系WEBマガジンでの編集・執筆、企業オウンドメディアのデレクション、コピーライティング等を行う。近年はイラストレーターとして、出版物の挿絵やノベルティグッズのイラスト等も手がける。

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