
どこか物悲しく、朗々と響き渡る愛犬の「ワォーン」という遠吠え。普段とは違うその声に驚いたり、何かを訴えているのかと心配になったりする飼い主も多いのではないでしょうか。ご近所への迷惑も気になるところです。
犬の遠吠えは、祖先であるオオカミから受け継いだ本能的な行動だと言われています。しかし、家庭犬の遠吠えには、単なる本能だけではない、さまざまな理由が隠されているのです。
この記事では、犬が遠吠えする背景にある心理を解き明かし、やめさせたいときに家庭でできる具体的な対策について詳しく解説していきます。愛犬の心の声に耳を傾け、より良い関係を築くためのヒントを見つけてください。
犬の遠吠えはオオカミの名残?

犬の遠吠えのルーツを探ると、祖先であるオオカミに行き着きます。彼らにとって遠吠えは、生きていくために不可欠なコミュニケーションツールでした。
仲間とコミュニケーションをとるための本能
オオカミは群れで行動する動物です。広大な縄張りの中で、離れた場所にいる仲間とお互いの位置を確認したり、危険を知らせたり、集合の合図を送ったりするために遠吠えを使っていました。遠吠えの声は遠くまで届きやすく、群れの結束を保つための重要な役割を担っていたのです。この本能が、現代の犬たちにも色濃く受け継がれています。
遠吠えと「無駄吠え」の違い
飼い主を悩ませる「無駄吠え」は、一般的に警戒心や要求、興奮などによって「ワンワン!」と吠え続ける行動を指します。一方で、遠吠えはより本能的なコミュニケーションの意味合いが強い鳴き方です。もちろん、遠吠えも過度になれば問題行動と捉えられますが、背景にある理由は「無駄吠え」とは少し異なります。違いを理解することが、適切な対応への第一歩となります。
犬が遠吠えをする5つの主な理由

それでは、現代の家庭犬はどのようなときに遠吠えをするのでしょうか。そこには、彼らのさまざまな気持ちが隠されています。
理由1:サイレンなどの音に反応している
救急車や消防車のサイレン、あるいは特定の音楽などを聞くと、つられるように遠吠えを始める犬がいます。これは、音の周波数が犬の遠吠えの周波数と非常に近いためです。「仲間が呼んでいる!」と勘違いし、本能的に返事をしているのではないかと考えられています。
理由2:飼い主の不在による分離不安
飼い主が出かけようとしたり、留守番中だったりするにとき遠吠えをする場合、「分離不安」のサインかもしれません。大好きな飼い主と離れることに強い不安や寂しさを感じ、「置いていかないで!」「早く帰ってきて!」という切ない気持ちを遠吠えで表現しているのです。
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理由3:仲間の存在を知らせている

ほかの犬の遠吠えが聞こえてきたときに、呼応して遠吠えをすることがあります。これは、「自分はここにいるよ!」と自分の存在を知らせたり、相手の縄張りを尊重する意思を示したりする、犬社会の挨拶のようなものです。
理由4:ストレスや退屈を感じている
運動不足や、飼い主とのコミュニケーション不足で退屈していると、有り余ったエネルギーを発散させるために遠吠えをすることがあります。また、長時間の留守番や環境の変化など、ストレスを感じている場合にも、不満を訴えるために遠吠えという行動に出ることがあります。
理由5:体調不良や痛みを訴えている
高齢になった犬が、これまでしなかったのに急に遠吠えを始めた場合、注意が必要です。認知症の症状の一つとして、不安感から昼夜を問わず鳴き続けることがあるためです。
また、体のどこかに痛みや不快感があり、飼い主に知らせるために遠吠えで助けを求めている可能性も考えられます。
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【状況別】こんなときの遠吠え、どういう意味?

同じ遠吠えでも、状況によって意味合いは異なります。愛犬の気持ちをより深く理解するために、具体的なシチュエーションごとに見ていきましょう。
| 状況 | 考えられる理由 | 隠された犬の気持ち |
|---|---|---|
| 飼い主の外出時 | 分離不安 | 「行かないで!ひとりにしないで!」 |
| サイレンの音 | 本能的な反応 | 「おーい、仲間か?ここにいるぞー!」 |
| 留守番中 | 分離不安退屈 | 「寂しいよ、早く帰ってきて」「つまらないな…」 |
| 家族の帰宅時 | 喜び興奮 | 「おかえり!会いたかったよ!」 |
飼い主が出かけるときに遠吠えする
外出の準備を始めると不安そうに後を追い、ドアを閉めた途端に遠吠えが始まるのは、分離不安の典型的な症状です。「またひとりになってしまう」という強い不安が、遠吠えという行動を引き起こします。
救急車やサイレンに反応して遠吠えする

これは本能的な反応である場合がほとんどです。犬にとっては、サイレンの音が仲間からの呼びかけのように聞こえているのかもしれません。特に悪意はなく単なる返事ですので、過剰に心配する必要はありませんが、習慣化させない工夫は必要です。
留守番中に遠吠えする
近隣からの苦情で発覚することも多い留守番中の遠吠え。これも分離不安や、何もすることがない退屈さが原因です。飼い主がいない空間で、不安な気持ちを紛らわそうとしたり、気を引こうとしたりしていると考えられます。
家族が帰ってきたときに遠吠えする
飼い主の帰宅時に遠吠えするのは、多くの場合「おかえりなさい!」という喜びの表現です。尻尾を振って嬉しそうにしているなら、再会を喜ぶ気持ちの表れと捉えてよいでしょう。
犬の遠吠えをやめさせたいときのしつけと対策

遠吠えの理由が何であれ、頻繁に続くと近所迷惑にもなりかねません。やめさせたいときには、冷静に、根気強く対応することが大切です。
遠吠えに反応しない(無視する)
サイレンに反応した場合や、飼い主の気を引こうとして遠吠えしている場合は、完全に無視するのが効果的です。ここで「静かに!」と叱ったり、慌てて駆け寄ったりすると、「遠吠えをすると構ってもらえる」と学習してしまい、行動を強化させてしまいます。
遠吠えを止めたら褒める

愛犬が遠吠えを止め、静かになった瞬間に「いい子」「静かね」と優しく褒めて、おやつをあげましょう。これを繰り返すことで、「遠吠えをするよりも、静かにしているほうがいいことがある」と学習させることができます。
ストレスの原因を取り除く
運動不足や退屈が原因の場合は、生活環境を見直すことが重要です。散歩の時間を長くしたりコースを変えたり、室内で知育おもちゃを使うなどして、心と体の両方を満たしてあげましょう。分離不安が疑われる場合は、留守番の練習を短い時間から始めるなど、少しずつ慣れさせていくトレーニングが必要です。
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「静かに」のコマンドを教える
遠吠えを始めたときに「静かに」や「シー」といったコマンドを教えるのも一つの方法です。遠吠え中にコマンドを言い、静かになった瞬間に褒めておやつを与えます。これを根気強く続けることで、コマンドで遠吠えをコントロールできるようになる可能性があります。
遠吠えしやすい犬種っているの?

犬種によって、遠吠えのしやすさに傾向があると言われています。祖先のオオカミに近い遺伝子を持つ犬種や、声を使って狩りをしていた犬種は、その名残で遠吠えをしやすいようです。
スピッツ系の犬種
シベリアン・ハスキーやアラスカン・マラミュートといった、オオカミに近いとされる原始的な犬種グループです。仲間とのコミュニケーション手段として、遠吠えが遺伝子レベルで刻み込まれていると考えられています。
猟犬系の犬種

ビーグルやダックスフンド、バセットハウンドといったハウンド系の猟犬も、遠吠えをしやすいことで知られています。彼らは獲物を見つけたことを、声で遠くの主人に知らせる役割を担っていたため、よく響く声で鳴く習性があるのです。
遠吠えが止まらないときに相談すべき場所

家庭での対策を試みても一向に改善しない場合や、急に始まった遠吠えには、専門家の助けが必要なケースもあります。
まずは動物病院で健康チェックを
特に、高齢犬の遠吠えや、ほかの症状(食欲不振、元気消失など)を伴う場合は、まず動物病院を受診しましょう。認知症や、体のどこかの痛みが原因である可能性を獣医師に診断してもらうことが大切です。原因となっている病気の治療をすることで、遠吠えが収まることもあります。
ドッグトレーナーや行動診療の専門家
健康面に問題がないにも関わらず、分離不安など行動の問題が深刻な場合は、ドッグトレーナーや獣医行動診療科の専門家に相談することをおすすめします。カウンセリングを通じて、その子の性格や生活環境に合わせた、より専門的なトレーニングプランを提案してもらえます。
まとめ
犬の遠吠えは、無駄吠えではなく、ワンコからの大切なメッセージです。その声の裏には、本能的な衝動から、寂しさ、退屈、喜び、そして時には苦痛まで、さまざまな感情が隠されています。なぜ遠吠えをしているのか、その理由を正しく理解し、原因に合った対処をしてあげることが、問題解決への一番の近道です。愛犬が発する心のサインに、愛情を持って応えてあげること。それが、飼い主と愛犬の絆をより一層深め、共に幸せに暮らしていくための鍵となるでしょう。















