
腎不全には、誤食や感染症が原因で急速に進行する急性腎不全と、加齢や他の病気の影響で発症しゆっくりと進行する慢性腎不全があります。
本記事では、犬の腎不全について症状、治療方法、そして慢性腎不全の治療で最も重要なおうちでの食事・水分管理のポイントまで、獣医師がわかりやすく解説します。ぜひ、愛犬の健康管理にお役立てください。
犬の腎不全について

腎臓は尿を作って、体の中の水分やミネラルバランスを調整したり、老廃物や毒素を体外に排出したりする働きがあります。腎不全は、この腎臓の働きが弱って、これらをうまく排出できなくなる状態です。
体格や個体による発症・進行のばらつきがある
犬は小型から超大型まで体格差が大きく、腎不全の現れ方や進行速度も個体差が大きいことが特徴です。
- 小型犬:長生きしやすく慢性腎不全の発症率が比較的高い
- 大型犬:小型犬より寿命が短いことが多く、腎不全に至る前に他の病気で亡くなることも多い
急性腎不全と慢性腎不全の原因

腎不全は、原因や発症の仕方で「急性」と「慢性」に分けられます。
急性腎不全
原因が明らかなことが多く、数時間〜数日で突然発症します。症状が急激に出るため気づきやすく、治療で回復するケースが多いです。年齢に関係なく発症します。
主な原因は、以下のとおりです
- 中毒(レーズン、薬の誤食など)
- 感染症(レプトスピラ症など)
- ケガやショックによる血流不足
レーズンは直接的な腎障害を起こす

犬が食べてはいけない食品には、玉ねぎ、チョコレート、レーズンなどが知られています。これらのなかで、レーズンは腎臓に直接作用を及ぼします。
パンやシリアルのなかのごく少量のレーズンでも命に関わる急性腎不全を起こすことがあり、摂取量と重症度が比例しないのが特徴です。
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二次的な急性腎不全を起こす食品も
玉ねぎは溶血性貧血、チョコレートは神経系や心臓の障害を引き起こします。これらの食品は腎臓に直接ダメージを与えるわけではありませんが、血液の流れが悪くなったり、嘔吐や脱水を起こしたりして間接的に腎臓の機能を悪化させることがあります。
レプトスピラ症
レプトスピラ菌は腎臓に住むのを好む菌で、細胞を壊すことで腎障害を引き起こします。
慢性腎不全

慢性腎不全はゆっくりと進行し、発症時期が明確でないことが多いです。最も多い原因は加齢です。
慢性腎不全の主な原因
- 加齢
- 先天的な腎疾患
- 慢性的な腎炎
- 心不全、高血圧
加齢による慢性腎不全について
犬の慢性腎不全は、7歳以降のシニア期の犬で増えてくる病気です。しかし、猫に比べると発症率は低めです。
それは以下の理由により、腎臓の負担が猫よりも少ないためと考えられています。
- 犬は猫よりもよく水を飲む習性がある
- 老化による腎臓の変性が猫よりも少ない
腎不全の症状

腎不全でみられる症状を、初期と末期に分けて解説します。
初期症状
- 多飲多尿
- 元気がなくなる
- 食欲の減退
- 体重減少
初期の腎不全の症状には特異的なものはなく、体調不良や老化と区別がつかないこともあります。
末期症状
腎臓の機能が約75%失われると、以下のような症状が現れます。
- 嘔吐・下痢
- 皮膚や被毛のかさつき
- 尿が出にくい(乏尿)、全く出ない(無尿)
- けいれん、意識混濁
- アンモニア臭のある口臭
尿毒症の症状があれば、すぐに動物病院へ
腎臓の働きが著しく低下すると尿が出なくなり、アンモニアなどの老廃物や毒素が体中を巡るようになります。この状態を尿毒症といい、痙攣や意識障害などの神経症状が現れます。命の危険もあるため、すぐに受診しましょう。
腎不全の検査と診断

誤食など原因が明らかな場合は、診断はとても早いです。食べてしまったお菓子のパッケージ、薬剤の情報を持参し、食べた量を獣医師に報告してください。
慢性腎不全の場合は、血液検査や尿検査で腎臓の状態を判定し、治療方針を決定します。腎臓は傷ついてしまうと再生しない臓器のため、治療は生涯にわたり継続します。
症状のステージ(IRIS分類)について
腎不全の進行度は、血液検査を元に「IRIS(アイリス)分類」により4段階に評価されます。
- ステージ1:ほぼ無症状。検査でのみ異常が判明する
- ステージ2:多飲多尿など、軽度の症状
- ステージ3:食欲不振、吐き気などの症状が目立つ
- ステージ4:命に関わる深刻な状態
腎不全の治療法

治療法は、急性腎不全と慢性腎不全で異なります。
急性腎不全の治療
急性腎不全は原因に合わせた治療を行います。
- 誤食:催吐薬、胃洗浄などで原因を除去
- 感染症:抗生剤や輸液の投与
慢性腎不全の治療
慢性腎不全は、腎臓の負担を減らして進行を遅らせたり症状をコントロールしたりすることが重要です。
- 食事療法:たんぱく質、ナトリウム、リンなどの摂取量を制限
- 薬物療法:蛋白尿、高リン血症、吐き気などの症状緩和
- 点滴:脱水予防と、老廃物の排泄補助
初期のうちは、動物病院で数日おきに輸液をして体力や食欲の回復をはかります。回復の兆しが見られたら在宅ケアに移行します。
慢性腎不全の犬のおうちケア

急性腎不全は、動物病院での処置でほとんどが回復するため、ここでは慢性腎不全の犬のケアについて解説します。
食事管理が重要
腎不全の治療で最も大切なのが食事管理です。目的は以下のとおりです。
- 老廃物の生成を抑え、症状をコントロール
- 腎臓への負担を軽減しつつ、必要な栄養も維持
- 体力や免疫力を保持
犬は食事管理に比較的順応しやすい

フードは、獣医師に処方された腎臓用の療法食を基本とし、食欲が落ちたときにはフードを温めたりウェットタイプの療法食を混ぜたりと工夫をしてみましょう。
療法食の食いつきは一般のフードに劣りますが、犬は猫よりも療法食を受け入れてくれるケースが多く食事療法の成功率も高めです。
どうしても療法食を食べない場合は体力維持を優先し、子犬用のフードや嗜好性の高いおやつを与えるのも一つの選択肢です。
水分をしっかり摂らせる

犬は散歩中に排尿量や飲水量を目で確認しやすいため、異常に気がつきやすい傾向にあります。健康な犬の1日の飲水量の目安は、体重1kg当たり約50〜60mLです。
体重 | 1日の飲水量の目安 |
3kg | 150〜180ml |
5kg | 250〜300ml |
10kg | 500〜600ml |
20kg | 1,000〜2,000ml |
これらの数値はあくまで目安で、季節や年齢、普段食べているフードの種類によっても適切な飲水量は変化します。たとえば年を取ると飲水量は減りますし、ウェットフードを食べている場合は食事に水分が含まれているため飲水量は減る傾向にあります。
多飲の目安
体重1kgあたり100ml以上/日 の飲水が続く場合は“多飲”とされます。ただし、多飲になる病気は腎不全だけではなく、以下の病気の可能性もあります。
- 糖尿病
- 子宮蓄膿症
- 副腎疾患 など
「最近、よく水を飲んでいる気がする」と感じたら、数日間の飲水量を記録して動物病院で相談してみてください。
定期検診を忘れずに

腎不全は、無症状でも進行していることがあります。定期的に動物病院で血液検査や尿検査を受け、腎機能をチェックしましょう。
まとめ
犬の腎不全について、原因や症状、検査、治療方法、おうちでの食事・水分管理について解説しました。
- 急性腎不全は原因が明らかで、治療で回復することがほとんど。
- 慢性腎不全は加齢が原因のことが多く、生涯にわたり食事と健康の管理が必要。
- 痙攣などの意識障害は尿毒症を起こしている可能性があるため、早く受診する。
- 治療は、療法食での食事管理がメイン。食欲がないときは療法食に限らず食べられるものを与えて、体力を保つ。
- 定期的に受診し腎臓の状態を確認する。
毎日の食事や健康管理、定期的な検診を通じて、愛犬の体調を見守りましょう。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。