
子犬がじゃれついてきて、小さな歯でカプカプと手を噛んでくる。その姿はとても愛らしいものですが、成長に伴い「痛い!」と感じる瞬間も増えてきます。子犬の「甘噛み」は、多くの飼い主が経験しますが、「そのうち治るだろう」と軽く考えるべきではありません。子犬の頃の甘噛みを放置してしまうと、成犬になっても続く噛み癖となり、思わぬ事故につながる可能性もあるのです。
この記事では、子犬がなぜ甘噛みをするのかという理由から、今日からすぐに実践できる効果的なしつけ方法、そしてやってはいけないNG対応までを分かりやすく解説します。正しい知識を身につけ、愛犬とのより良い関係を築いていきましょう。
犬の甘噛みとは?本気噛みとの違い

まず、すべての噛む行動が問題なわけではありません。「甘噛み」と、警戒や攻撃の意思を持つ「本気噛み」は明確に区別する必要があります。
甘噛みは子犬の成長過程で見られる行動
甘噛みは、主に子犬に見られる、じゃれつきや遊びの一環としての行動です。犬は人間のように手を使えないため、口を使って様々なものを確認し、コミュニケーションをとります。甘噛みは、子犬が社会性を身につけ、噛む力加減を学ぶための重要なプロセスなのです。
見分けるポイントは「噛む強さ」と「表情」
甘噛みと本気噛みを見分けることは非常に重要です。甘噛みの場合は、犬はリラックスしており、楽しそうな表情をしています。尻尾を振っていたり、体をくねらせたりするなど、遊びに誘うような仕草が見られます。一方、本気噛みの場合は、犬は歯をむき出しにして唸り声をあげ、鼻にしわを寄せるといった緊張した表情を見せます。これは甘噛みとは明らかに違う威嚇や攻撃のサインです。
犬が甘噛みをする4つの主な理由

愛犬の行動を理解するためには、背景にある理由を知ることが大切です。子犬が甘噛みをするのには、いくつかの理由があります。
理由1:歯の生え変わりでむずがゆい
人間の子どもと同じように、犬も乳歯から永久歯へと歯が生え変わる時期があります。生後4ヶ月から半年の間に、歯茎がむずがゆくなり、不快感を紛らわすために、手近なものを噛んでしまうのです。家具やスリッパだけでなく、飼い主の手足も格好のターゲットになります。
理由2:噛む力加減を学んでいる
子犬はもともと、母犬や兄弟犬とじゃれ合いながら噛みつくことで、「これ以上強く噛んだら相手が痛がる」「遊びが終わってしまう」ということを学びます。これを「噛み抑制」と呼びます。早くに親兄弟と離された子犬は、この学習機会が不足しているため、人間を相手に力加減を学ぼうとします。
理由3:飼い主への愛情表現や遊びの誘い

大好きな飼い主に対して、「もっと遊んでほしい」「注目してほしい」という気持ちから、甘噛みをすることがあります。これは犬にとって自然なコミュニケーションの一つです。噛んだ時に飼い主が騒いだりすると「喜んでいる!」と誤解し、行動がエスカレートしてしまうこともあります。
理由4:退屈やストレスを感じている
エネルギーがあり余っているのに、散歩や遊びの時間が足りないと、犬は退屈やストレスを感じます。有り余ったエネルギーを発散させる手段として、物を噛んだり、飼い主にじゃれて噛むことがあります。
【月齢別】犬の甘噛みはいつまで続く?

甘噛みがいつまで続くのかは、飼い主にとって気になるところです。一般的には成長とともに落ち着きますが、月齢によって甘噛みの理由も変化します。
| 月齢 | 甘噛みの主な理由 | 対応のポイント |
|---|---|---|
| 生後2〜4ヶ月 | 歯の生え変わりによるむずがゆさ | 噛んでも良いおもちゃを与え、欲求を満たす |
| 生後5ヶ月〜1歳 | 遊び要求コミュニケーション | 一貫したルールで「人を噛むのはいけない」と教える |
| 1歳以降 | 癖になっているストレス | 運動量を増やしたり、専門家に相談したりする |
生後2〜4ヶ月:歯のむずがゆさがピーク
この時期は、まさに歯の生え変わりによるむずがゆさが原因であることがほとんどです。そのため、噛むこと自体をやめさせるのは困難です。大切なのは、噛みたい欲求を安全な方法で満たしてあげることです。
生後5ヶ月〜1歳:甘えや遊びの噛みに変化
永久歯が生えそろった後も甘噛みが続く場合は、飼い主への要求や遊びの誘いといったコミュニケーションの意味合いが強くなります。この時期に「人の手を噛むのはいけないこと」を根気強く教えることが、成犬になってからの噛み癖を防ぐ鍵となります。
今日からできる!犬の甘噛みを直す効果的なしつけ方

それでは、具体的にどのようにしつけをすれば良いのでしょうか。ここでは、効果的な4つのステップを紹介します。
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手順1:低い声で「痛い」と伝え、遊びを中断する
愛犬に手を噛まれたら、甲高い声ではなく、低く、短く「痛い」または「ダメ」と伝えます。これは、遊びが楽しくなくなる合図です。すぐにその場で遊びを中断し、愛犬に背を向けて無視をします。これを繰り返すことで、「人を噛むと、楽しい時間が終わってしまう」と学習させます。
手順2:噛んでも良いおもちゃを与える

人の手を噛むのはいけないことだと教えると同時に、噛んでも良い代替品を用意することが不可欠です。ロープやゴムなど、様々な素材の噛むおもちゃを用意し、愛犬が手を噛もうとしたら、すぐにおもちゃにすり替えます。そして、おもちゃを上手に噛んで遊べたら、たくさん褒めてあげましょう。
手順3:手をグーにして噛みにくくする
犬は、ひらひらと動く指先などを噛みたがる習性があります。噛まれそうになったら、さっと手をグーの形に握り込みましょう。犬は噛む場所がなくなり、興味を失いやすくなります。
手順4:噛んだら別の部屋に移動して無視する
「痛い」と伝えても興奮して噛み続ける場合は、飼い主自身がその場を離れるのが効果的です。何も言わずにすっと立ち上がり、別の部屋に1〜2分移動します。犬をケージに入れる「タイムアウト」よりも、飼い主がいなくなる方が「あなたのその行動は受け入れられません」という強いメッセージになります。
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やってはいけない!甘噛みのNGな対応

良かれと思ってやっていることが、実は甘噛みを悪化させている可能性があります。以下の対応は絶対に避けてください。
大声で騒いだり、体罰を与えたりする
噛まれた時に「キャー!」と大きな声を出すと、犬は「飼い主が喜んでいる!」と勘違いし、さらに興奮してしまいます。また、叩いたり、マズルを強く掴んだりする体罰は、犬に恐怖心や不信感を植え付け、飼い主の手を怖がるようになったり、防衛的な本気噛みを誘発したりする原因になります。
噛まれた手を急に引っ込める
噛まれた手を慌てて引っ込めると、犬は動くものを追いかける習性があるため、それを「遊び」だと認識してしまいます。手を獲物だと思わせ、さらに噛む行動を助長してしまうのです。
マズルを掴んで叱る
かつては有効なしつけとされていたマズルコントロールですが、現在では推奨されていません。犬にとってマズルは非常にデリケートな部分であり、乱暴に掴まれると強いストレスを感じます。信頼関係を損なうだけでなく、触られること自体を嫌がるようになる可能性があります。
甘噛みが治らない時に試したいこと

いろいろ試してもなかなか甘噛みが治らない場合は、他の原因が隠れているかもしれません。
散歩や運動の時間を増やす
もしかすると、単純にエネルギーが有り余っているのかもしれません。いつもの散歩コースや時間を少し変えてみたり、ドッグランで思い切り走らせたり、ボール遊びなどを取り入れたりして、心身ともに満足させてあげましょう。十分に疲れることで、問題行動が減少するケースがよくあります。
ドッグトレーナーなど専門家に相談する

どうしても改善しない場合や、本気噛みに近い行動が見られる場合は、一人で抱え込まずに専門家の助けを借りましょう。ドッグトレーナーや獣医師に相談すれば、その子の性格や家庭環境に合った、より具体的なアドバイスをもらうことができます。
まとめ
犬の甘噛みは、子犬の成長過程における自然な行動であり、将来の噛み癖を防ぐためには、子犬のうちからの一貫したしつけが不可欠です。大切なのは、体罰で押さえつけるのではなく、「人を噛むと楽しいことが終わる」「おもちゃを噛むと褒められる」というルールを、愛情を持って根気強く教えていくことです。正しいしつけは、愛犬とのコミュニケーションそのものです。愛犬の気持ちを理解し、適切な対応を続けることで、甘噛みは必ず改善し、より深い信頼関係を築くことができるでしょう。















