
「最近、やたらと水を飲んでいる気がする」
「おしっこの回数が前より多いかも」
このような変化は犬を普段からよく観察していないと見落としがちです。しかし、多飲多尿はさまざまな病気のサインのこともあり、重要な症状の1つです。
本記事では、犬の多飲多尿とはどんな症状か、どのような病気と関係があるのか、飼い主が多飲多尿に早く気づくためのポイントを解説します。早くから治療を始めることが大切な病気も含まれているので、ぜひ参考にしてください。お腹の症状に悩んでいる飼い主はぜひ参考にしてみてください。
多飲多尿とはどんな症状?

多飲多尿は、水をたくさん飲む「多飲」とおしっこの量や回数が増える「多尿」という2つの症状がセットで起きている状態です。このときに体の中で起こっている状況を解説します。
尿量と飲水量の調節の仕組み
体内の水分バランスは、主に脳と腎臓で調節されています。
尿の量を調整するホルモンは、下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモンです。このホルモンは、腎臓に水分の再吸収を促すよう働きかけ、尿量を減らして脱水を防ぎます。腎臓が正常に働いている場合、体は必要な水分と塩分をきちんと再吸収し、適切な尿量を保てます。
逆に、体の中に水分量が増えると分泌される抗利尿ホルモンが減り、腎臓は体内の水分を尿として排出します。これにより尿が増えます。
多飲多尿が起こる理由

脳や腎臓の機能に異常があると、この調節システムがうまく働かなくなり腎臓で水分の再吸収ができなくなります。
その結果、
- 薄い尿が大量に出る
- 体は尿で出てしまった水分の不足分を補うため、水を多く飲もうとする
という状態が起こります。
多飲多尿は単に「飲み過ぎからその分が出ている」というだけではなく、「水分の出入りのバランスが崩れている」状態です。
犬の飲水量の目安
健康な犬の飲水量は、体重1kgあたり50〜60ml/日が目安とされています。以下は、代表的な犬種の飲水量の目安です。
| 犬種 | 平均体重 | 飲水量の目安(1日あたり) |
| チワワ | 2.5kg | 125〜150ml |
| トイプードル | 4.5kg | 225〜270ml |
| 柴犬 | 9.0kg | 450〜540ml |
| ラブラドール・レトリーバー | 30kg | 1,500〜1,800ml |
ただし、犬の年齢や活動量、気温、食事(ドライフードかウェットフードか)によっても飲水量は変動します。あくまで目安としてお考えください。
体重1kgあたり100ml/日以上の水を継続的に飲んでいる場合は、「多飲」と判断される可能性があり、注意が必要です。
排尿の目安と異常の見つけ方
排尿の量、色、回数も健康状態を知る重要な手がかりです。
- 量:一般的には、体重1kgあたり20〜45ml程度/日
- 濃さ(色):淡い黄色で、にごりや強い臭いがない
- 回数:成犬で1日2〜4回程度。子犬やシニア犬では回数がやや増えることも。
尿量を正確に測るのは難しいため、日常的にトイレシーツの吸収量の変化や、排尿の様子を観察する習慣をつけておくとよいでしょう。
犬が多飲多尿になる主な原因と、治療・対処法

犬の多飲多尿の原因には、以下の3つが主に挙げられます。
- 生理的な原因
- 病気によるもの
- 薬の副作用
それぞれ解説します。
生理的な原因
このケースでは、病気ではなく一時的なものと考えられます。
運動後・夏の暑さ
運動後や暑い時期は体温上昇により自然と飲水量が増えます。清潔な水を十分に与え、飲みすぎて吐いたりしないよう様子を見るだけで問題ありません。
ストレス
引っ越しや新しく犬を迎えたなどの環境の変化により、心因性のストレスで飲水量や排尿に変化が起こることがあります。これらは数日で落ち着くことが多いですが、症状が続く場合は病気の可能性も否定できません。
ストレス要因が思い当たらない、環境を見直しても症状が続く、元気がないなど他の症状を伴う場合は動物病院で診察を受けましょう。
病気によるもの
多飲多尿の背景には、以下のようにさまざまな病気が潜んでいることがあります。これらは同じ「多飲多尿」という症状でも、原因や治療法がまったく異なります。
糖尿病
インスリンの異常により血糖値が高くなり、尿中に糖と多量の水分が排出され、多飲多尿になります。放置すると体重減少、失明、感染症のリスクが高まります。インスリンの投与や食事療法による血糖値のコントロールが必要です。
慢性腎臓病

加齢などの原因で腎臓の水分を再吸収する機能が低下し、薄い尿がたくさん出るようになります。慢性腎臓病は進行性の病気のため、療法食や点滴、薬で進行を遅らせます。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
副腎皮質ホルモンの過剰分泌で代謝異常が生じて、多飲多尿を引き起こします。他にも、お腹が膨れる、左右対称の脱毛などの症状も特徴です。治療は内服薬を使い、副腎や下垂体の腫瘍が原因の場合は手術や放射線治療も検討されます。
子宮蓄膿症
子宮に膿がたまる病気で、対応が遅れると命に関わることもあります。発熱、元気消失、多飲多尿、外陰部からの分泌物の排出などの症状が見られます。急いで卵巣、子宮の摘出手術を行います。
尿崩症
脳もしくは腎臓の異常で抗利尿ホルモンが働かなくなる病気です。体が水分を保持できず、常に多飲多尿となります。薬でホルモンを補う治療をします。
薬の副作用
一部の薬には多飲多尿の副作用があります。注意が必要な薬の例として以下のものが挙げられます。
ステロイド剤

炎症や免疫反応を抑えるためにとても有効な薬ですが、副作用として多飲多尿がよく見られます。自己判断で中止するのは危険なため、気になる症状があれば必ず獣医師に相談しましょう。
利尿剤
心臓病などの治療に使われますが、尿量の増加とともに脱水や電解質異常のリスクもあります。定期的に動物病院で血液検査を受け、量の調整をする必要があります。
多飲多尿で病院の受診が重要な理由

多飲多尿の原因は、糖尿病、腎臓病、ホルモン異常、ストレスなどさまざまです。間違った治療を始めてしまうと効果がないだけでなく、症状を悪化させてしまう可能性もあります。
「暑いせいだろう」「年齢のせいかな」といった自己判断ではなく、獣医師に原因を診断してもらうことがとても大切です。
動物病院へ受診するタイミング

以下の状況に当てはまる場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
水を飲む量が明らかに増えている
- 以前より水を補充する回数が増えた
- 体重1kgあたり100ml/日以上の水を飲んでいる
おしっこの回数や量が増えている
- 1日に5回以上の排尿が数日続いている
- トイレシーツの尿の量が明らかに多くなった
- 排尿の色が異常(極端に薄い、にごり、血が混じる など)
多飲多尿に加えて以下の症状がある
- 元気がない
- 食欲が落ちている
- 体重が減ってきた
- 嘔吐・下痢をしている
- 失禁など、トイレの失敗が増えた
観察しておくとよいポイント
受診時に役立つ情報を、日頃からメモしておくと診断がスムーズになります。
- 1日の飲水量
- 排尿の回数と量の変化
- 尿の色やにおいの変化
- いつから症状が見られるか
- 食事や行動の変化(元気・食欲・体重など)
まとめ
犬の多飲多尿の原因はただ暑くて水を飲んでいるだけとは限りません。体の中で水分バランスを調整する仕組みがうまく働いていないサインのこともあります。
多飲多尿が見られる病気には、糖尿病や腎臓病、クッシング症候群などがあり、それぞれ治療法は異なるため、正しい診断と早期の対応が欠かせません。
日々の観察で感じた「いつもと違うかも?」という気づきが、愛犬の命を守る第一歩になります。迷ったときは動物病院で相談することをおすすめします。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。















