
胃腸炎はどの年齢の犬にも起こりやすい消化器のトラブルです。原因や症状はさまざまで、軽い食欲不振から命に関わる重篤な疾患のサインのこともあります。
この記事では、犬の胃腸炎についてよくある原因や、症状、治療方法などを獣医師が詳しく解説します。愛犬の体調の変化に気づいたとき、適切に対応できるように備えておきましょう。
犬の胃腸炎の分類と特徴

胃腸炎とは、胃や小腸、大腸などの消化管に炎症が起きる病気で、主に嘔吐、下痢、食欲不振などの症状が見られます。実際、お腹の調子を崩して動物病院を受診する犬はとても多く、日常的によく診察する病気のひとつです。
胃腸炎は年齢や体格に関係なく起こる可能性があり、特にワクチン接種前の子犬やシニア犬では重症化しやすいため注意が必要です。初期の対応が遅れたり、間違ったりすると、脱水症状や体力の低下を招き、治療が長引く原因になります。
胃腸炎のタイプはさまざまで、症状の持続時間や原因によって以下のように分類されます。
急性胃腸炎と慢性胃腸炎:症状の持続期間による分類
急性胃腸炎は突然発症する胃や腸の炎症で、症状が数日〜1週間程度続きます。原因は以下のように比較的はっきりしていることが多いです。
- 誤食
- 急なフードの変更
- 感染症
- ストレス など
慢性胃腸炎は、2〜3週間以上続く、または繰り返す胃腸の不調を指します。
- 食物アレルギー
- 炎症性腸疾患(IBD)
- 膵外分泌不全
- 腫瘍 など
感染性胃腸炎と非感染性胃腸炎:原因による分類
感染性胃腸炎はウイルスや細菌、寄生虫といった病原体の感染が原因です。病原体に直接触れたり、人の手やペット用品を介した間接的な感染、食べ物や水などを介した感染などがあります。
一緒に生まれた子犬が全頭感染して死んでしまうような強い感染力を持った病気や、同居しているペットや飼い主にうつる病気もあるので注意が必要です。
非感染性胃腸炎は誤食、食物アレルギー、ストレス、ほかの病気の影響など、感染以外の要因で起こる胃腸炎です。こちらは、周りの犬に感染する心配はありません。
犬の胃腸炎でよくみられる症状
犬が胃腸炎にかかると、主に嘔吐や下痢などの症状がみられます。
- 嘔吐:白い泡、胆汁、血液など。吐いた直後にぐったりしている場合は要注意
- 下痢:軟便〜水様便、ゼリー状の粘液便、血便など
- よだれが増える
- 食欲不振、食べない
- 元気がない
さらに、以下のような症状がみられたら要注意です。早めに病院で受診しましょう。
- 血の混じった嘔吐・下痢
- 嘔吐・下痢が24時間以上続く
- 水も飲めない
- 子犬・老犬での急な体調不良
犬の胃腸炎の主な原因

胃腸炎を引き起こす原因には、さまざまなものがあります。
- 感染症(ウイルス、細菌、寄生虫など)
- 食べ物(誤食、食物アレルギーなど)
- ストレスや環境の変化
- ほかの病気に起因するもの
それぞれ詳しくみていきましょう。
感染症(ウイルス、細菌、寄生虫など)
犬の感染性胃腸炎は、症状が急激に悪化することが多く、嘔吐や下痢が見られたら早めの受診と隔離などの対応が必要です。特に子犬やワクチン未接種の犬では命に関わることもあるので注意しましょう。
パルボウイルス感染症
激しい嘔吐や血便を起こし、子犬では致死率も高いウイルス感染症です。感染力が高く、周りの犬にもうつりやすいので、症状が出たらすぐ隔離して治療を始めます。
サルモネラ症
生肉や不衛生な水が感染源になることがあり、人にも感染するリスクがあります。
【関連記事】子犬は特に注意!犬パルボウイルス感染症の症状とワクチンでの予防対策を解説
食べ物(誤食・食物アレルギーなど)

玉ねぎやチョコレート、薬などの誤食では、急な嘔吐や下痢、場合によっては中毒を起こして命に関わる症状を引き起こすことがあります。
また、普段食べ慣れているフードから、別のフードへ急に切り替えたときにも、胃腸が対応できず一時的な不調を起こしやすいです。
特定の原材料に対して食物アレルギーを持つ犬では、アレルゲン(アレルギー症状を引き起こす原因となるもの)を摂取すると嘔吐や下痢、皮膚症状が出ることもあります。
ストレスや環境の変化

犬はストレスに敏感で、以下のような環境の変化により自律神経が乱れ、嘔吐、下痢、食欲不振といった胃腸炎の症状が現れることがあります。
- 引っ越し
- 留守番の増加
- 家族の変化
- 新しい犬との同居 など
ほかの病気に起因するもの
胃腸自体に問題がなくても、以下のような病気によって消化機能が乱れたり、体内のバランスが崩れたりすることで嘔吐や下痢をすることもあり、これを「続発性胃腸炎」といいます。
- 膵炎
- 腎臓病
- 肝疾患
- 甲状腺機能低下症
- 腫瘍 など
胃腸炎の検査と治療法

動物病院では以下のような検査を行い、胃腸炎の原因を調べます。
- 問診:経過や食事内容、誤食の有無などを確認
- 身体検査
- 便検査
- 血液検査
- レントゲン、エコー検査などの画像診断
治療
軽症なら、整腸剤や制吐剤(吐き気や嘔吐を抑える薬)、食事の調整のみで数日で回復します。一方、何度も嘔吐や下痢を繰り返す場合は、点滴や抗生物質の投与、一時的な絶食が必要になることもあります。
また、パルボウイルスなど感染力・致死率が高い病気が原因のときは、入院して治療をします。胃腸症状がほかの病気に起因する場合は、対症療法だけではなく原因となっている病気の治療も同時に行います。
胃腸炎と診断されたときの食事

犬が胃腸炎と診断されたら、まず大切なのは胃腸を休めることです。嘔吐が続いている場合は、半日〜1日程度の一時的に絶食を指示されることがあります。ただし、水分はしっかり与え、脱水にならないよう注意しましょう。
症状が落ち着いてきたら、消化にやさしいフード(療法食や低脂肪・低アレルゲンの食事)を少量ずつ与えます。いつものフードに戻す場合も急に切り替えず、数日かけてお腹の調子を見ながら段階的に戻しましょう。
胃腸炎の予防と日頃の注意点

犬の胃腸炎は、感染症など完全に防ぐことが難しい場合もありますが、日頃の生活環境を整え、健康管理を心がけることで予防できるケースも多くあります。
ここでは、飼い主が日常生活のなかで気をつけたい3つのポイントをご紹介します。
食事管理
お腹の調子を整え、胃腸炎を予防するうえで最も基本となるのが食事管理です。フードの選び方はもちろん、与え方や食材の取り扱いにも注意が必要です。人間の食べ物には、塩分や脂肪が多く含まれているものもあり、犬の健康にもよくないので、与えないようにしてください。
規則正しい日常生活でストレスを減らす
犬が落ち着いてストレスなく過ごせる空間や生活リズムをつくることが大切です。引っ越しなどで生活環境が大きく変わる場合は、犬の様子をよく観察し、必要に応じて接し方を見直してあげましょう。
毎日の散歩で体を動かすと、規則正しい排泄習慣も身につきます。便は健康状態をよく反映するので、チェックも欠かさずに。
ワクチン接種と定期的な健康チェック

パルボウイルス感染症やジステンパーといった病気は重篤な胃腸炎を起こしますが、混合ワクチンの接種で予防することができます。定期的なワクチン接種は、愛犬だけでなく、ほかの犬への感染を防ぐうえでも重要です。
また、健康診断や定期的な便検査を受けることで、寄生虫や内臓の病気など、胃腸に影響を与えるほかの病気の早期発見・予防にもつながります。半年〜年1回を目安に、動物病院で健康診断を受けましょう。
【関連記事】犬の予防接種って必要?狂犬病ワクチンと混合ワクチンの違いから接種時期、方法、値段まで詳しく解説
まとめ
犬の胃腸炎は、食べ物のトラブルや感染症、ストレス、基礎疾患など、さまざまな原因で起こる身近な体調不良です。多くのケースでは整腸剤の投与や食事の見直しを行えば数日で回復しますが、命に関わる病気が原因のこともあります。
犬をよく観察し、嘔吐や下痢が長く続いていたり、血便などの重い症状が見られたりするときは受診して治療を受けましょう。
日頃から食事管理やストレスケア、定期的な健康チェックを意識することで、予防できる胃腸トラブルもあります。愛犬の「いつもと違う」にいち早く気づき、必要な対応を取ってあげましょう。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。















